𝕆𝕗𝕗𝕚𝕔𝕖ℝ𝕠𝕞𝕒𝕟𝕔𝕖  ❴ ▲217F ❵⁣
恐る恐る開けたドアの向こうは、まるで別世界。⁣
きらびやかで、眩しくて。⁣
なんとも言えない緊張感を助長している。⁣
対応してくれたキレイな女性スタッフが私に尋ねた。⁣
[今日は、お一人ですか?]⁣
「あ、たぶん後から来ます。」⁣
[先に選ばれますか?]⁣
目の前に並ぶドレスに物怖じしながらも、私はゆっくりと歩きながら、それを眺めた。⁣
本当は二人で来るはずだった。⁣
急に仕事が入ったと連絡があったのは1時間前。⁣
キャンセルできずに一人でやってきたけれど、やっぱり一緒に来るべきだった。⁣
だいたいイメージは湧いていたものの、実際これだけの数を前にすると、目移りしてしまう。⁣
何点かのドレスの先に、一際目をひくもの。⁣
自然と足が止まった。⁣
[似合われると思いますよ。]⁣
営業トークとわかっていても、顔が綻ぶ。⁣
試着するとまた格別。⁣
鏡の前で、私じゃない私と対面した。⁣
 ⁣
「あっ!涼太くん!」⁣
   ⁣
鏡に映る私の横から、彼が顔を覗かせた。⁣
普段見せない姿を見られて、なんだか恥ずかしい。⁣
「どうかな?試着してみたんだけど。笑」⁣
『…………うん。』⁣
「それだけ?」⁣
 ⁣
『いや…………うん。』⁣
うん。とは?⁣
似合わないってこと?⁣
それとも、よくわかんないってことかな?⁣
どちらにせよ、期待していた言葉が返ってこなかったことに、ちょっとだけショック。⁣
[他にご試着は?こういった感じも…]⁣
私の好みを理解したスタッフが他のドレスを提案する。⁣
「ね、どういうのがいいかな?」⁣
   ⁣
『え?わからんなぁ。好きなの選んだらええんちゃう?』⁣
なにそれ。⁣
他人事みたいに言うの、なんか嫌。⁣
女心、全くわかってないんだから。⁣
   ⁣
「そうだね。自分で決める。」⁣
 ⁣
「忙しいのに、来てくれてありがとう。」⁣
「仕事戻っていいよ?」⁣
たぶん、今の言い方きつかった。⁣
察した彼が私の顔色を伺う。⁣
私は黙って試着室のカーテンを閉めた。⁣
同時に、心もシャットアウト。⁣
今、彼と顔を合わせたくない。⁣
私のわがままかもしれないけど⁣
“似合ってるよ”って⁣
ただ一言、言ってほしかった。⁣
試着室のカーテンが開いた。⁣
バツの悪そうな彼が口を開く。⁣
『ごめん。』⁣
『びっくりして……。』⁣
  ⁣
「いいよ、もう。カーテン閉めて。」⁣
 ⁣
『全然よくない。』⁣
『ちゃんと言いたい。』⁣
鏡越しに彼と目が合う。⁣
『…………すごく綺麗です。』⁣
 ⁣
好き♡♡♡⁣