ハチは途中で中座したが、僕らはそれからもいろんな話をした。
人と話をする事がこんなに楽しかった事かと思い直す程、その場のなにげない空気が楽しくてしょうがなかった。
宴も終盤に入り、お開きにしようとした時、賢が真面目な顔で言ってきた。
「龍馬。みんな、お前の事を心配していた。」
「でも今日のお前を見て安心したよ。」
「だけどな体が動かなくなったって事は、これから大変な事になると思う。」
「仕事も今迄通りにいかなくなるだろうし、日常生活だって大変になっていくはずだ。」
「お前が体を直すのに、必要な事があったらいつでも連絡してこいよ。」
「お前はかっこつけ屋だから、きっと一人で何とかしようと思っているかもしれないけど、俺達の力も忘れるな。」
「もし、お前の体を直す為に金が必要だったら、俺達が幾らでも集めてみせる。」
「必要な物があったら、何でもそろえる。余計な事を考えないで、体を直す事を一番に考えろ。」
その時、何秒間あったんだろう。。。
何も言葉が返せない。頭が真っ白になった。
少ししてからやっと口から言葉が出てきた。
『バカじゃねぇ~の!お前らからの金なんか使えるか!』
『何を偉そうにぬかしているんだ。俺様を誰だと思っている!』
『人の事だと思って言いたいこと言いやがって、大体お前らはもう一家の大黒柱だろう。』
『まずは自分の家庭を守れ。それも出来て余裕ができてから俺の心配をしてくて!』
『お前らのふがいなさを俺の病気のせいにされて、嫁さんから文句がきたら、こっちがいい迷惑だ。』
精一杯の悪たれ口。。。
それでも、こみ上げてくるものを押えるに限界があった。
『ありがとう。。。』
心の中で言ったのか小さな声で言ったのか覚えてないけど、素直に感謝した。
みんな、その声が聞こえたかのように、僕の体をポンポンと叩いていった。
店を出る時に、同じ仲間で店主の順一が僕を呼び止めた。
「龍馬。これハチから。。。」と1万札を渡された。
『何これ?』
「タクシー代にしてくれって。ハチが。。。」
『バカじゃねーの、あいつ。。。!』
ハチは最初に言った僕の冗談を真に受けたのか、元々の人情から来るものなのかわからないが、先に帰る自分の気持ちをその紙に託していったみたいだった。
大バカ野郎どものお陰で、完全にペースを乱された。
タクシーで帰ると言ってきかなった僕を、みんなで取り押さえるように洋二の車に押し込んだ。
「じゃぁ、またね。ちゃんと送っていくから大丈夫。」
洋二が僕の分も代わりに挨拶をしてくれた。
少し走りだすと洋二が言った。
「龍ちゃん。もういいよ。俺運転中だし前しか見れないから。」
本当に全てお見通しだった。
『わりぃ。。。』
という言葉と共に制御不能になった熱いものがあふれてきた。
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