覚醒の時
福吉の魚河岸での日々は
すでに三年を迎え、早いもので彼は一八歳になっていた。
喧嘩三昧の日々も多少落ち着きを見せていた。
そうは言っても福吉の喧嘩が収まったと言うわけではなく彼が無駄な争い事をしなくなり、そのために喧嘩の数そのものが減ったという事だった。
福吉の起こす喧嘩の数が減ったために、横浜の警察が魚河岸の中に設置した出張交番も仕事が減り横浜港は静かになった。
彼の行動に変化があったというよりも、福吉と争い事を起こす人間が魚河岸だけで無く、横浜周辺に居なくなったということだろう
。
そんな平穏な日々の中で、本牧の海岸沿いでその辺りの漁業従事者達を悩ます出来事が起きた。
現在の横浜とはまったく違う風景が広がる本牧の海岸一帯は漁業とそれに関連する商いで成り立っていた。
男達はその殆どが漁師を生業としていて彼等特有の性分を持っていて、皆が博打好きだったのであった。
そんな彼等の博打好きという性分を擽るような事件が持ち上がったのである。
ある日、本牧に賭場を開いた集団があった、十人ほどの男達であったが、この男達は代紋を持たない、かと言ってカタギという訳でも無く、今風に言えば半グレのようなものだった。
この半グレ達が本牧の博打好きの漁師たちに目を着けた。
古い空き家に常設の賭場を構え客を集めると賭場には次から次えと客がやって来た。
普通に博打を開催しているならそれで良かったが、この半グレ達は、普通に賭場を開催していた訳ではなかった。
サイコロ博打にしろ、手本引きにしろ、彼等はころあいの良い時を見計らって所謂イカサマをやっていたのだ、さらに運良く大勝ちした客がいると仲間の何人かがその客が帰るのを待って後をつけ人気の無いところで襲撃し、博打で稼いだ金を奪い去る、襲われた客が激しく反抗するようなことがあれば最悪、殺してでも金を取り返していた。
本牧に賭場が出来てから二ヶ月もすると、その博打場の客達の中に、敗け続けて家や漁に使う舟まで取り上げられてしまった人間や、賭場からの帰りに何者かに襲われ、博打の儲けを取り上げられた者が何人も出て来た、それでも半グレ達の企みに本牧の人達は気がついてはいなかった。
しかし賭場へ行った人間から死人が出たとなると本牧の人達も自分達の身に起きていることの一切が悪意に満ちた奴らの計画であるということに気がつきました気の強い漁師達ですが、相手は玄人、さてどうしたものかと思案にくれている時
主だった面々が寄り合って話し合っている時、ひとりの青年が、漁師達の輪の中に入って来ました。
もちろん狭い村のこと、顔見知りであることは確かなのだが、年齢が放れている為にあまり話したことはなかったのです。
青年は大人に囲まれ気後れしたようだったが、意を決したように咳払いをひとつしてから話し始めた。
『あのぉ、俺はしょっちゅう魚河岸に行くんだけれども・・』
この青年の一言が、福吉の人生を変えることになる。
了。