私にはっきりとした、「常識では説明できない出来事」としてある経験は
そんなに多くはない。
その一つが高校生だった頃の話。
会ったことのない人の名前を聞くだけで、その人の容姿を言い当てることができた。
後輩たちと私は、最初ゲームをしているような感覚だった。
後輩が、私の知らない後輩の友人の名前を言う。
「田中さん」
「…その人は、眼鏡をかけていてやせ形で、背は170cmくらいで、地味な感じの人だよね」
こんな感じ。
これが、あるときどれだけ続けてもすべて当たることがあった。
だって、見えるから。
話している後輩たちを通して、その人が見えるのだから、それを言うだけなのだ。
それはちょうど、同時に二つのテレビを見ているかのような感じ。
目の前の後輩たちと、学校の教室。
そして同時に浮かぶ、脳で見ている人物像。
おそらく後輩というレンズを通して、後輩が今、名前を挙げながら思い浮かべているであろう映像を私が覗き見ているような感じだ。
その遊びをやったのは1回だけだ。
私も気持ち悪かったが、彼女たちも気持ち悪かったんだと思う。
あの時の、異様に感覚が研ぎ澄まされるような気持ち悪い昂揚は、その後何度も経験しているけれど、
そこで得た情報を相手に確かめたことはない。