龍翁余話(827)「万物に 息吹もたらす 卯月かな」

 

春うららの3月下旬、近くの戸越公園へ出かけた。園内では残念ながら桜(ソメイヨシノ)は(当日は)まだ蕾ばかりだったが鮮やかなピンクの陽光桜、柳のようなしだれ枝に純白の花を咲かせるユキヤナギ、艶やかな桃色のハナモモ、“茶花の女王”の異名を持つツバキに出会った。更には、池の脇の囲いの中でも様々な花たちが、それぞれの美を競っている。“池の主”と言われている金色の鯉が珍しく姿を現している。それらを観るとこの季節、万物の息吹(いぶき=生命の活動の表れ)を感じる。4月の別名は『卯月』。どこかに白いウツギの花(卯の花)はないか探したが見当たらなかったものの、戸越公園は今まさに春爛漫、そこで翁、即興で1句【万物に 息吹もたらす 卯月かな】――

    

               陽光桜          ユキヤナギ               ハナモモ

    

               ツバキ          花壇の草花           黄金の鯉

4月(卯月)は草花や動物・魚に息吹をもたらすばかりでなく人間社会にも新たなエネルギー再開発(モチベーション・アップ)の機会を与える。ご承知の通り4月は新年度・入社式・入学式(新学期)の時期、“夢と希望の満ち満ちた月”である。

 

遠い昔の思い出話――【百花繚乱の春、私たち新入生は、歴史と伝統深き○○中学に入学し得たことを至上の喜びとし、諸先生方、先輩各位のご期待に沿うよう勉学に励むことを誓います・・・】これは翁が中学校の、桜吹雪が舞う校庭での入学式で読み上げた“新入生代表の挨拶文”である。こんな難しい文章を12歳の子どもが書けるはずはない。当然、学校の先生が作文した挨拶文だ。入学式当日の朝(式が始まる30分くらい前)礼服を着た、いかつい顔の教師(多分、教頭先生だったと思う)が龍少年(翁)を呼びつけ、筆字で書かれた4つ折りの和紙を渡し「これを、お前が新入生代表で読め」と言った。当時、教師に対して「ノー」は許されない。さっと目を通した龍少年、「百花繚乱(ひゃっかりょうらん)って、どんな意味ですか?」「沢山の花が、いっせいに咲き誇ること、沢山の優れた人物が創り出されること、お前たちの将来を期待する言葉だ」それを聴いた龍少年、誇らしげに声を張って読み上げた。式後、あのいかめしい教師がニコニコ顔で「よかったよ」と頭を撫でてくれた。

 

さて、(前述の通り)4月は“息吹の月、”モチベーション・アップの月“ではあるが、4月1日は「エイプリルフール」と言うバカげた日もある。外国には古くからある風習らしいが、日本には大正時代に新聞などでこの欧米の習慣が紹介され、国民も面白半分に”4月バカ“

を楽しんだそうだ。しかし、この「エイプリルフール」には一定のルールがある。「他人の人間性を傷つけたり財産上の損害を与えるようなウソはつかない、笑って済ませるジョークの範囲に止めること」・・・ちなみに翁の周辺には「エイプリルフール」の習慣はない。

 

4月8日は「花祭り」(灌仏会=かんぶつえ)お釈迦様の誕生をお祝いし、子どもの身体保全・諸願成就を祈る仏教行事。実はこの日は翁の生誕日でもある。子どもの頃、近くのお寺では盛大な「花祭り」が行なわれ、その思い出も数々あるが、それはまたの機会に――

仏教界で重要な仏事が「花祭り」なら、キリスト教の重要祭事は(十字架に架けられ処刑されたキリストが復活したことを祝う)「イースター」(復活祭)だろう。例年、その日は

4月が多いのだが“春分の最初の満月の次の日曜日”と定められているので今年は3月31日だったとか。しかし所によっては4月中に行なう国や地域もあるそうだ。もう1つ、4月の行事で大事なのは29日の「昭和の日」。以前は昭和天皇の誕生日であったが、今は「激動の日々を経て復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす日“としている。

昭和に生まれ昭和に育てられた翁にとって昭和天皇は国父である。したがって翁は、今でも4月29日を“天長節”(天皇生誕日)として昭和天皇を偲んでいる。

 

4月から本格的なスポーツシーズンとなる。すでに始まっている「春の甲子園」(選抜高等学校野球大会)をはじめ「メジャーリーグベースボール」、「日本選手権水泳競技」、翁が最も楽しみにしている「マスターズ(ゴルフ)」、更には「全日本柔道選手権」など目白押し。

ふと、唱歌『早春賦』の4番の歌詞を思い出す。

      ♪春と聞かねば 知らでありしを 聞けば急がるる 胸の思いを 

         いかにせよとのこの頃か いかにせよとのこの頃か・・・

【春を意識しなければ、それほどの思いはなかったのに、諸事活動開始の時季を意識すればじっとしてはいられなくなる。この頃、この思い(何かせねば、の思い)は強まるばかり。さて、何を為すべきか】――これは翁の解釈である。『4月は万物に息吹をもたらす月』、翁も万物の1員。残り日の少ない命ではあるが生きている以上は、やはり“甲斐”を追い続けねば、との思いが強まる『卯月』である・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。