龍翁余話(786)「自転車運転のマナーを学ぼう!」

 

以前、本稿にも書いたが、NHK(BSP)『にっぽん縦断・こころ旅』が好きで(放送がある時期)毎朝7時45分から15分(再放送は夜7時から30分の“とうちゃこ版”)を必ず視ている。これは、俳優・火野正平が相棒のチャリオ(自転車)に乗って日本各地を巡る”旅番組“。旅の目的地は「人生を変えた忘れられない風景」「大切な人との出会いの場所」「ずっと残したいふるさとの風景」など視聴者から寄せられた手紙をもとに自転車で訪ねる(2011年春に始まった)長寿番組。Aチームは主演の火野正平の後ろにカメラ・音声(録音)・監督・メカニック(機材保守)の4人が続き、Bチームはカメラ・音声・助監督のほか機材や部品担当者・自転車修理要員・自動車運転手などのスタッフ構成。

 

翁の過去の映像製作経験から“番組関心点”の第1は、訪問先(手紙)の選択、撮影開始(実行動)に入るまでのロケハン(事前調査)を含む手順、画面に現れないスタッフの動き(働きぶり)、撮影中(行動中)の留意点、手紙を寄せてくれた人の気持ちを考えての訪問先(目的地)の強調映像(締めくくり映像)、編集、MA(仕上げの音入れ)の仕方などが主な関心事だが、道中の風景は勿論のこと、人・動植物との出会いの時や、息切れする上り坂走行時の(火野正平の)表情・仕草・コメントの妙が楽しい。そして“関心点”の第2は(関心事ならぬ)“感心事”である。火野正平の「自転車走行マナー」の立派さ――歩行者や他の車(自動車・バイク・自転車など)に対し、充分に注意を払って、けっして他人の通行を妨げないことや踏切・交差点の“一時停止”の励行などの法令遵守、NHK(公共放送)だから当然と言えばそれまでだが、実に見事な“自転車乗りの模範”、更に、個人、及び互いの安全走行を確認し合うチームワーク・・・“天晴れ”である。

 

若い母親が自転車に幼児を乗せて(時には前と後ろにも乗せて)、スイスイと走り抜けて行く有りさまを見て翁「うまいもんだなあ」と感心させられることがある。勿論、母親も幼児(たち)もヘルメットを被っているし、幼児を乗せて走る自転車は、マナーもしっかり守って慎重運転のようだ。一方、全く歩行者を無視し、かなりのスピードで歩道や狭い道を走り抜ける“暴走自転車”も多く見かける。翁が戸越銀座商店街方面へ行くには自宅(マンション)から歩道に出て直ぐに脇道に入る。その脇道は車1台しか通れない狭い道だが、朝・昼・晩の車類の交通量はけっこう多い。自動車はスピードを落とし“歩行者優先”を心掛けているのに自転車はまるで“我がもの顔”。つい先日、翁が買い物の帰り道、前方を数人の老婦人たちが楽しそうに語り合いながら(その狭い)道に広がって歩いていた、その後ろから自転車に乗った若い男が「そこどけ、そこどけ、自転車が通る」とばかりチリンチリン(自転車ベル)を鳴らして老婦人たちを驚かせる。老婦人たちは(さも、自分たちの方が悪いように思ってか)自転車の運転者に頭を下げて急いで道を譲る。翁、そんな場面に出くわした時は、自転車の運転者を睨みつけるのだが、相手は気づかないのか、気づいても(たいてい)翁の睨みを無視してその場を走り去る。翁、マイカーを乗り回していた頃から「車道は車優先、その他の道は歩行者優先」を心掛けていたので、こんな狭い道は言うまでもなく歩行者の安全通行を妨げてはならない、と、今でもそう考えているので、歩道や狭い道での自転車の暴走(“我が物顔運転”)は実に腹立たしい。

 

翁の住まいの近くには(前述の)「戸越銀座商店街」のほかにもう1つ有名な「武蔵小山商店街」と言うのがある。ここのアーケード内は、朝7時から夜12時までの間は“自転車乗り入れ禁止時間帯”。だから、この商店街では”自転車事故“はほとんど起きない。ところが「戸越銀座商店街」は”自動車通行禁止時間帯“はあるが”自転車の乗り入れ禁止時間帯は無い。”コロナ禍“中でも人通りが多かった商店街だが”コロナ5類“以降(5月8日以降)、外国人(特に韓国・中国・台湾から)の旅行者も加わり、昼間は曜日・時間帯に関係なく”人混み商店街“。そして困ったことに近年、”自転車族“が増えて来た。子どもや若者の自転車はそれなりに上手く人混みを縫って走るのだが中高年者(男女)の自転車事故が後を絶たない。事故、と言っても”人混み商店街”の中だから大事故ではないが、通行人と接触したり、通行人を避けようとして自分が店先や(道路にはみ出している商品の)陳列棚などに突っ込んだり、転倒したり・・・自損は勝手だが、人様にケガをさせれば(これは事故と言うより)事件だ。「戸越銀座商店街」は今や“自転車が凶器”となる危険性がいっぱいのエリアとなっている。

 

「自転車事故の罰則・罰金はたいしたことはない」と思っていたら、それは大間違いだ。自転車は車輛の一種(軽車輛に該当)だから自動車と同様、刑事責任と民事責任が問われ、それなりの懲役刑と罰金刑に処せられる。罰金は、人にケガを負わせた場合は数百万円、死亡させた場合は数千万円(数億円も)・・・ちょっとした違反(道交法違反)でも懲役数年以下、罰金数10万円以下が言い渡される。ちょっとした違反とは、信号無視・酒酔い運転・通行禁止違反・歩道での徐行違反・一時停止違反・通行区分違反・歩道での歩行者妨害・交差点での右折車優先妨害・踏切など指定場所での一時停止違反・(夜間)無灯火運転・携帯電話を使用しながらの運転(安全運転義務違反)、6歳以下の幼児を乗せる以外の二人乗り禁止など、ほとんど自動車と同じ罰則があることを知っておくべきである。

 

警察庁の資料によると「自転車による全国死傷事故件数」は、昨年(2022年)は前年比291件増の6万9985件、全自動車事故の約23.3%、過去最高となっている。「自転車使用者の運転マナーの欠如が主な原因」(警察庁)とのこと――話は冒頭の『こころ旅』に戻るが、“自転車小僧”だった火野正平、今でも“自転車大好き人間”だとか。番組の中でのチャリオへの接し方が実に優しい。「チャリオ、着いたよ、ご苦労さん」――「自転車を愛し、大切に扱うことがマナーに繋がる」のだろう、自転車使用の諸君、見習って貰いたい・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。