琉球犬のRIN(凛)君
【琉球犬のRIN(凛)君】

沖縄県における在来犬(琉球犬)や在来豚(アグー)、
在来鶏(チャーン)等は、
沖縄戦によって壊滅的な被害を被りました。

琉球犬は、激戦を免れた沖縄本島北部地域と八重山地域に
わずかに生存していた犬による繁殖で、種族の保存がなされてきました。

戦前から本島北部(やんばる)や八重山において
琉球犬を猟犬として、イノシシ狩りに利用して十分活用されており、
現在でも狩猟を目的とした愛犬家がいるのが現状なのです。

琉球犬は、「琉球犬保存会」の設立に伴ない
命名された言い方で、
それ以前は
「トゥラー(虎)」、
「アカイン(赤犬)」
と呼ばれていました。

「トゥラー」は、「トラ」のことで、
その毛色模様に由来する沖縄方言ですが、
その色合いの違いによって
・黒トゥラー黒地×茶のストライプ(虎毛)
・赤トゥラー茶色×黒のストライプ(虎毛)
・白トゥラー白地×黒のストライプ(虎毛)
・アカイン茶一色の赤犬
といった呼び名があります。

琉球犬の特長としては、
・性質がとてもおとなしく、犬のグループとしての狩猟に適している。
・ストップ(全頭骨の額段部)が浅い(短い)。(縄文犬の大きな特徴)
・耳がピーンと立ち、八の字状を呈し、
その左右の間隔が広く、胸の幅や胸の厚みが豊富で、前躯の発達が良い。
これは、もともと狩猟犬であるために、
獲物を捕獲するまでの持久力を必要とすることから生じた特徴らしいです。
・尾は差尾が多く、全胸部の白い胸毛のスポットがある。
・臭覚はイノシシ狩りに使われるほど極めて鋭く、
また敏捷性も優れ、勇敢でありながら、飼主に対してはとても従順。
・生きた小動物には敏感に反応を示す。
などがあり、本土のイノシシ害や猿害、鹿害などには、
もっとも効力ある番犬になりそうですが、
知名度がないのが欠点ですね。

平成6年が戌年ということもあり、
この年に、沖縄県に対して
天然記念物指定に係る申請手続きをするために
新垣義雄先生が主導で琉球犬保存会が一丸となり、
調査が進められたのだそうです。

膨大な調査資料に基づき、
当時の保存会会長である新垣先生が提出資料や申請書類を作成し、
保存会会長名で、平成6年12月に県の教育長文化課に申請され、
翌平成7年11月、県教育委員会で
「天然記念物指定」について審議され、
承認を受け、
平成7年12月22日に、正式に決定されたのだそうです。
今から20年前の出来事です。

天然記念物指定では
「飼主+犬」がペアーとした「認定犬」となり、
所有者の移動が禁止され、
その子や孫は天然記念物指定犬として移動が許された、
というのです。

新垣先生は、ご自宅で、一時50頭を超える琉球犬を
個人で育てていて、その食材探しにも毎日奔走されていました。
新垣先生とは、その頃から親しくさせて頂き、
先代のRIU(琉)君の主治医となっていたのです。

新垣先生は「天才!志村どうぶつ園」など、
テレビにも多く出演されていますし、
もともと県の獣医として、
牛、豚、鶏などの畜産動物にも関わってきましたから、
沖縄版の「ムツゴロウ(畑正憲さん)のような立派な方です。


犬は最古の家畜であり、その祖先はオオカミということは
誰でも知っていることでしょう。

犬の家畜化は、かつて「2万年前」と考えられていましたが、
近年発見された、より古い骨の存在によって
3万5000~3万8000年前までさかのぼるらしいですね。

犬の先祖であるオオカミの社会では、
一夫一妻制の家族が中心で、年長の雄がボスとなりますが、
これは人間の社会と全く同じで、
オオカミが家畜化された犬にとっては、
人間の家族に完全に溶け込むことができた主因だと考えられています。

それによって、
犬は人間にとって伴侶動物(companionanimals)と
なることができたのだと。

これは、同じく伴侶動物とされる猫とは違うところです。
猫は元来孤独生活をしていることから、
人間と完全なコンパニオンとなることはありません。

人間を喜ばすことを自己の最高の喜びとする動物種は、
人間以外では犬だけなのです。

太古から犬は人間と共に移動をしてきました。

そこで、古くからいる犬の遺伝子を調べることによって、
それを伴ってきた人間の移動経路を明らかにすることも出来と考えたのが
麻布大学獣医学部田名部雄一博士でした。

田名部先生は、
日本及びその周辺の在来犬の血液遺伝子を調べることによって、
日本犬の起源を探ると共に、
それを伴ってきた日本人の起源をも探る研究をしました。

その結果、日本在来犬のうち、
・日本最南端に住む「琉球犬」と、
最北端に住む「北海道犬(アイヌ犬)」の遺伝子構成が
酷似していること、
・また、本州、四国、九州などに住む在来犬の遺伝子には、
朝鮮半島に由来する遺伝子が多く含まれていること
が判明したのです。

また最近の研究によって、
韓国の「珍島犬」や「済州島犬」に、
高い頻度で見出されるHbA(ヘモグロビンA)遺伝子、
Gmog(ガングリオシドモノオキシゲナーゼg)遺伝子は、
朝鮮半島内部に住む在来犬「サプサリ」や、
サハリンの少数民族(ニブヒ族)の所有する「北サハリン在来犬」、
「モンゴル在来犬」などにも同様に高い頻度で見出されたのです。

これらのことによって、
日本犬の成立には二重構造があって、
まず始めに、南アジアから琉球列島を通って北海道に至る日本列島に、
古い犬(縄文犬)が人と共に渡来し、
次に新しい犬(弥生犬)が新しい渡来民と共に
東北アジアから朝鮮半島を経由して日本に入ったことが明らかになったのです。

しかし、北海道や琉球列島(特に沖縄以南)では、
この新しい犬の混血は少なかった。

これは、日本人の二重構造による成立、
すなわち1万2000年前からの古モンゴロイドに属する縄文人と、
2300年前からの新モンゴロイドに属する弥生人
ならびに1700年前からの古墳時代人の日本列島への移住と
大きく関連している、と考えられます。

つまり、
・古い型の犬は南アジアから入った縄文人が連れて来た犬であり、
・新しい型の犬は東北アジアから入った弥生人や古墳時代人が
連れて来た犬である、
と推察できるのです。

縄文人は、家畜としては犬しか所有していませんでした。

鶏や豚は弥生人がもたらし、
牛や馬は古墳時代人が日本にもたらしたものなのです。

したがって、琉球列島にいる在来犬は、
日本人のもつ貴重な遺伝遺産であって、
同時に我々の祖先を探る重要な生物資源でもあるのです。

そのため、琉球列島の在来犬について、
その保護と普及を目的として、
平成2年4月に「琉球保存会」が設立され、
その際に沖縄県の在来犬の名称が「琉球犬(いぬ)」と命名されたのです。

このように、琉球犬は、
極めて古い時代の遺伝子形質を持った貴重な「生きた文化遺産」であり、
今後、より純粋の系統の琉球犬を増殖・普及させて
後世に残してゆく必要がある、
というのが、新垣義雄先生の「種の保存活動」なのです。

このように、遺跡や遺骨、書物などだけでなく、
イヌの遺伝子の導入ルートからも、
日本列島へのヒトの渡来ルートが推定できるので、
なかなか興味深いです。

琉球犬保存会による琉球犬血統書を交付した犬は、
全て純粋な南アジア系の遺伝子であるHbA、Gmogを持つもので、
今から22年前の平成5年12月当時で134頭を認定したそうです。

それらの子や孫が主流となって、種が引き継がれ、
RIN(凛)君も、脈々とその血が受け継がれていますから、
彼とはお互いに敬い合い、ますます絆を深めていかないといけませんね。

琉球犬は、その外見の毛色で、
・赤トゥラー
・白トゥラー
・黒トゥラー
・アカイン(ゴールドアイ)
・アカイン(マスク)
の5種類が「認定犬」として分類され、
・白
・アイボリー
・黒
・ゴマ
の4種類が「非認定」なのだそうです。

RIN(凛)君は、アイボリー系にコゲ茶のトラ毛模様があるのですが、
新垣先生によると、これでも
「赤トゥラー」
なのだそうです。

「赤トゥラー」は、
両親を赤同士で交配させると、
「赤」は劣勢遺伝子同士なので、「赤」が生まれる、といわれていました。

ちなみに、「白」×「赤」の交配は、
トゥラーがバラエティーに出現し、
「白」×「白」では「白」や「アイボリー」が多く出る傾向にあるそうです。

また、小さい型同士を交配すると、
遺伝子の関係で小さめの犬が出現するのだそうです。

トゥラーの胸、または胸下には「白い紋」があるのも特徴らしく、
たしかにRIN(凛)君の胸も白くなっています。

縄文犬の特長は、犬の頭を横から見た時に、
頭頂部と鼻先が直線的になっていることで、
狼の顔の形に似ているのです。

RIN(凛)君も、なんとなく凛々しく見えるような気がしますニコニコ

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