
昨日の続きです。
一見すると巨峰みたいな「イルカンダ」はマメ科トビカズラ属の植物で、
「イル」は沖縄方言で「色」の意味、
新しい葉が赤味を帯びることに由来してるらしいけど、
赤い葉はあまり目立たないから、
巨峰の実みたいな毒々しい紫の花の「色」に由来してそうな気がするけどね。
「カンダ」は「かずら(葛)」、
これも沖縄方言で蔓(つる)性植物の意味。
「イルカンダ」は別名「ウジルカンダ」ともいうらしい。
ウジルは「三線(三味線)の雄弦」の意味で、
蔓(つる)が太くて強いので「ウジルカンダ」とのこと。
たしかに、イルカンダの蔓の太さは樹の幹と見間違うくらいの、
子供の太もも、少なくとも大人の二の腕くらいの太さは十分にある。
イルカンダは、やんばる特有の固有種かと思ってたら、
南西諸島から九州(鹿児島、宮崎、大分)あたりまで分布しているらしく、
少しガッカリ。
蔓植物は、丈夫な茎や幹を作る代わりに、
蔓を伸ばすことにエネルギーを傾ける。
普通の樹が大地に根を張り、幹を太らせて、
自ら立ち上がって、天を目指して成長するのに対し、
蔓植物は他の樹に寄りかかり、巻き付きながら、
光の当たるところまでいち早く出て、
葉を広げ、太陽の光を独り占めしてしまう。
なんか反則技のような小ズルさを感じてしまう。
アケビ、カラスウリ、サルナシ、ツルグミ、ノウゼンカズラ、
ノブドウ、フジ、マタタビなど、蔓植物の多くは、
光の少ないところでは育たない陽樹が多いため、
林縁の植物といえそう。
やんばるのイルカンダも道路際の日当たりが良い場所に自生している。
誰もが知ってるアサガオも蔓植物だけど樹ではなく草本、
これも日陰ではなくて日なたに植えるよね。
昔の田舎の子どもは、樹から垂れ下がる蔓から蔓へ、
縦横無尽に飛び回っているジャングルのターザンに憧れて、
よく森で「ターザンごっこ」をしては
蔓が切れては落下してたのを想い出す。
フィリピン原産の蔓植物「ヒスイカズラ(ジェイドバイン)」は
イルカンダと同じマメ科トビカズラ属で、
沖縄本島でも南城市や読谷村、名護市、東村などで栽培されていて
イルカンダと同様に4月から5月のGWの頃まで開花する。
ヒスイカズラの花は、その名前の通り、
宝石の翡翠(ひすい)のような青緑色が特長で、
1m近く垂れ下がる大きな花房に、長さ6cm前後の爪形の花がつく。
ヒスイカズラの花言葉は「私を忘れないで」なんだけど、
コバルトブルーの花の鮮やかな花の色は、
強烈なインパクトがあって、一度見たら、とても忘れられない。
ヒスイカズラは見れる機会があるなら、ぜひ見てほしい。
イルカンダやヒスイカズラはマメ科トビカズラ属だけど、
この近縁種に、インド原産の優曇華(うどんげ)という
仏教の世界では霊花として、
仏教経典では3000年に1度しか咲かないと言われる伝説の花があるらしい。
数千年も生きる長寿の樹木なのか、
めったに花が咲かないのではタネがとれないのだから
取り木や挿し木で増やすのかもしれないけど、
開花した時には金輪(こんりん)王が現世に出現するという。
前にはいつごろ金輪王が出て来たんだろうね。
早く降臨して、世界中の悪い人たちに
天誅(てんちゅう)を下してくれればいいんだけど。
4世紀頃の仏教経典「金光明経(こんこうみょうきょう)」讃仏品には
「希有、希有、仏出於世、如優曇華時一現耳」
とあるし、
「法華経 方便品」の経文の広開顕一 五仏章には、
「仏告舍利弗。如是妙法。諸仏如 来。時乃説之。如優曇鉢華。時一現耳」
「仏舎利弗に告げたまわく、
是の如き妙法は、諸仏如来、時に乃し之を説きたもう。
優曇鉢華の時に一たび現ずるが如きのみ」
と、優曇華が記されている。
日本の古典文学でも、「源氏物語」若紫に優曇華が出てくる。
光源氏が18歳の春に、「わらわやみ」を患い、
京の都の北にある北山の寺で療養して加持祈祷をしてもらい
その治療のあい間に、生涯の伴侶となる幼女の紫の上に出会うんだけど、
源氏が無事に病が回復して下山する時に、お見送りした僧都の和歌の中で
源氏のことを
「まるで優曇華(うどんげ)の花を見たような気がしておりました」
と言って、源氏の希有の美しさを賞賛している。
「光源氏に会えたことは、3000年に一度しか咲かない優曇華の花と同じ」
と、僧が、現世に生きて仏陀や転輪聖王に会えたような
まさに奇跡的な思いだった、というのだから、
光源氏のイケメンぶりはキモタクなんか足元にも及ばないんだよ!
この僧が光源氏に胸キュンしたんだろうね、物語はフィクションだけどさ。
ちなみに光源氏の「わらわやみ」とは、
隔日または毎日一定時間に発熱する病のことで、
多くはマラリヤを指している。
平安時代の京都は、マラリヤ蚊の発生に都合のよい気候や風土環境だった、
ということがいえると思う。
優曇華は、岡本綺堂「半七捕物帳 人形使い」、泉鏡花「白金之絵図」、
田山花袋「道綱の母」、夏目漱石「虞美人草」などの近代文学や、
宮本輝「蛍川」など現代文学にまで出て来るんだけど、
いずれも架空の花、3000年に一度だけ咲く花として記されている。
けど、3000年に一度しか咲かない伝説の花が現実に存在しているらしい。
2010年2月27日、中国江西省九江市廬山区の民家で
優曇華が18輪が咲いたと報じられている。
それホントかいな?
どうせホラッチョでしょ?
大石林山が「幻の花イルカンダが咲いた」としてマスコミに情報提供したのは、
「イルカンダは伝説の優曇華の親戚だ」
ということで、この伝説の花にあやかって、
「イルカンダを幻の花」
と称したんだと思う。
実際にはイルカンダはやんばる固有種ではなくて
南西諸島から九州東部に自生してるんだから、
客寄せパンダ式のチープな発想が何ともさもしいよね。
それでも、沖縄の植物にハマった人が、
どうしても見たくなるのがイルカンダの花らしい。
もちろん自生のだよ。
やんばるの森を特長づける樹木というと、
ドングリをつけるスダジイなどのシイ系樹木や
梅雨を知らせるイジュ、恐竜時代を思わせる木生シダのヒカゲヘゴ、
絞め殺しの木で有名なガジュマル、
そして、太い幹から垂れ下がって咲くイルカンダも、それに入るらしい。
RIN(凛)君散歩では、それらはもちろん、
天然記念物の絶滅危惧種や希少動物まで毎日出逢えるから、
RIN(凛)君が多少粗暴だとしても感謝しないといけないよね。
やんばるの森の中で花を見つけるのは、
地面に落ちている花を見つけて頭上を見上げて花を見つける、
というパターンが多い。
また、イルカンダの花は、
「鼻をつく強烈な悪臭を放つ」
とか文献には書いてあるけど、
私の嗅覚が変なのか、ほとんど臭いとは感じない。
夏ごろに、枝豆、サヤエンドウを巨大化したナタマメみたいな
40センチくらいの平たいサヤ(中に12,13個の実が入っている)を下げるので
今夏はイルカンダのタネを発芽させて、
庭やバナナ園をパープルシャンデリアにしてみようかな。