<恋慕・2> 

ただ、君を好きになっただけです。

ただ、君を心の中に閉じ込めただけです。

ただ、恋をしただけなんです。

どうしてそれがいけないことなのでしょう?

私が既婚者だからですか?

私に子供がいるからですか?

私に・・・言葉を持ってはいけないというのなら

誰か私の声を奪ってください。

ただ、「あなたの笑顔に励まされてる」って言っただけです。

それだけでもダメですか?

彼の気持ちも聞いてはいけないですか?

ただ、笑いあっただけです。

ただ、声を掛けてその返ってきた声に喜んだだけです。

私達、何もしてません。

でも、心が通ってしまったら・・・

それだけでもいけないんですよね。

わかってます。

子供の笑顔を見るたびに胸が締めつけられそうになるんです。

でも、それ以上に彼の笑顔も私の胸を焦がすんです。

なら、彼の傍から離れたらいい。

誰も気が付いていない今なら・・・

何もなかったようにできる。

わかってます。わかっているんです。

でも、それができないから

あの笑顔から離れてしまうのが、何よりもつらいから・・・

だから私はまだ彼の傍を離れられないでいる。

誰にも気がつかれてないと思っているのは私だけでしょうか?

もしかしたら周りのみんなは既にわかっているんでしょうか?

年甲斐もなく・・・若い男に声音を変えて、そして恋に落ちていると

気がつかれているのでしょうか?

わかりません・・・。

でも、これだけは言えます。

誰も気が付いていないなんて嘘です。

私の、我慢ができずに放った言葉が・・・

彼にすべて気がつかれることとなりました。

本当は言うつもりはありませんでした。

自分の本心など口にしてはいけない。

そう思っていました。

でも、彼が誰かのものになるなんて耐えられなかった。

私とは違う手が彼を幸せにしてしまうことに嫉妬を感じたんです。

でも、私の手は夫に繋がれている。

左手は夫に、そしてその手以外の私のすべては彼の事を想っている。

いつかはきっと壊れてしまうでしょう。

それがいつになるのか、私にはわかりません。

夫と私の関係が壊れてしまうのが先か、

それとも・・・

私の彼を想う心で自分自身を硝子のように砕け散らしてしまうのが先か。

それとも、この先何もなかったことにして、心に蓋をしたまま

同じ毎日、同じ時間を過ごしていくのか・・・

このまま壊れる事もないまま・・・

恋慕っても、誰も幸せになりはしないことを

私が一番知っている。