昨年暮に製作したテレキャスターのマリー・ケイ仕様は好評だったので、また近いうちに製作しようとは思っていますが、私としてはもうひとつ、気になっている仕様がありました
それはFENDER社が1958年に初めて3トーンサンバーストをストラトキャスターに導入し、その後1年ちょっとの間の僅かな期間にのみ存在した仕様「メイプルネック+3トーンサンバースト(ホワイト1プライガード)」が、テレキャスターには存在しないことです。
これはテレのマリー・ケイ仕様のように、当時のラインナップにあってもよさそうなのに、現実には存在しない仕様なのです。少々話が複雑になりますが、興味があればお付き合いください
ストラトは翌年の1959年以降も当然3トーンで塗られるわけですが、よく知られているように、59年後半にはそれまでのメイプルワンピースネックに替え、ローズウッド指板が導入されます。
これによってメイプルネック+3トーンサンバースト(白ガード)の組み合わせは、わずか1年強という短期間だけのレア仕様となりました。
対してテレキャスターは、もともとブロンドがスタンダードカラーであったため、3トーンはおろか2トーンサンバーストで塗られた50年代のテレキャスターすら存在しません。
FENDER社が正式にカスタムカラーをカタログでアナウンスしたのは1960年で、それまでは個人や店舗を通したオーダーなどで極少数受け付けていたに過ぎません。それでもストラトではかなりのバリエーションが写真集などで見られますし、一点物と思われるスパークルフィニッシュ等も確認されています。
いずれにせよFENDER社は自動車の色からアイデアを得ていたので、その気になれば何色にでも塗ることができたでしょうし、カラーバリエーションの少なかった競合他社に対して当時の新興メーカーであるFENDER社は、サービスの面からも他社との差別化が必要だったことでしょう。
…にもかかわらず、50年代のテレキャスターにはストラトのような奇抜なカラーがほとんど確認できないところを見ると、スタンダードカラーのブロンドで満足する人が多かったということでしょうか
テレキャスターに3トーンサンバーストが導入されるのは、1959年末のローズ指板導入直後にテレ最初のバリエーションモデルとして発表されたカスタムテレキャスターにおいてです。
装飾の類を極力排して機能性のみを追求していたFENDER社が、マーチン社に工員を派遣してまでノウハウを学んだバインディングを装着し、高級化を図ったモデルだったからでしょうか。カスタムテレでは3トーンサンバーストがスタンダードカラーになりました。この(指板とカラー)の同時仕様変更が、テレキャスターに「メイプルネック+3トーンサンバースト(白ガード)」が存在しない理由です。
ちなみに有名なアンディー・サマーズのテレは、1963年製のバウンドボディーに50年代のメイプルネックをジョイントした物らしいです。
それからキース・リチャーズの愛器には、有名な「ミカウバー」とは別に67~68年製と思われる貼メイプルネックに3トーンサンバーストのテレがありますが、フロントハム改造に際してピックガードが黒に替えられたと説明されており、もしそうなら交換前の白ガード(60年代末ならおそらく3プライ)が見てみたかったです
もう1本、私の持っているテレ本には、デヴィッド・ギルモアのメイプルネック+3トーンサンバーストが「50’S」という但し書きで掲載されていますが、これはエクスワイアにフロントPUを増設したもので、ネックは52~55仕様なのに3トーンサンバーストのボディーに8点留めブラックガードというのも年代が合わず、コンポーネントのようです。
同じようにジョー・ウォルシュのテレも掲載されていますが、50年代仕様のメイプルネックに3トーンサンバースト(ブラックガード)で、これは見た目が新品同様で、もはや年式は表記されず「その他」扱いになっています。
実は、この「メイプルネック+3トーンサンバースト(ホワイトガード)」仕様が、一瞬だけ存在した時代がずっと後年の75年にありました
ほぼ10年続いたローズ指板の時代が終わり、ストラトとテレには貼りメイプル時代を経て70年にメイプルワンピースネックが復活します。そして75年には別注によるカスタムカラー制度も廃止されて全ての塗色がスタンダードカラーとなります。この一瞬のタイミングを得て、テレの「メイプルネック+3トーンサンバースト(ホワイトガード)」が生産されたのです。
※ただし、70年代なのでピックガードは3プライガードですがね
なぜこの一瞬だけだったかというと、よく知られているようにテレとストラトは75年半ばには、ピックガードをはじめとするプラパーツが順次ブラックに変更されてしまったからです。なかでもピックガードがその先陣を切って最初に黒パーツに変更されたので、ストラトではガードだけ黒でPUカバーやノブは白、あるいはノブだけ白といったチグハグな物も存在しますが、テレはプラパーツがピックガードだけで、スイッチノブはそれとは関係なく最初から黒しかなかったので、継ぎはぎ仕様は存在しません。私のテレ本にはこの貴重な1本が、1974年製として掲載されています。
PUデイトかPOTデイトが74年だったのかもしれません。
それと、これを実際に使用したアーティストとして、ヴィジュアルと声質のギャップが激しい一発屋のクリストファー・クロスの愛器が掲載されています。
今まであまり意識することはなかったと思いますが、一瞬だけしか生産されなかった、この「メイプルネック+3トーンサンバースト(ホワイトガード)」のテレキャスター
まるで一晩しか羽ばたくことを許されないカゲロウのような存在であったことを覚えておいてください。
前置きが長くなりましたが、これを今回実家に持ち帰って塗装を剥いだSQUIER製テレをベースに、この幻の仕様を実現してみようと思います。現実には存在しない1プライガードで
ネックジョイント部中央の穴は塞いでしまいます。
今回もブリッジはオールドスタイルの3ウェイブリッジへ換装し、弦のバックローディング加工、ペグはクルーソンタイプへ、アウトジャックはカップ型へとそれぞれ交換します。
すでに完成しているので、明日UPします