理解しているつもりが一番危ない
人は、自分の身近な人ほど「理解している」と思いがちだ。
でも本当は、人は自分の心のすべてを
言葉にしているわけではない。
本音と建前があったり、相手に合わせて言葉を選んでいたり、言えない気持ちを抱えていることもある。
だから私たちは、相手を理解しているようで実はほんの一部分しか見えていない。
私の父は、いわゆる亭主関白タイプだった。子どもの頃から、私は父のことを
「強い人」
「頼りになる男らしい父」
だと思っていた。
それを疑ったことはなかった。
しかし、母が病気になり、寿命について考えなければいけないと言われて母が入院してから、父の様子がおかしくなった。
病院に来ても母に声をかけない。顔も見ない。
ただ私を迎えに来るだけだった。
そんな父が、私は許せなかった。
あるとき私は父にこう言った。
「明日、お母さんが亡くなっても後悔しないの?」
父は言った。「後悔しない。」
その言葉を聞いたとき、私は父のことが理解できなかった。
どうしてそんな冷たいことを言えるのか。
そう思った。
でも母が亡くなってから、父の本当の気持ちがわかった。父はどんどん元気をなくしていった。
「もう死にたい」と言うようになり、
働き者だった父は寝てばかりいるようになった。
その姿を見て、私は気づいた。
父は母に思いがなかったのではなく、
思いが強すぎて現実を受け入れられなかったのだ。
私は子どもの頃から「父は強い人」だと信じていた。
でも本当は、父は強い父であり続ける役割を背負っていた人だったのかもしれない。
父は不器用で、優しい言葉をたくさんかけてくれる人ではなかった。
でも行動には、家族への愛が溢れていた。
家族のために働き、家族のために動き続ける人だった。
子どもの頃は、父のことを「優しい人」とは思っていなかった。
怒ることも多かったし、躾で叩かれることもあったからだ。
でも今思えば、父は誰よりも私の将来を考え、的確なアドバイスをくれていた。
そして私の友人が家に遊びに来ると、
精一杯のおもてなしをしてくれていた。
それを最近、友人から聞いて改めて父の愛に気づいた。
私はすっかり忘れていたけれど、父は私だけでなく周りの人にも愛を向けてくれていたのだ。
子どもの頃は、わかりやすい愛しか受け取れない。
自分の思い通りにしてくれること。
優しい言葉をかけてくれること。
そういうものだけを愛だと思ってしまう。
その言葉の奥にある思いまで想像することはできない。
私の父は
男として
夫として
父として
家族を守り続けてきた人だった。
母が亡くなった後、元気をなくした父に私はこう聞いた。
「お父さんは今まで、病気のお母さんを支えようと頑張ってきたよね。
そのお母さんが突然いなくなって、自分の役割がなくなってしまったから、どうしていいかわからないんじゃない?」
父は言った。
「そうかもしれない。」
父は家族のために生きてきた人だった。
その目的がなくなったとき、
父は生きる意味を見失ってしまったのだ。
今になって思う。もし、もっと早く父のことを理解できていたら、違う言葉をかけてあげられたかもしれない。
人は身近な人ほど「理解しているつもり」になりやすい。
でも相手がすべてをさらけ出しているとは限らない。
言葉や表面的な行動だけを信じてしまうと、見逃してしまう愛がある。
理解しているつもりは、思い上がりであることが多い。人を本当に理解することは、簡単ではない。
だからこそ、決めつけず、想像し、
相手の奥にある思いに
目を向け続けることが大切なのだと思う。
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