新卒OLの初任給は友人と美味しい料理を食べ歩いたりオシャレな服で着飾るには十分な額であったけど、都内で一人暮らしをするには到底足りなかった。20代前半まだ社会のイロハのイもよく知らない私は
手っ取り早く稼げそうなアルバイトを探すことにした。
今よりは間違いなく厚みのあった求人雑誌には、「カウンターレディ募集」「フロントレディ急募」の字が躍っていた。その職業に半分?な田舎出の私は銀座・六本木という文字を避け、中央線沿線(笑)の店を何件かピックアップし面接希望の電話をかけた。
「まぁ、とりあえず明日の夜7時来れる?」電話の向こうのしゃがれた女性の声に一瞬怯んだが、「はい伺いまぁす」とワントーン高い声を出している自分に気持ち悪くなったっけ。
初めて足を踏み入れるそこは、ドアを開けるとなんだか怪しい雰囲気。
当然照明は落としてあるし、カラオケの音よりも大きい男の声。
カウンターに席が5つほど。テーブルが4卓くらいの狭い店
「面接に来ましたー」
「あっ、そう」じゃぁそこ座って。
「ん~、で、いつからアンタ働ける?」そんなもん?
何も質問されていないんですけどー「お酒飲めるの?」ぐらいはしてよ。顔見て判断されたのか
「じゃぁ明日から」
「はいよろしくー」
こんな短い面接初めて。
分からないことだらけだったので質問をぶつけてみた
「あのー服装は」「そんなの決まってるでしょ!!ジーパンやカジュアルな服装はダメ」
ってめちゃめちゃ幅広いんですけどー
水割りを作っている最中のお姉さんの格好を見て翌日上野のアメ横で買った派手目スーツを着て行った
初めての水商売は自分の性に合っていると思った。
話を聞くのは右から左で頷いていればいいし、会話がなくなったらお酒を作ればいい
そして退屈極まりなかったらトイレにたつ
酔っ払いの相手を上手にかわす術もだんだんと身につけたし、滅多になかったが「ほぉ~」って感心させられる客のうんちくもあったりした。
そこで知り合った松田聖子のディナーショーに毎年足を運ぶという従業員のお姉さんと遊ぶようになり、
面白可笑しい世界の入口に導いてくれた
どこでどう知り合ったんだか、大蔵省(当時は)のおエライさんとの飲み会にお誘いしてくれたり
フレンチのひらまつで絵画鑑賞してからフルコースディナーで初めてカエルのスープを食してみたり
その当時居酒屋しかなかった町の出身の自分にとってこれまたキラキラしている世界を堪能させてくれたのだ
そういう経験って女を調子に乗せますね(笑
化粧の上手な仕方を覚え、オシャレな会話を学ぶ
そして昼の仕事にも少しは活かされたんじゃないかな
会社での野心も目標も持たなかった私は何かせねばと焦って秘書検定を受けた
勉強するための本には至極当たり前のことが書いてあった
敬語と謙譲語、間違えて使う人がいるんだろうか?
夜の仕事も場所を変え、今度は赤坂に(銀座でやる度胸がなかった)
前の店よりも洗練されたお客がやってくる
週に2回か3回のバイトだったけど楽しかった
仕事が終わって見附の駅に向かう途中「失楽園」のドラマを撮影中の川嶋なおみさんを発見した
タクシーでお客さんをお送りする場面だったらしく、同じことしてるとちょっと親近感(かなり遠い世界のお方ですが)
誇らしげにそびえたつ赤坂プリンスを横目に見ながら帰り道を急ぐ
また新しい姿に変わってもその思い出は一生消えない