ロッドを締め尽くした上に極端な順反り状態だったネックをアイロン加熱矯正にかけました
この作業には、温度や加熱時間のほかに、アイロンと指板の間の距離、クランプをかける位置や強度といったノウハウが必要になります。これらは反りの状況や指板材の厚さ、メーカーによる接着剤の違いも考慮します。
今回は、クランプの位置を変えながら3回の過熱を実施しました。
ややハイ起きの症状も見られるネックでしたが、とりあえずロッドを緩め切ったニュートラル状態でスケールを当てた時の隙間はなくなりました。
ここからロッドを徐々に締めていくと、ネックは逆反り方向に動いてます。正常に戻りました。
当然これだけでは不十分なので、フレットの擦り合わせも実施します。
すでにフレットは5割程度だったのであまり多くは削れませんでしたが、ギターではなくベースなので問題はないでしょう。
「めでたしめでたし」と言いたいところですが、このベースにはもっと深刻な問題が存在していました
電装系のチェックのほか、ピックアップの増設とボリュームの追加だけであれば、丸一日あれば充分と作業を開始したところ…
ブリッジの下にプラバンが挟んでありました
サドルの下全体に渡って黒いプラバンが1枚、さらに4弦の下にピンク色のプラバンが1枚
どうも弦高をかさ上げする目的で挟んであるようでした
スタッドボルトを回しただけでは弦高調整はダメなのか
詳細をチェックしてみると、スタッドを上げるとガタの大きくなったブリッジプレートは弦のテンションに負けて前のめりに傾き、自然とエンド側が持ち上がる…
そうすると急な角度では曲がらないベース弦は、緩い弧を描いてサドルの上を通過…
プレート上に固定されていないサドルはポトリと落ちました
こうなるとオクターブ調整も不可能
思い出すと、GRECOのこの機種…
ハードオフで見かけるジャンク品は、それこそ十中八九FENDER系のブリッジに交換されてしまってます
つい最近(一昨日)も見ました
花小金井のハードオフでこのSGベース(2PUでしたが)、ブリッジがFENDER系の物に換装されて16500円でした。きっとまだあると思います。
さてどうしたものか…
依頼されたカスタム内容とは何の関係もありませんが、サドルの下にプラバンが挟まっていると思うと夜もオチオチ眠れません…
(ウソです)
サドルの幅と同じ10㎜径のアルミ棒をカットし、さらに縦にも切断
これにナットと同じ要領で弦溝を切ります。
元のサドルはプレス加工のハリボテですが、ソリッドのアルミ材に弦径に合わせた溝を切ることで確実に弦をホールドします。
当然、溝は指板のアール合わせた深さに切っています。
ついでに高さのピークを調整することでオクターブも合わせ易くアレンジしておきます。これで高さも充分(プラバンは不要)
アルミ材は剥き出しだと腐食も早いので、クリアラッカーを吹いて保護しておきます。
余計な手間をかけてしまいましたが、見た目も鳴りもずっと良くなりました
今度こそ「めでたしめでたし」と言いたいところですが、このベースには、さらに問題が潜んでいました
喜び勇んでサウンドチェックをしたところ、予想に反してフロントPUよりも増設したバイオリンベース用のPUの方がはるかにパワフルなんです
直流抵抗値はフロントのハムバッカーの方がずっと大きいのに、力強さを全く感じません
よく見ると、ポールピースがなく、それどころかネジ穴もなく、カバーの穴の奥に黒い壁が見えるだけです。
しかもえらく奥まった位置に埋没しています。
開けて正体を確かめると、ドイツ製シャーラーのハムバッカーが姿を現しました
ボディーのザグリを拡張してダイレクトマウントされていますが、ピックガードの無い4弦側はステーを潜り込ませる横穴を開けて挿し込む形で設置されています。
高さ調整は一切できないので、カバー内いっぱいまで高さを上げられず、埋没した位置に甘んじているみたいです。
これを改善するには、横穴を縦に拡張し、スポンジマウントすることでカバーの天井に着くまで上げることにします
本当はもっと弦に近づけられるようにしたいところですが、EBのカバーもネジ固定で上下できない構造のため、ヴィジュアルを重視するなら妥協するしかありません
とにかく出来ることは全てやり、あとは相対的に増設したピックアップの位置を下げることで何とか音量バランスは取れたと思います
これで「めでたしめでたし」と言いたかったのですが、このベースを正面から見ると、ブリッジが4弦側に1.5㎜ほどセンターずれを起こしています
これを修正するにはスタッドごと1弦方向に「お引越し」してもらうしかありませんが、他にもオーダー品が複数控えているので、あとは見なかったことにします