自分の作りかけの楽器もいろいろありますが、もう少しオーダー品の記事にお付き合いください
今回持ち込まれたのは、ラルクアンシエルという日本のバンドのベーシストが使っているようで、ネットで調べると「TETSUYAモデル」というらしいです
実は私も「TETSUYA」ですが、そもそもジャガーやジャスマスターはあまり好きではないですね
若者の楽器ではなく、オジサンの使う楽器というイメージです
とにかく今回はこのモデルを素材にして、大規模なカスタマイズを施します
オーダーの内容は以下の通り
① ネックをレフティー仕様のジャズべネックに換装
② スラップが可能なようにネックエンドとフロントPUとの間に43㎜の間隔を確保
③ ②に付随して、センターPUの位置もリアPUとの中間にくるように移動
④ スイッチプレート、コントロールプレート、フリッジ周囲のパネルを金属で新規製作
⑤ ピックガードを黒の3プライで新規製作
⑥ ボディーをブラックでリフィニッシュ&レリック加工
⑦ ネックもリフィニッシュ&レリック加工(右用のサイドポジションマークを設置)
といったメニューになっています。
ただし…実際に作業を開始してみれば、これまでの幾多のブログ記事からも察せられるように、付随した作業が次々と発生することでしょう
ベースとなる本体とレフティー仕様のネックが送られてきました。
2コ1の依頼は比較的多いオーダーですが、多くの人は「ネックポケットを少し調整してジョイントすればいいだけ」と考えていらっしゃるかと思います。
確かにそうには違いありませんが、その「調整」の範囲は結構多岐に渡ります。
4本のジョイントネジを完全に打ち直すことは当然ですが、まず最初に思い浮かぶのは、ネックエンドの幅とネックポケットのサイズが合っているかどうか、というポイントでしょう。
ここがユルユルだとネックがポケット内で動いてチューニングが安定しません。それから言うまでもなく、振動伝達にもロスが生じます。
逆にここがキツ過ぎると、ストラト等によく見られるように1弦側カッタウェイ付近にクラックが入ることになります
ポケットとのフィット感も重要ですが、私が同じくらい重視するのがネックポケットの深さです。これはネックエンド部分の厚みとの兼ね合いもありますが、これらはボディー面から出ている指板面の高さとして表れます。私個人としてはここが低い方がプレイし易く感じます
ベースの場合、スラップの際にここに指を入れる関係から、ここの間隔にシビアな要求を持つプレイヤーも多いでしょう
ネックポケットの底面を水平に彫り下げるのはシビアで苦労の多い工程ですが、中国製の安物の場合はここを雑に削られている物が多く存在するので、彫り下げるだけではなく、密着度を高める目的でも必ず調整が必要になる箇所です。
また、FENDER系であれば基本ネックポケットは水平に切削されていますが、ネックの状態によっては、シムを挟んだり、ポケット底面に緩い傾斜角をつけることで、ネック自体に仕込み角をつける場合もあります。
GIBSON系のベースをボルトオンネックでコピーした製品などは、ブリッジの高さが高いので、大抵はここに仕込み角が必要になります。
今回のベースは、さらに異なる問題もありました
画像で分かるように、依頼のベースはツバ無しの21フレットネックが装備されており、チェンジする左用ベースのネックはFENDERと同じ20フレットネックです。
フレット位置を合わせて並べると、EDWARDSのネックが15㎜ほど長く、ボディー側のネックポケットも見るからに長いです
これをそのまま装着すると、スケールを合わせるためにブリッジも15㎜ボディーエンド側に移動させることになります。
ネックポケットの突き当り部分を15㎜埋めてネックの突き出し量を増やす方法も考えましたが、そうするとヘッドヘビーの症状が出る可能性が高くなります。
なぜかというと、元の21フレットネックはそのことを見越し、ひと回り小さいヘッドデザインで、ペグも小型の物が装備されていました。
これが通常のFENDERヘッドで普通サイズのペグとなると、ヘッドヘビーとなるのは明らかと思われます。
事実、80年代のフェルナンデスではツバ無し22フレットのストラトやテレ、同じくツバ無し21フレットのプレべやジャズべを作っていましたが、ギターはそれほどではないにしても、ベースの場合はボディーが軽い個体はヘッドヘビーの症状のある物を何本も見ました。
そこで今回は20フレットネックをそのままジョイントすることにします
そうなると次に問題になるのは、15㎜後退したブリッジと各ピックアップの位置関係にも変化が生じることです
いうまでもなくサドルからピックアップが遠くなることで、音色は柔らかい方向にシフトします。それを回避するにはリアPUの位置も15㎜後退させ、ネックエンドから43㎜の位置に変更されるフロントPUとともに、3個すべてのピックアップの位置が変更されることになります
こうなるとボディーはもう弁当箱ザグリにしてしまいたい衝動に駆られます
これらを全て木材で埋めるのは相当な作業量で、木材からボディーを切り出した方が早いかとも思いますが…
ともかく1日に1箇所と決めて埋めました
木材で埋めるにあたって、ピックアップキャビティー内に入り込んだ塗料をそのまま残して埋めるのは抵抗があったので、トリマーで内部をさらって、塗料を削り落としてから埋めています。
埋めた部分のタイトボンドは乾燥に数日かかると思うので、ピックガードの製作を始めました。
ゴールデンウィークまでの完成を目指していますが、春休みを効率よく使えば、もう少し早く仕上がるかもしれません
…とか言って、あまり大口をたたくのはやめておきます