リクエストと嬉しいお言葉ありがとうございます☺︎

長くなりそうなので分けさせていただきます🙇🏻‍♀️

事の発端はほんの些細なことだった。

色々タイミングが悪かっただけ。それだけのこと。

そう思いたかったけど、それはきっとお互い溜めてきたもの、日々の蓄積、それらが溢れ出たんだと思う。

私たちにはもうどうすることもできない__

理佐side

2人きりの夜。BGM代わりにテレビをつけてはいるけど、主に聞いているのは由依の楽しそうな話し声。私の幸せそのもの。

由依はいつも楽しそうにメンバーやグループの話をする。土生ちゃんが変な親父ギャグを言ってきたとか美波とこれ食べたとかケータリングがどうだったとか…

由依の鋭いツッコミが器用に交えられたその話はこの上なく面白い。お笑いや話のプロが話しているはずのバラエティー番組の面白さが薄れるほどに。

だけどこの頃その面白さを掻き消すほどのモヤモヤがその存在を主張してくるようになった。

私がグループを抜けて1年ほど経つ今、由依が楽しく活動出来ていることは喜ばしいことのはずなのに、どこか嫉妬心のようなものを感じる。

最近増えてきた名前の呼び間違え、あまりにも楽しそうに話すあるメンバーの話。

浮気なんて疑う気はさらさらないし、そんなことないとわかっているけど、多少のイラつきはある。それが膨らみ続け、隠しきれなくなるのはもう時間の問題だった。

由依side

部屋にBGMのように薄く流れるテレビの音。響く私の話し声。いつからか聞こえなくなった理佐の話し声。

グループを卒業してから理佐は段々と話さなくなっていった。卒業する前まではメンバーの話で盛り上がったり、その日の出来事について妙に真剣に話し合ったり、とにかくお互いひっきりなしに話していた。

グループの中にいると立場上聞き役に回ることの多い理佐が私といる時は、私といる時だけは、聞き役だなんて考えられないほどによく話すことが私は嬉しかった。みんなには見せない顔を私にだけは見せてくれているようで密かに優越感に浸っていた。

だけど今は違う。理佐は私の前でもあまり話さなくなった。聞き役というやつになっている。

別にそれが悪いという訳じゃない。きっと理佐のことだから私にはよくわからない自分の仕事の人の話をするより2人ともがわかるメンバーの話をした方がいいだとか、由依が楽しいなら私も楽しいだとかそんなことを思っているんだろうから。

だけど、ある日のこと。

たまたまゆっかーと会った日のこと。

理佐はよく話していた。聞き役に回る様子もなく楽しそうに話していた。前までは私にだけ見せていた顔をゆっかーに見せていた。すぐそばにいるはずの2人が私には酷く遠く感じられた。

そこからだ。私の中にモヤモヤが募り始めたのは。私の話を幸せそうに聞く理佐を見るのが辛くなったのは。

それでもなんとか私なりに色んな話をしたり、日々の中で話すことを考えたりして。それもどこか苦痛に感じるようになった。

理佐side

由依の話を一頻り聞いて、寝る準備をする。この時ばかりは由依も静かでお互いテキパキと動く。

　「ひか…あ、理佐ー」

まただ。またその呼び間違え。

どうせひかるって呼ぼうとしたんでしょ？

心がじわっと熱く痛む感覚がした。

それでも平静を装う。それが私の仕事だから。

　「んー？」

由依の要件はあれどこにあるっけ？

その要件と呼び間違えを天秤にかけて損した気分になる。

寝る準備を終え、2人揃ってソファーに座ってまた軽く話す。

前までは1番リラックスできる時間だったのにいつからか1番気を張る時間となった。

この時間は由依の気が緩んでいる分、言い間違いが増える。もちろん私の名前だって間違える。それに一々落ち込む。

これがこうで、あれはああの方がいいと思うけど結局こうなって…そんな話を気を張りつつもなんとなくで聞いている。でも急に鮮明に聞こえてくる時がある。

　「ひかる…じゃない、理佐はさー」

ほら、またその言い間違い。

わざとなんじゃないかって思うほどによく私とひかるちゃんを間違える。

今日ばっかりは何故かスルーが出来なかった。

平静を装えなかった。

　「またそれ…？」

今まで溜めていた分なのか、想像以上に低く鋭い声が出た。

　「えっ…？」

怯えたような由依の声。

ここでやめておけばよかったんだと思う。きっと。

由依side

必死に話す中で言い間違いが増えている。特にひかると理佐の名前をよく間違える。それは自覚していた。

　「ひかる…じゃない、理佐はさー」

瞬時に間違えを訂正するけど心の奥底でやってしまったと反省する。

だけどすぐにまた話を再開しようとする…その前に理佐の低く鋭い声が私の鼓膜を刺激した。

　「またそれ…？」

その怒ったような声に心臓が大きく跳ねて無意識のうちに声が漏れる。

　「えっ…？」

　「最近それ多いよね。ひかるちゃんと私の名前の言い間違え。考えてるとどうしても口にも出ちゃうよね。いつもひかるちゃんのこと考えてるからその言い間違い多いんでしょ？」

そう言った声には怒りだとか悲しみだとか寂しさだとかが入り混じっているようだった。

少しの沈黙の後、理佐は「なんてね、」と呟いた。

きっとそれは言い過ぎたと思い、喧嘩に発展しないように怒りも悲しみも何もかもを飲み込んで歩み寄ってくれる理佐の優しさだった。

わかっていた。感じ取っていた。

それなのに私の心は既に怒りというやつに支配されていて、差し伸べられたその手を振り払う選択をした。

　「なんでそんなこと言われなきゃいけないの？私は理佐が全然話さなくなったから必死に話そうってしてて、その中での少しの言い間違いじゃん。しょうがないじゃん。てかどうでもよくない？細かすぎ。めんどくさいよ。」

言ってしまってから後悔する。

理佐は下唇をよく噛んでいた。苦痛に耐える時に理佐がする行為。

　「別に私は話してなんて頼んでないけど。私が話さなくなったからって全部私のせいってこと？由依が言い間違えるのが悪くない？それにどうせ由依だって私が由依と誰かを頻繁に言い間違えたら怒るくせに。」

　「何その態度。今私だったらとかそんな話どうでもいいじゃん。元を辿れば理佐が全部悪いって私は思うけどね？」

思ってもない言葉ばかりが口を衝いて出る。

喧嘩なんかしたくないのに、もはやもう私の気持ちすらもそっちのけで口が勝手に動く。

　「…あっそ。もういいや。全部私が悪いよね。ごめんごめん。」

理佐はバタンとわざと大きな音を鳴らすように扉を閉め、何やら大きな音を立てながら家出て行った。

実はまだ最後まで書き終えていないので、続きまで時間かかるかもしれません…

些細なことで。(前編)