ヨーロッパへの出発前夜まで、「やってやる」という意気込みと、色んなモノに出逢いたい、触れたいという希望にも似た好奇心が強かった。
それに急に準備し始めたこともあって、バタバタしてて、あまり不安なんかも感じる余裕もなかった。
今思えば、よかったと思う。
しかし、さすがに出発前夜は、ビビりまくっていた。
不安を言い出したらキリがないくらい。
怖かった。
しかし、迷いはなかった。
熟睡できないまま、出発の朝を迎えた。
楽しみも不安も全てを詰め込んだ大きなバックパックを背負い、空港へ。
手続きを済ませ、搭乗。
しかし飛行機に乗ると、なお一層現実を受け止められないくらいになって、とにかくビビっていた。
笑顔で受け答えしようとしても、笑顔が引きつっているなと自分でも分かる。
自然に笑えない。
怖い。
いっそ、不慮の事故か何かで、飛行機がロンドンに着けずに、日本に帰国しないかなって願っていた。
しかし、願いもむなしく、無事に夜のロンドン到着。
ロンドンの最初のホステルだけは、日本で予約していたので、そこに向かいたかった。
まずは最寄りの駅に向かおう。
駅員さんに尋ねながら、セント・パンクラス駅に到着したはいいが、駅を出てからは全く分からない。
いきなり迷った。
右も左もわからないとは、まさにこのことだなと思った。
地図が読めない。
夜だからか、地図上で目印となりそうな郵便局でさえ、どの建物かわからない。
一人で迷っててもしょうがない!
ということで、色んな人に、道を尋ねた。
すると、想像以上に人親切で、すぐにホステルに着いた。
チェックインを。
予約の名前を告げて、
さあ、部屋の番号を教えてくれ。
・・・ん?
本日の予約に、名前がない?
まさか!!ウソだ!冗談がキツいよ~・・・まじで?
詳しく調べてもらうと、どうやら翌日からの予約になっていた。
日本を2/6に出発して飛行時間10時間以上。何の疑問も持たず、2/7に到着してると思い、2/7から予約してた。
本日、2/6だそうだ。
これが、時差なのか。
・・・やってしまった。なんてことだ。僕は馬鹿だ。
そう打ちひしがれていると、受付の女性が、本日から泊まれるように予約を変更してくれた。
もともと予約していた部屋番号は変わるけれど、同じ料金で、同じサイズ(4人部屋)の部屋に泊まれることに。
助かった。ありがとう!
そして、部屋に入ると、すでに残り3つのベッドは埋まっていた。
その3人と自己紹介。
一人はブラジルからのロレンツォ、一人はアルゼンチンからのフェルナンド、もう一人はフランスからのアンドレアス。
すぐに意気投合して、そのまま4人で近くのパブへ行くことに。
お酒がまわると、なお一層英語が聞き取れなくなるんだな。
それにしても、聞き取れなさ、ひどかったなー。
しかし、それでもどんどん仲良くなった。
特にフランスのアンドレアスとは、翌日からもずっと一緒に行動していた。
僕が行きたいところに付き添ってくれたり、休みたい時はベンチに腰かけて休んだり、写真撮るのを手伝ってくれたり、しょーもないことから互いの夢まで色んなことを伝え合ったりして、毎日笑ってた。
ほんと、朝起きてから、夜寝るまで、ずっと笑顔だった。
僕が話そうとすることを真剣に耳を傾けて聞いてくれて、ちょっと英語がつっかえても笑顔で待ってくれていたし、僕が聞き取りにくかったりしたら、もっと分かりやすい言葉で伝えてくれたりして。
アンドレアスの存在、笑顔のおかげで、ロンドンの日々が毎日楽しかった。
そしてロンドン5日目、最後の夜。
ロレンツォは、前々日にチェックアウトしたので、3人でいつものパブへ。
アンドレアスも翌日チェックアウトの予定だったので、3人で集まれる最後の夜ということで、いつもより3人とも少し静かだった。
最後にパブで写真を撮り、ホステルへ戻り、就寝。
別れの朝。
いつもの朝より、どこか静かで、どこか寂しい朝。
会話もそれほど弾むこともなく。
チェックアウトの時間、まずフェルナンドとの別れ。ホステルの玄関で、また会おうと約束して、ハグして別れ。
アンドレアスは、駅まで一緒に行ってくれた。
駅へ向かう途中、会話が、宙に浮いてるみたい。
なかなか耳に入ってこない。
その間、このロンドンの日々を振り返っていた。
アクシデントもありながら、偶然のような必然だと、運命だと信じられる出逢い。
この彼のおかげで、ロンドンへ向かう飛行機の中では笑顔もろくにできなかった僕が、ロンドンでの日々を毎日笑顔で過ごせていた。
こいつがいてくれたから、こいつが話を聞いてくれたから、こいつが笑顔だから、僕もこんなに幸せだったんだ。
すごくありがたい。
すごく温かい。
駅に到着。今の想いを、この感謝を、どれほど助けられたかを伝えよう。
・・・しかし、言葉にできない。
僕は英語が下手くそだから、上手い言葉が見つからない。
まずはこの言葉からだ、と思い、
Thank you を口にした瞬間に、溜めていた想いが涙とともに、全て溢れてきた。
涙が止まらない。止められなかった。
ただただ泣いて、Thank you すらも言えなくなっていた。
すると彼は、りょうの笑顔が、りょうの人柄が、大好きだと言ってくれた。
もう涙が止まらなかった。すごく嬉しかった。
心がすごく温かかった。
そして、ぐちゃぐちゃの顔のまま、連絡を取ること、また必ず再会することを約束して、しばしの別れ。
最後は、彼が覚えてくれた日本語を言い合って。
「ジャ、マタネ!」
そんな始まりの街、ロンドン。
ここから全てが始まった。