<恋語り・11 ~慈愛~>


「優花、きみに『本当のパパじゃない』・・・そう言われるのがどんなに怖かったか、わかる?でも、きみはそんなこと一言も言いはしなかった・・・

きみのことを、本当のパパとママが思う以上に愛していけるか・・・それが俺の課題で・・・でも、そんな不安なんて一瞬のうちに消えていったよ・・・あの時、あの病室で俺が抱きしめた温もりに俺は救われて・・・・きみは俺の命の恩人でもある・・・そのきみをどうして愛していけないなんて思えるだろうか・・・

日々を重ねて、いつの間にか俺ときみは、どんどん親娘になっていく。

でも、いつかはきみに話さなくてはいけない日がやってくることもわかっていた。

今まで疑問に感じていたことだろう・・・・小学生の時に聞いてきたもんな・・・

でも、あれから俺に変わらず「パパ」と言ってくれているきみを見て・・・・安堵した・・・

幼かったきみが母親を望んだ時、俺は・・・それでも、他の人をきみの母親にあてがおうとは思わなかった。彼女のかわりなんて誰にもできはしないのだから・・・

俺自身も、父親の代わりにはなれていても、本当の父親にはなりきれないこともわかっていた。最初から疑似親娘なら・・・このままずっときみが大人になるまで待って大人になったら全てを話して離れてみようって・・・そう思ったんだ」


ずっと私のことを見つめていた瞳が夜の空を見上げた時、


私は認めたくない言葉を言わなくてはいけないと核心したのだった。


「・・・・・・ち・・ちがうわ・・・・・・」


涙声で絞り出した声があなたに届いた時、あなたはその横顔を私にスッと向けてくる。


私が何を言おうとしていのるか知らないまま・・・。


「ちがうわ・・・・あなたは、今もママのことが好きなのよ・・・。誰かと一緒に私を育てるなんてこと考えたこともないはずよ・・・・。だって、あなたは記憶の中のママと一緒に私を育てたんだもの・・・。私が、知らないって思ってた?なんにもわからないって思ってた?

私が寝室に入ってから、あなたはずっとママの写真を見て呟いてた・・・。

私が大きくなったら離れていこうって・・・そう言ってるのを・・・

私に全てを言って楽になって、私から離れていこうって思ってるって・・・・

ずっと・・・・ずっと・・・・怖いんだよ・・・・私は一人になるのが・・・・

あなたが私の傍から離れて行ってしまうのが怖いんだよ・・・・・

あなたはそれでいいかもしれない・・・あなたは楽になれるかもしれない。

でも、私はどうしたらいいの?

また、ひとりになるの?いままで傍にいたのにいなくなったら、昔と変わらないじゃない・・・・私は、今度は何に縋って生きていけばいいの?」


「・・・・・・・・・・」


私の声を聞いたあなたは目を見開いて行く・・・


「私は・・・・もう、一人にはなりたくない・・・あなたが一人を望んでいるとわかっても、私はあなたを一人にはしたくない。

たとえ、血が繋がっていなくても『愛』はある。

その愛をあなたがいらないと言っても、私はあなたの傍がいい・・・・

私の前から、お願いだから消えてしまわないで・・・・・

そんな言葉で、私を遠ざけないで・・・・

何もわがままも言わない・・・・何も望まない・・・何もいらないから・・・・

お願いだから消えてしまわないで・・・・・


親娘以上の関係なんて最初から望んではいない・・・・


ただ、あなたが傍にいてくれたらいい。


ただ、私を一人にしないでいてくれたらいい。


ずっと笑い合って、ずっとこのまま生きていくことができたらそれでいい。


その願いさえもあなたは聞いてはくれないというの・・・・


この願いの障害になるのなら、この恋心を殺してしまうのくらい簡単で、思いを告げられなくてもそれでいいのだ。


ただ、無くしたくない・・・それだけなのに・・・


沈黙は続いていく、その沈黙は闇よりも深い・・・・


その深さの中に私はあなたの答えが隠れているようで逃げ出したくなっていた。