ホラー小説 地獄タクシー 1章 双鬼 ① | 渡夢太郎家の猫

渡夢太郎家の猫

2008年 3月に蘭丸の2度目の子供ができました
これで、我が家は9匹の猫です

地獄タクシーはこうして始まった

今書いている地獄タクシーⅡ

1作目です


池袋の近くの要町から雨の中、

工事中の山手通りを渋谷に向かって

タクシー走っていた。


昼の12時近くは相変わらず渋滞で、

前を走るタクシーは次々に客を乗せて走り出す。

「ちくしょう、また拾われた」

豊島区のタクシー会社に勤めて3ヶ月の


夜野礼司はタクシーの運転手らしからぬ

176センチくらいのがっしりしたタイプで


髪の毛は短く精悍な感じの男で客の拾い方の

ノウハウをやっとマスターしてきたところだった。

西武新宿線中井駅の陸橋を越すと

傘をささず雨に濡れた老婆が手を上げた。

その姿は真っ白な髪に、

もう5月というのにグレーの

手編風のショール、

黒っぽいパンツをはいていて、

指先の切れた茶の手袋をしていた。


「やった」

礼司はハザードランプを

付けて車を左につけた。

しかし、今まで見えていた

老婆の姿はどこにもなかった。

「あれ?気のせいか」

その間に後ろから来たタクシーが

先で手を上げている男を乗せていた。


「ああ、また取られた」

礼司は後ろを見ながら車を発進した。

しばらく車を走らせ中央線のガードを

るとまた左側にさっきの老婆の姿が見えた、

今度はスピードを下げ左車線をゆっくり通ると

老婆は頭をゆっくり下げ、

助手席の窓から見えた瞬間姿を消した。


「うん」礼司は小さくな声でつぶやいた。

中野坂上交差点の手前で真っ赤な傘をさして

必死にタクシーを止める女性の姿が見えた。

前を走るタクシーはみんな客を乗せて

水しぶきを上げて、

彼女の前を通り過ぎて行った。


OK、今度は大丈夫だ

礼司はハザードランプをつけタクシーを

赤い傘の女性の前で止めた

「ありがとうございます。

あのNHKまでお願いします」

「はい」

「よかった、タクシーが捕まらなくて」

「よかったですね。

僕はお客さんが拾えなくて。あはは」

「出演ですか?」


「いいえ、オーディションなんです」

「では、1時から」

「ええ、間に合いますよね」

「はい、大丈夫ですよ。

まだ40分ありますから」

「すみません」

そう言って女性は化粧を直し始めた。

「ちょっといいですか?」


ルームミラーで後ろの女性を見た

「はい?」

女性はコンパクトの手を下ろした。


「北海道からですね」

「えっ、どうして?なまっています?」

「いいえ、そんな事ないですよ。

勘です。ただの勘です」

「すごいですね、

そんなのわかりますか?」

「あはは、まあね。がんばってください」

ありがとうございます。私、女優になりたくて

両親の反対を押し切って旭川から出てきたんです。

でもいつまで経ってもうまく行かなくて、


プロダクションとの契約も今日だめだったら


切られてしまいそうなんです


大変ですね

「ええ、去年私の事を応援してくれていた

祖母が亡くなって」

女性は目を潤ませていた。

「なるほど」礼司は囁いた

「はい?」

「あのー、よかったらこれを」


礼司は助手席にあった小石を左手で渡した

「あっ、懐かしい」

女性は手のひらに乗せた瞬間に言った

「十勝石。私いつもお守りにしていたの。

ああ忘れていたこの感触」

女性は手の平でなでて暖かさを感じていた

「あはは、そうですか。

どうぞ持っていってください」

「いいんですか

「はい、あなたの役に立てば」


車は井の頭通りをに入りNHK

入り口に着礼司は振り返って

2100円になります」

「ありがとうございます。


おかげで間に合いました」

「がんばってください」

「はい、お守りありがとうございます」


礼司は料金を受け取り車から

降りて礼をする女性に

「あっ、猫のごえもんも応援してるそうです」

ドアを閉めて車を走らせた

「ごえもんって、うちの猫の名前・・・。」

呆然と立ち尽くす女性の脇にはさっきの

老婆が頭を下げていた。


つづく