昨日の事になるか。合気道部の練習が終わり、先輩方と食事をした後の帰りの電車の中での事だ。

還暦前後の男性が酒に酔って立ちながらにして半ば眠っていた。彼を見て、「爺さんよ、大丈夫か?」と思った。そして人は立ってでも居眠りをする事が出来るのだなと驚かされた。

それから、しばらくした後、電車が揺れた。すると例の男性の身体も揺れた。男性は俺の前にいた。そして、ふらりとバランスを崩し仰向けに倒れた。そうすると俺にもたれかかるはずなのだが、

俺は体をさばき、向かってくる男性を避けた。

そのため男性はそのまま倒れた。見事に倒れた。

どうして支えてやらなかったのだ、と男性が起き上がってから罪悪感のようなものが湧き起こった。

しかし、あの時、体が勝手に動いてしまったのだ。それの数時間前に相手の突きをかわす動きを自主的に練習しており、その癖が出てしまったのだ。

そう考えると、練習の成果が出たのだ。実践出来たのだと思うと嬉しくなった。特に俺が属する合気道部は型のみでなく実際に闘い合う組み手のある流派なので覚えた動きが実践できないとよろしくないのだ。

ただ、本当にあの男性には申し訳ないと思うが。

明日も練習があるので、また頑張ろうと思う。師範もいらっしゃるので今日よりもっと大きな声を出して練習しようと思う。


追記。
今日の鉢合わせ作戦はまずまず上手くいった。
しかも、その後もう一度遭遇するという奇跡も起こった。
金曜日が一番楽しみな曜日となりそうだ。

綺麗な人を知っている。


容姿の話ではなく内面の。

話し方に素振り、考え方に純粋な優しさ。

品が滲みでている人を人生で初めてお目にしたかもしれない。


俺より年下なのに。


綺麗な宝石に例えられると思う。

とても綺麗なので触れる事が出来ない。

自分の汚い指紋がつく事が恐ろしいというか恐縮な気がして。


ああいう人は、将来どんな男性と一緒になるのだろうか。

一級の男と一緒になって欲しい。

そして幸せになるべきだ。


心からそう思う。

成仏できない幽霊の気持ちがわかった。


授業が終わった後、このまま家に帰るのもつまらないと思ったので、キャンパス内をぶらぶらしていた。

そうしていたら、いつか知り合いに会えるのではないかと期待していたのだが、中々会えないものだ。そうは言っても、やはり帰る気になれないから図書館へ行き、少し勉強をしたのだが、どうやら俺は誰かと会って話をしたいらしい。とは言っても、誰なのか、明確には決まっていないのだが、偶然巡り合わせたどんな人でもいいので兎に角話したかった。気がつくと、道場の周辺にいて、そこで居合道部の先輩に会った。

「今度また皆でご飯を食べに行きましょう」

これを伝えたかった。

最もよくして下さった先輩にも挨拶をし、一番会いたかった先輩にも、この前は楽しかったと思いを伝えた。

結局、居合道部には入らず合気道部に入る事になったので、居合道部の人達との関わりはこの先、少なくなっていくのだろう。こうして自ら足を運ばない限り。また運んだとしても、いずれ、具合が悪くなって、もう関われなくなってしまう時が来るかもしれない。

だからこそ、まだこの時期に挨拶をしておきたかった。


挨拶をしたら、心が晴れて、家に帰ろうかと思えるようになった。


幽霊がどうして成仏しないのか。

きっと誰かに挨拶をしたいからなんだと思う。


「ありがとう」「さようなら」と。