――俺は今、恐怖に震えている。
理不尽だ。何で俺が?
俺は関係ないのに。俺は通りかかっただけなのに。
3 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:19
俺は今年38歳。
この事件でクビになるまでは某ファーストフード店の店長をしていた。
その当時勤めていた店舗にそいつはいた。そいつを仮にAと呼ぶことにする。
Aはマネージャーとして配属されてきた25才のごく普通の男だった。
仕事もきちっとこなしバイト連中にも信頼されていた。
ファーストフードの店舗の運営は契約社員やアルバイトを
いかにうまく使うかにかかっていると言っても過言ではない。
Aはバイトの扱いもうまく、俺は当初は優秀なのが配属になったなあ、と思っていた。
6 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:20
だがAには隠れた裏の顔があった。裏の顔があったと言うより、Aは異常者だった。
本物の異常者だった。また、Aは「ストーカー」だった。
頻繁に異動をさせられているのもしょっちゅうバイトの女のコと問題を起こすからだった。
だが、「ストーカー」などという行為はAの本当の恐ろしさから比べれば大したことではなかった。
7 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:20
ある日、俺はバイトの女のコたちがAの噂話をしているのを聞いた。
それはずばりAのストーカー行為の噂話だった。
被害者というか、のちに加害者になるわけだが、ストーカーをされていたのは高2のB子だった。
B子は見た目はごく普通の高校生だ。
うちの店舗は極端な茶髪や素行に問題のありそうなバイトは採用しないようにしている。
B子も見た目はごく普通だったが実は男性関係が結構派手だった。
B子の男友達は昔でいうチーマーとかギャングとかといった風体で、明らかに普通ではなかった。
俺が実際にその男たちを見たのは事件のときが初めてだったけれど。
11 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:22
俺の勤めている店舗は都内の郊外店でバックルームの裏側には小さな公園があった。
事件が起きたのはその公園だった。その日、AはB子に公園に呼び出されたらしかった。
AはB子に対して頻繁に電話やメールを繰返し、夜中に自宅に忍び込もうとしたり、
休憩時間中に卑猥な行為をしようとしたりしていたらしい。事実はどうだったのか正確にはわからないが。
13 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:22
俺はその日、いつものように本社に個別連絡と在庫報告をし、そろそろ帰ろうとしていた。
バックルームの外にある物置に使わなくなった什器をしまおうとして公園の前を通ったとき、
なにかざわついた雰囲気を感じた俺は、ふと木立に囲まれた噴水脇を覗きこんだ。
ほんの10メートルぐらい先に男が3人と女が1人いた。「やばい」とか「まずくねえ?」と言った声が聞こえた。
男が1人倒れていた。俺は緊張した。
俺はもともと気が弱く、その喧嘩のあとのような雰囲気が怖くて、見て見ぬふりをして通り過ぎようとした。
ふと女と目が合った。B子だった。俺はドキッとした。男たちも俺に気づいた。
B子と男たちはあっという間に走って逃げて行った。倒れている男だけが残されていた。
情けない話だが巻き込まれるのが怖かった。俺は見なかったことにしてその場を立ち去ろうとし、倒れている男に背を向けた。
直後俺は背後から呼びかけられた。
「店長」と。
倒れていたのはAだった。
19 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:23
俺は動揺しながら「A?Aなの?」と聞いた。そいつがAなのはわかっていたのだが。Aは横になったまま言った。
「切られちゃいました。切られちゃいました。」
Aはズボンとパンツを膝まで下ろされ、下半身から大量に出血していた。
よく見ると下腹部をザックリと切られ、陰茎が今にもちぎれそうになっていた。
物凄い血の量と切り刻まれたAの陰茎を見て、気の小さい俺は心臓が飛び出すほど驚き、
「ひいー」とか「きゃあー」とか意味のない悲鳴を上げながらペタッと地面に座りこんで、失禁してしまった。
俺は泣きながら「救急車ーっ」とか「お前しんじゃうよー」と叫んでいたが、実際は腰が抜けて動けなかった。
やっとの思いで店に戻った。店の電話で119番し、しどろもどろになりながら状況を説明した。
とにかくすぐ来てくれ、と伝え、膝がガクガクして歩けなかったので赤ん坊がハイハイするような感じで店を出て、公園に戻った。
Aは消えていた――。
26 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:24
俺はあっけにとられていた。つい今しがたの出来事は夢だったのかと自問した。
もちろん夢ではなかった。噴水脇には赤黒い血だまりが残っていた。俺は呆然と立ちすくんでいた。
大きなサイレンの音を鳴らしながら救急車が到着した。
俺は店の表側に着いた救急車のところに行き救急隊員を裏の公園まで連れていった。ものすごい数の野次馬が集まっていた。
俺は救急隊員に血だまりを指し示しながら事の顛末を必死に説明した。
俺が必死に説明をしている最中に警察官がかけつけ、その後6台もパトカーが到着し、あたりは騒然とした。
救急車は引き上げることになった。俺はパトカーに乗せられ所轄の警察署に連れて行かれた。そこであらためて顛末を説明した。
後日、本社の社員とともにAの履歴書やシフト表、その他関係書類を持って出頭することになった。
事件現場の公園や店の現場検証も行われた。
だが警察の出した結論は「事件性なし」だった。
つまり俺の「狂言」ということになった。俺は信じられなかった。
じゃあ、あの血はなんだ、と。俺をキチガイだと言うのか、と。
32 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:24
B子は出頭することもなく自宅で何度か事情を聞かれただけだという。
B子はバイトをやめた。学校もやめ、どこだかは伏せられているが関西地方の親戚のもとに身を寄せているらしい。
俺は1ヶ月後、店を解雇された。理由はもちろんこの事件のせいだ。
俺は不当解雇だと訴える気力すらなくしていた。ぼんやりとひきこもった毎日を送っていた。
43 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:25
5月8日──。
朝の5時にアパートのドアを叩く音がした。
俺は昼夜逆転した生活を送っていたので朝の5時といっても普通に起きてパソコンをしていた。
俺はこんな時間になんだろうと思い注意深くドアの覗き穴から相手を見た。
心臓が止まるかと思った。
あの事件以来行方不明になっていたAだった。俺は思わずドアを開けた。
Aが立っていた。だが俺は何も言えなかった。明らかに何かが変だった。
尋常じゃなかった。目つきがおかしい、とか素振りがおかしい、とかではないが、なんとなく、しかし確実におかしかった。
Aは言った。
「アンタガ、B子ヲ、ソソノカシタンダロウ?」
俺がAを目の前にして感じていた違和感が何なのかがわかった。
Aは普通の状態ではなくなっていた。
45 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:25
Aはさらに言った。
「オレハ、モウ、オトコデモ、オンナデモ、ナインダヨ」
俺は怖くなってとっさにドアを閉めようとした。
Aはドアに顔をはさむようにして叫んだ。
「アンタノ、セイダ」
「ツギハ、アンタダ」
俺は手の平でAの顔を押し返すようにして無理矢理ドアを閉めた。
ドアの向こうでもう一度Aが叫ぶのがはっきり聞こえた。
「ツギハ、アンタダ」
52 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:25
俺は恐怖で震えていた。
手の平にさっきのAの顔の感触が残っていた。ぬるりとした嫌な感触だった。
俺はドキドキしながらドアの覗き穴から外を見た。Aはいなかった。
俺は通報しようかと思ったが、あの公園事件を狂言扱いにした警察がまともに取り合ってくれるとは思えなかった。
俺は通報しなかった――。
ふと思った。Aの言葉。
「ツギハ、アンタダ」
「ツギ」
「次」
「次」ってなんだよ?
60 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:26
俺は怖くて眠れなくなっていた。
また覗き穴から外を見た。誰もいなかった。
俺は恐る恐るドアを開けてみた。やはり誰もいなかった。
ほっとした。と、その瞬間ギクッとした。
ドアに外から何かが貼ってあったからだ。
貼ってあったのは紙切れだった。
俺は何かが書いてあるその紙切れをはがすと急いでドアを閉めて部屋に入り、鍵をかけた。
そこであらためて紙切れを見た。細かい字で何かが書いてあった。
ホームページのアドレスのようだった。俺は怖くて何がなんだかわからなくなっていた。
水で顔を洗い「わあっ」と声を出してみた。そうするとなんとなく気持ちが落ち着いた。
俺は勇気を振り絞ってパソコンに向い、そのアドレスを入力した。
68 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:26
Aの作ったホームページだった。
俺はそのグロテスクな内容を忘れることができない。
まぎれもなくおぞましい犯罪の履歴だった。
そこにはB子のことが実名で延々と書き綴られていた。
B子の男友達のことも、俺のことも、公園事件のことも。
そしてそのホームページの最終章は「報復」というタイトルがついていた。
「報復」と名づけられたページを開くとB子の男友達3人の実名と顔写真が晒されていた。
そしてその顔写真の横に矢印がついており、矢印の横にあるのは何かの小瓶の画像だった。
3人の男たちの顔写真の横にはそれぞれ1つずつ小瓶の画像があり、その3つの小瓶1つ1つに何かが入っていた。
入っていたのはすべて切断された陰茎だった。それは作り物ではないと直感した。
72 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:26
俺は吐いた。吐きながら震えていた。
俺はあまりのグロテスクさにページを閉じようとした。
そこでふと気づいた。まだ下に画像があることを。
俺は下の画像を見た。
俺の顔写真だった。俺の小瓶はカラだった。
俺はAの言葉を思い出していた。
「ツギハ、アンタダ」
84 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:27
――俺は今、恐怖に震えている。
理不尽だ。何で俺が?
俺は関係ないのに。俺は通りかかっただけなのに。
2002年5月11日。午前2:27。
俺はまだ
無事だ。
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