保乃side


憧れだったグループに加入して、憧れだった先輩方と一緒に活動して、幸せだと思った。

だけどそこは当初想像していたキラキラした世界とはかけ離れたような場所だった。

血反吐を吐く思いで努力して先輩に近づこうと必死に走り続けて、手を伸ばして、それでもその背中は追いつくどころか離れていく一方で、あの頃ばかりは本当に死ぬかと思った。

そんなときに手を差し伸べてくれたのが理佐さんだった。
頑張りを認めてくれて偉いねって抱き締めてくれた。

そんな理佐さんに惚れずにはいられなかった。

いつも気付けば目で追っていた。
そうしているうちに理佐さんは由依さんのことが好きだということに気がついた。

最初は失恋したような気分で辛かったけど、すぐに応援しようという気持ちになった。
お二人はお似合いだし、理佐さんが幸せなはそれでいいと思った。

ある日、いつもと変わらぬ撮影なのに理佐さんがひどく緊張しているように見えた。
しばらくその動向を見守っていると理佐さんが由依さんに声掛けて2人で楽屋を出ていった。

それを見て全てを察した。
告白…か。

してはいけないこと、そうわかっていながらも耐え切れず、二人の後をこっそりとついて行き、その会話を廊下から盗み聞きをしてしまった。

しばらく沈黙が続き、由依さんが控えめに「用がないなら…」と言う。

直後、理佐さんが言う。

 「好きなの…!」
 「由依のことが…好き」

心臓がドクッと嫌な音を立てる。
大好きな人が別の人に告白をしている。
当然聞いていて気持ちのいいものではなかった。

 「…態々呼び出して言ってくれなくても知ってるよ笑」
 「私も理佐のこと好きだよ」

 「…そういうんじゃないの」
 「私は…恋愛的に由依のことが…」

 「理佐さ、良くないよ」
 「タラシのレベル高くなりすぎ笑」
 「さすがに揶揄うのは…ね?」

本気で告白する理佐さんを茶化す由依さん。
関わりが浅い癖に言うのは良くないかもしれないけど、由依さんらしくなかった。

どうして…

自然と怒りを込み上げてくる。

 「…そうだよね、」
 「ごめん!冗談が過ぎた」

悲しそうな理佐さんの声。
自分が失恋したかのように心が痛む。
不誠実な由依さんを許せなかった。

そこからしばらくは今と変わらずただ理佐さんをぼーっと目で追うだけだった。

だけどある時思い立った。
理佐さんに利用してもらおう、と。
言い換えれば保乃が理佐さんの弱みにつけ込む。

最低なことだとわかっていてもやるしかなかった。
無理をし続ける理佐さんを放って置けなかった。
そんなことを考えつつも下心がなかったわけではない保乃は最低なんだと思う。

どこか上の空の理佐さんに声をかけ、レッスン終わり。
例の話を持ちかける。

話し始めてみると自分は案外饒舌で上手く話を受け入れてもらえた。
最後に理佐さんが笑ってくれたときは心の底から安心した。

それから理佐さんとは家を行き来したり、待ち時間も空いてる楽屋で2人きりの時間を過ごしたりするようになって距離はこれでもかというほど縮まった。

…だけど、理佐さんは保乃に手を出してくるは一切なかった。
利用していい。忘れる道具として使って欲しい。そう言ったんだから、体の関係を持って忘れようとするものだと心のどこかで思っていた。
だけどするのは深いキスくらいまででそうなることは一切なかった。


理佐さんの家にお泊まりした日。
お酒の力を借りて聞いたことがあった。

 「理佐は保乃に手出さないん?」

 「え?」

 「だから…キス以上のことはしないん?」
 「忘れるには一番手っ取り早いんちゃうん?」

 「あー…そういうこと…」
 「しないよ」

 「なんでなん?」
 「保乃は別にええのに…」

 「保乃が良くても私が良くないよ笑」
 「…保乃を汚したくない」

理佐さんがどこか遠くを見ながら一つ息を吐く。

 「私は…保乃には幸せになって欲しいって思ってる」

 「っ…」
 「保乃は理佐とおるのが…「だめ」

 「私じゃ、だめだから」
 「…今はさ、こうやって利用させてもらっちゃってるけど…」
 「いつかはちゃんと終わらせるから」
 「ほんとにごめんね」

二度目の失恋だった。
保乃じゃだめなんだと知った瞬間だった。
頭がぼーっとして意識が遠退くような感覚の中、微かに「保乃ことは本当に大切に思ってるから」と言う理佐さんの声が聞こえた。

…それで充分。充分だ。




かなり進みが遅くて退屈かと思いますが、次からやっと動き出しますので…‼︎