では現在の日本のHPVワクチンの現状は世界と比較してどうなのでしょうか。

 

国内での子宮頸がんの現状は?

 

問題はHPVワクチンの普及に伴い年々減少している先進国とは逆に、「日本だけが年々罹患率が上昇傾向」になっていることです。下記の日本産婦人科学会のデータを参照してみますと、年々日本での子宮頸がんの死亡者数は増えています。

 

国内の子宮頸がんの患者さんは、年間11,000人程度(2017年)と報告されてて、特に若い年齢層(20~39歳)で患者さんが増えています。年代別にみた患者さんの数は、20代後半から増えていき、40代でピークを迎えます。つまり比較的「若い女性がかかる癌」であり、注意を要します。国立がん研究センターのがん統計によれば、子宮癌のうち子宮頸部のがんの国内の罹患率は10万人当たり16.9人、死亡率は10万人当たり4.5人であり、年、約3000人が死亡していると報告されています。

 

 

日本産婦人科学会データ:

 

 

最近の報告では、HPVワクチンと子宮頸がん検診が最も成功しているオーストラリアでは2028年に世界に先駆けて新規の子宮頸がん患者は「ほぼいなくなる」とのシミュレーションがなされました。世界全体でもHPVワクチンと検診を適切に組み合わせることで今世紀中の排除が可能であるとのシミュレーションがなされました。日本においてこのままHPVワクチンの接種が進まない状況が今後も改善しないと、子宮頸がんの予防において世界の流れから大きく取り残される懸念があります。

 

HPVワクチンは効果的なの?

 

結論から言いますと「ものすごく効果的」です。むしろがん予防において、唯一有用と確証できるワクチンに他ありません。

子宮頸がんの原因となる代表的なHPVウイルスは16型と18型ですが、このウイルスへの有効性は「93.9%」と非常に高いです。

 

HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、HPVに感染していると推計されています。性交渉を経験する年頃になれば、男女を問わず、多くの人々がHPVに感染します。そして、そのうち一部の女性が将来高度前がん病変や子宮頸がんを発症することになります.

 

日本でのHPVワクチンの現状は?

 

日本では平成25年度にHPVワクチン接種が定期接種化されましたが、そのわずか2か月後に接種後に慢性疼痛や運動障害など「多様な症状」を訴える方々がいました。

 

私が「残念」と感じるのは「その後の日本政府の対応」でした。

 

平成28年1に厚生労働省研究班の全国疫学調査の結果が報告され、HPVワクチン接種歴のない女子でも、同様の「多様な症状」を呈する人が一定数存在すること、すなわち、「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないことが示されました。

 

さらに、名古屋市で行われたアンケート調査では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されました。HPVワクチン接種と24症状の因果関係は証明されなかったということになります。

 

しかしこのように国内も含め様々な研究を通して世界中で「安全性」が立証されたのにもかかわらず、日本政府は慎重な姿勢を崩さず、積極的勧奨が中止されたまま、現在にいたります。結果平成14年度以降生まれの女子では「1%未満の接種率」となっています。

 

最近のランセット公衆衛生によるとこのまま日本がHPVワクチンを推奨しない場合、「50年で約11000人の女性の命が子宮頸がんで奪われる」といった研究結果でした。

 

次世代の人の健康を守るのは私たち医療者と親の仕事

 

この負の影響を少しでも軽減するためには、早期の積極的勧奨の再開に加え、接種を見送って対象を超えてしまった世代にも接種機会を与えることも検討する必要があります。

 

そして日本政府も今までの科学的知見を基に積極的勧奨接種を直ぐに再開することを議論しなければいけません。

 

現在世界の80カ国以上において、HPVワクチンの国の公費助成によるプログラムが実施されています。なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防し、90%以上の子宮頸がんを予防すると推定されている9価HPVワクチンが公費接種されており、日本では2020年5月22日に令和2年度第1回薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会月で承認を可とする判断になり、2020年7月21日に承認されました。

 

そして私たちができることは、もしHPVワクチン接種を考慮しているのでれば迷わず、あなたやあなたの子供にもHPVワクチン接種を接種してください。それがあなたや次世代の人を子宮頸がんから守ることにつながるかもしれないからです。