宿に着くと、両親が既に帰っていた。あたしの両親は仲が良い。カップルみたいに、いつだってラブラブだ。
「父さん達はこれから食事に行くけど、沙耶(さや)は?」
「あたしはいいや。二人で楽しんできて」
あたしの本名は西川沙耶。学校のみんなは本名を知らない。もうお酒が飲める歳だってことも。携帯を開いた。アドレスに残された彼の名前。消せずに、ずっとあるその名前を眺める。そして、メールを打つ。
『久しぶり。アフリカに居るって聞いた。このメールをいつ見るかわからないけど、どうしても聞きたいことがあるの。石川真紀さんと、荒井真美について。山田晃子先生に全て聞いた。連絡、待ってます。』
深呼吸をし、送信ボタンを押す。あたしは、返事を待った。いつ返ってくるかわからないメールを。もしかしたら、一生返事がないかもしれないメールを。
携帯が鳴る。気付けば寝ていたらしく、慌てて飛び起き、携帯を開く。
圭吾だった。
適当に返信する。
また返ってくる。一言だったので返さない。
また、メールが来る。しつこいと思いつつ、メールを見た。
『久しぶり。元気か?俺は今大阪にいる。話がしたければ、明日大阪に来い』
胸が高まり、あたしは急いで荷物をまとめて鳥取を後にした。運良く車で来ていたので夜道を走る。一刻も早く、彼に会いたい一心で。何を話そう、何て言おう。ちゃんとした服、持ってくれば良かった。少女みたいな、気持ちになって。途中のパーキングエリアで彼からのメールをチェックする。彼は今、大阪の吹田市と言うところに住んでいるらしい。1人で住むには広すぎる、マンションの一室で。明確な住所を聞き出し、アイスコーヒーを買ってまた走りだす。夜の高速道路は、あたしの妄想を膨らます。
早朝、辺りはまだまだ暗く、コインパーキングで駐車し、歩いて彼が住んでいるマンションへと向う。もちろん、外には誰もいない。マンションは東京にあるマンションほどは高くないけど、比較的新しかった。中に入るには、外のインターホンで彼に頼んで開けてもらうしかない。寝てるとわかっていても、もしかしたらという期待を胸に、インターホンを押す。
応答がない。
もう一度だけ、押す。
やはり、応答は無かった。あたしは日が昇るまで車に居ようと立ち去ろうとした時だった。
『昔と、なんも変わってねーな』
スピーカーから懐かしい声がする。
「起きてたの?」
『起きてたの?じゃねー。起こされたんだよ。5階の505号室な』
ドアが開き、中に入る。エレベーターに乗る。日頃聞こえない心臓の音が、ドクンドクン、鼓膜を響かす。エレベーターを出ると、彼が立っていた。昔より、大分日焼けして、男らしくなった。
「よう」
「バスローブの格好で、やく家から出られますね」
「皮肉っぷりも相変わらずだな。まぁ入れよ」
奥にある505号室。彼の後をついていく。デザインされた、綺麗な部屋。言い換えれば、家庭的でない部屋。彼はキッチンに入り、私はソファーに座る。壁には彼が撮った写真が飾られている。