<記憶の花びら>
今でも思い出せる君の笑顔。
君はいつも私の隣にいた筈なのにね。
もう、今はいない・・・。
そんな現実にはついてはいけない。
本当は笑顔を思い出すのもつらい。
私たちは幼かった。
小学生、最後の夏。
誰もいない放課後によく学校に残ってたよね。家にも帰らず・・・。
将来の夢も語り合った。
私は看護婦。君は医者・・・。
自分と同じ病気で苦しんでいる子供がいたら助けたい。
そういつも言ってた。
いつの間にか、その夢が叶うのが私の夢になっていた。
そんな君の喉には傷が残っていた。
手術をした痕なのだと君は明るく笑う。
その傷が私にはこれからの予兆に見えて仕方がなかった。
嫌な予感。
誰にも言われたことのない君の命の時間。
でもなぜだろう。何かに願ってしまうほど君のことが心配になった。
君の命の灯が消えないように、ただそれだけを毎日星に祈った。
君は・・・本当は知ってたの?
自分の命が短いことを・・・
知っていたのなら私にも教えて欲しかった。
後悔しないように、もっと君と話がしたかった。
声を聞きたかった。もっと笑い合いたかったよ。
君との思い出を胸に焼き付けて忘れないようにするために。
ダメね。大人になると記憶が曖昧になってくるの。
あんなに一つ一つのことを鮮明に思い出せていたはずなのに、
年を重ねるごとに思い出が無くなっていく気がするの。
一枚ずつ落ちる花びらのように記憶を落としていってるような気もする。
嫌なのに、ダメなのに、無くしたくないのに、
君の笑顔だけが残っていく。
人はどうしてすべてを記憶に残せないのだろう。
何もかも自分の中に残せることができたら何もいうことはないのに。
苦しい記憶もすべてが君なら私はすべてを受け入れる。
幼かった私には、君を助ける術を持てていなかったかもしれない。
でも、それでも私は君を助けたかったんだ。
遠い星にこの願いをしてしまうほどに・・・。
でも、夏休み前の教室・・・君はいなくなってしまっていた。
あの衝撃がまだ私を襲っている。
「入院しました」って涙を見せながら報告する先生には分かっていたんだろう。
もう君がこの教室には帰ってこれないことを・・・
あれから私は君に逢えないまま。取り残されたまま。
ずっと心の中で君の名前を呼んでも答えてくれない。
君のために折った千羽鶴。
誰にも真実は告げられないまま、私達は七色の折り紙を夢中で折った。
君がもう一度帰ってくることを願って・・・。
でも、儚い夢は届くことはなく、ただ君の体には傷が残った。
今でも君がいなくなったあの瞬間だけは忘れない。
教室に現れた君の両親。君の写真を持ってきていた。
君がいたことを「忘れないでほしい」と涙をこらえながら私たちに言っていた。
その声は君の声と同じ意味を持つ。
忘れられるわけがない。声をだしてみんなで泣いた。
君との思い出の分だけ、
君が笑った分だけ、
君と望んだ未来の分だけ。
忘れることなんて決してできない。
きっと、これからも、ずっと。
たとえ誰かが忘れてしまっても、私は憶えている。
君が望んだ夢を忘れないのと同じように、
君自身のことも胸に大切に閉まっておくよ。
私はいつか君以外の人を好きになるときがくるかもしれない。
でも、それでも君の笑顔を持って生きていることを忘れないで。
記憶の中の君はいつも笑っている子供のまま。
私は大人になっていくけれど、その姿を見ていてほしい。
私の心が枯れてしまわないように、
私の涙で君の笑顔を失くしてしまわないように、
ずっと、ずっとあの星のように見守っていて・・・。
声は届かないかもしれない。
手を振っている君がいたとしても私には見えないかもしれない。
でも、今でも君を愛しく思っているよ。
これからもきっと・・・
君を忘れられない・・・。