<切望>

君が幸せでいてくれるならそれでいい。

君が笑っていてくれるならそれでいい。

この先、君に降りかかる不幸をすべて

僕が取り去ることができるのなら

僕は今の幸せを投げ出しても構わない。

君が流す涙をこの手で拭うことができたらいいのに。

君が何かに苦しみを抱いたならば

僕がそのすべてを背負うことができればいいのに。

君と僕との距離は縮まることはないのかもしれない。

それでも僕は君をここでずっと想いつづけるだろう。

でもそれを決して悟られてはいけない。

「愛している」とも伝えられない

それを口にしてしまえばすべてが崩れてしまうから。

見えない、均衡を保つ細く長い糸が僕たちの間にはある。

それは確かに存在していて僕を苦しめる。

僕が君を思う気持ちを言葉にしてはいけない理由は

君がしている左手の指輪にある。

どんなに君を想っても君に伝えられないもどかしさ。

それでも、君が僕の前で見せる笑顔があるのなら

それだけでいい。それだけがあれば、それでいい。

この一線を越えようとするには覚悟がいることも

その覚悟に君を引きずり込むことも僕にはできない。

君とひととき・・・

ほんのひととき君を独占することができるのなら

それがたとえ君を抱きしめる刹那な時間であっても

そんなひとときを僕に許してくれるなら

その幸せを僕は抱きしめてこれからを生きていける気がする。

そんな気がする。

ただ、欲を言えば君も同じ気持ちなのだと

そっと闇夜の月にでも伝えてくれないだろうか。

君から少しずつ流れてくる思慕の誘惑もすべて含ませて・・・

どうか、僕がすべてを君に吐き出してしまう前に。

僕たちが想いを伝えあう前に・・・。

どうか、僕の君を想う気持ちを誰か止めてくれないだろうか・・・