作業中のSMUGGLER’Sテレですが、作業を一時中断いたします
壁にぶち当たった訳ではございませんで、ベースに使用したMAVISのテレのコード溝の形状が、画像を見ていただければ分かる通り、FENDERオリジナルとは違ってフロントピックアップキャビティーの中央に向かって伸びておらず、右端に接続しています。
このくらいの違いはそのままでいいや、と考えて作業を進めていたのですが、下塗りまで終わった段階で、「いや、こんなに形状が違うとやっぱ興ざめだわ」と思い直しました。それでキャビティー右側の土手を木質パテで塞いで整形し直し、加えてオリジナルと同じ位置に、切削されてしまったコード溝を復元。よりオリジナルに忠実な形状に仕上げることにしました。
パテを盛った部分は「約24時間で硬化する」と説明書にありますが、経験上、長い時間経過で次第に目痩せすることを確認しているので、ここは慌てて仕上げに入らず、内部までしっかり硬化するまでしばらく放っておこうと思います。
【作業そのものは順調に進んでおります】
さて、この間にSMUGGLER’Sテレキャスターの正体について、もう少し調べてみました。テレ本は国内においては近年矢継ぎ早にムック本が出版されており、手元にも6冊を数えますが、そこでは簡単に触れた程度の記述しかありません
【日本語のテレキャスター本は全部で6冊】
けれども、本場アメリカで出版されたテレ本であれば、もっと詳しい記述があるんじゃないかと思って探してみました
まずはDAVE HUNTERさんのこの本は、圧倒的なボリュームと写真の数で見ていて飽きない本ですが、話の中心はテレとその時代のミュージックシーン・アーティストとの関わりがメインで、SMUGGLER’Sテレについては沈黙していました
次にTONY BACONさんのこの本、タイトルはテレの完全な通史を謳っており、50年代、60年代、70年代、80年代、90年代、現代、という風にまとめてあります。注目の60年代ですが、特に後半のCBS時代に焦点を当て、68年に正式ラインナップに加わったシンライン、限定仕様のペイズリー&ブルーフラワー、69年の特別仕様オールローズテレ、さらに特別なBIGSBY搭載モデル、B・ベンダー搭載モデルなども紹介しています。しかしSMUGGLER’Sテレについては、やはり沈黙しています
最後にA.R.DUCHOSSOIRさんのこの本、80ページの小冊ですが、この本は技術者目線で各年代の細かい仕様変更にも目を向け、実に内容が濃いですSMUGGLER’Sテレについても詳しい記述がありました
やはり主目的は軽量化です。現実を見れば明らかですが、この加工が施された個体はブロンド・アッシュのギターだけで、サンバーストやカスタムカラーといったアルダー材のギターにこの加工を施した物は見られません(※この時期のアッシュは重い)。
この本でなるほどと思ったのは、60年代に入ってライバルであるギブソン社が、それまでのレスポールモデルを大幅に軽量化したSGモデルを市場に投入してきたことも影響しているという見解です。そういった事態を受けて、まずは見えないピックガード下を密かに削ったようです。しかしこの方法では、さすがにバレた時にショックが大きいので、1969年のオールローズテレでは、ボディー加工段階で中身をくり抜くことにしたのでしょう
実は1967年という年は、テレキャスターにとっては半端なく仕様変更の多い年でした。中でも最も大きいのはワイヤリングの変更で、現在の目からすると当たり前と言っていいフロント・ミックス・リアというセレクターのポジショニングは、実はこの1967年に初めて採用されたものです。1966年まではフロント(プリセットハイカット)・フロント(ノーマル)・リアという順序だったのです。それ以前の初期のテレキャスターは、トーンコントロールすらなく、マスターボリュームとフロントのブレンダーだったことはあまり知られていません。
レオ・フェンダーは、若干コンプがかったミックスサウンドは、実用的な音ではないと判断していたようです
1967年は他に、ペグが2列クルーソンからフェンダー自社生産のFキーに変更され、ノブがドームノブからフラットノブへ、ロゴがトランジションロゴからモダンロゴに変更されました。一方1967年の音楽シーンに目を向けると、J・ヘンドリックスがモンタレーポップフェスティバルにおいて衝撃的凱旋デビューを飾り、音楽シーンそのものにも大きな変革がもたらされつつあった時代です