※74話の続きです。

 
「みっひろーん☆お疲れ~」
受験を控えた中学3年生の案内を終えた実尋は、帰りの支度を終え教室から出ると、恋華がやってきて声をかけた。
 
「あー恋華☆おつかれ~♪」
「みひろん♪、一緒に帰ろう!」
実尋と恋華は、帰り道にスイーツパラダイスに寄った。
 
「あー!恋華ぁ・・・あのコだよ!今日見学に来たコ!」
実尋は、指さした。
 
そこには、共有鯖船学園に見学にやってきた男子。近藤勇実は、ひとりでスイーツを食べていた。
夢中で甘いものを頬張る所を見ると、よほど甘いものに目が無いのだろう。
 
「・・・・・甘いもの、好きなんだね~」
恋華は、勇実の食べっぷりに固まった。
 
「うん♪今日の見学会の時も、女の子に飴をもらって、口の中に入れる度に自分の世界に入っちゃってたよ♪」
「ふーん、初対面なのに・・・そのコ、女のコから飴もらってたんだ?」
「うん、見た目は爽やか男子だったからねー。もしかするとモテるコかもねー♪」
「うーん・・・いくらモテるって言ってもさぁ、普通・・・初対面で飴玉をあげたりするかなー?しかも、学校の見学会で、みひろんが真面目に説明してる中で・・・」
「ははは、でもねー・・・その女のコ、恋華になんか似てたんだよ~。だから注意とか、あんまり出来なくて~」
「えっ?私って、そんなに空気読まないコかな?」
恋華が実尋に聞き返すと、一瞬お互いの目が合い固まった。
 
-うん、空気読まないコトあるよ・・・-
-もしかして、空気読まないってマジで思われてたの?-
 
という二人の脳裏の言葉があったかは、定かでないが・・・・
 
「・・・・・・・ハハハハハ」
「ちょっとー!笑い事じゃないよー!」
実尋は、明るく笑い飛ばした。こんな状況を乗り切る為に日本人には、「笑って誤魔化す」というスキルがあるのだろう。
スイーツパラダイスで、ひたすらスイーツを食べてから、実尋と恋華は店を出た。
尚、近藤勇実は、二人が出た後もまだスイーツを食べ続けていた。
「ん~~、久しぶりにスイーツを食べたぜ☆」
「まだ、あのコ食べてたね・・・」
「よっぽど好きなんだね・・・・」
実尋と恋華は、店を出てからチラっと窓から勇実の食べっぷりを覗いた。
 
2人は、学校の最寄り駅に向かって歩き始めた。
「もうすぐ、3月になるね・・・」
「うん・・・・」
「2年生も、もうすぐ終わっちゃうね・・・」
「うん・・・・」
「あのね・・・恋華、3年生になったらイロイロ受験とかで忙しくなっちゃうと思うから、今の内に聴いておきたい事があるんだけど・・・」
実尋は、前を向いた状態で恋華の顔を見ないで話した。
 
「・・・・・・・・・・・・・」
実尋の口調が重いトーンというか、真剣な話し方だったので、恋華は黙って聞いた。
「恋華、新宿クンの事・・・どー思う?」
「っ!!!」
恋華は、立ち止まって思わず両手をコートのポケットの中に入れた。
 
「ワタシは、恋華の事が大好き・・・だから、恋華には絶対に幸せになって欲しいと思ってる・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でもね・・・・・」
恋華は、実尋の顔を見た。
 
「イ・ヤムチャさんは、ワタシに好きだって言ってくれた!・・・ワタシは、イ・ヤムチャさんのそのキモチに・・・」
 
「イ・ヤムチャさんの好きってキモチに応える事が出来なかった!自分のキモチを偽って、彼の純粋なココロに応える事なんて・・・ワタシには、出来ない!!」
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
「ワタシ、中学の時は・・・まともに、好きな人に告白する勇気なんか無かった!でも今回は、好きな人にちゃんと告白する!だから恋華も・・・・」
 
「・・・・・っ!!」
恋華は、左のポケットに入っているポケベルを握り、ボタンを押した。
ピ、ピ、ピ、5、0、5と・・・
 
「ちゃんと自分に嘘を着かずに、好きは人に告白して!ワタシは、恋華にも幸せになって欲しい!もう、お互いに後悔せずに思いっきりぶつかろう!」
実尋の言葉に、恋華はギュッと目を閉じて首を横に振った。
「!!!恋華ァ!ワタシを見て!アンタの事が大好きな渋谷実尋だよ!お互いにホンネを言おう!!そーじゃないと、また中学生の時みたいに蟠りが残って後悔して・・・」
実尋は、出来る事なら恋華にも幸せになって欲しい。この際、自分が好きな相手が恋華と一緒になるのならその時は全力で祝福したい!そして中学時代の様にお互いに遠慮する形になれば、必ず蟠りが残る。
それ以上に、全力のキモチをぶつけてくれたイ・ヤムチャさんのキモチに応える為にも、
 
限られた時間の中で、
 
自分の気持ちを伝えたい!自分だけキモチを伝えるのも抜け駆けするみたいで嫌だから・・・
 
自分に遠慮せず、恋華にも自分のキモチを伝えて欲しい!
 
 
ブーーーーン
実尋が、恋華に気持ちを伝えようとしたその時、大きなエンジンの音を立てて長身の男が乗ったバイクが急接近してきた。
 
「えっ?!」
実尋は、とっさにバイクに乗った長身の男の顔を見た。ヘルメットをかぶっていた為、顔は良く見えないが、ヘルメットの前方のシールド(プラスチック製で目の辺りを保護してくれる部位)の辺りも紫外線避けの為か良く見えないが、中の人物の特徴的なエメラルド色のカラーコンタクトの瞳がキラリと光って見える。ヘルメットの襟足の辺りから肩の辺りに少し黒髪がはみ出している為、恐らく中の人物は長髪なのだろう。
 
「みひろん♪私、この人と付き合っているの!」
「えっ??」
実尋は、にわかに信じられない恋華の言葉だった。
 
「いつから、そーなっ・・・(ゴス)グハッ・・・」
バイクに乗った長身の男は、恋華の台詞を否定しようとしたが、台詞を言い終わる前に恋華に拳を腹に入れられてしまった。
「オホホホホ・・・ちょ、ちょっと照れ屋さんなの!まぁ、良くあるツンデレ彼氏なの☆」
恋華は、バイクの横に着いているサブの(もう一つの)ヘルメットを被った。
 
「私達、これから風の様に駆け抜けるのよ♪まさに、バイクデートって奴☆」
恋華は、長身の男の後ろに捕まった状態でバイクに乗った。
長身の男は、左手で自身の(恋華に殴られた)腹を軽くさすった。
 
「恋華・・・・・」
実尋は、静かに名前を呼んだ。
 
「じゃあ、みひろん☆私達は行くわね♪・・・ホラ☆早く行って!」
恋華は、急かす様にバイクを運転している男に言うと、長身の男はハンドルのグリップを握り勢いよくバイクを走らせ実尋を一人残して去って行った。
 
ブーーーーーン
 
 
 
 
「・・・・恋華。それがアンタの出した答えなのかい?それがアンタのホントのキモチなのかい?・・・恋華がそれで良いなら、ワタシは何も言えないけどさ・・・」
 
――ワタシは、先に前に進むよ!
実尋は、スマートフォンを手に取った。
 
 
「もしもし、新宿クン・・・もう、帰っちゃったかな?」
実尋の電話した相手は、新宿ネロだった。
 
「駅?・・・・そうか、これから少し時間あるからな?ゴメンね、ちょっと新宿クンに話したい事があってさ・・・」
ネロは、学校の最寄り駅におり、電車に乗ろうとしていた所だった。このままネロに帰ってもらい、話をするのは明日にするという選択肢もあったのだが、実尋は決心が鈍ってしまいそうだったので、今日キモチを伝える事にした。
 
「・・・・うん、学校で待ち合わせでも良いかな?」
学校の正門で待ち合わせをしようと伝える実尋だったが、ネロの「渋谷が寒い思いをするのはイケないから」という提案で、学校の教室の中で待ち合わせするという事になった。
 
「フフフ・・・優しいんだね。じゃあ、そーさせてもらうよ☆あのね、新宿クン・・・とっても大事な事を伝えたいんだけどさ、ワタシ臆病だから・・・ワタシが逃げそうになったら、ちゃん捕まえてね・・・」
 
 
 
☆☆
 
「うー、ワリと寒いなァ・・・よぉ☆渋谷ぁ・・・待ったか?」
ネロが、学校の教室にやってきた。
実尋は、窓から外を眺めていた。
「うぅん・・・」
実尋は、首を横に振った。
「呼び出してゴメンね☆」
 
「ねぇ、新宿クン・・・ここの窓から校庭が見えるじゃない?覚えてる?2年生になったばかりの頃の事・・・・」
「2年生になったばかりかぁ・・・カナリ前だから、忘れちまった・・・」
ネロは、後頭部をかいた。
 
「2年生になったばかりの頃、ここの窓から見えるそこの校庭でね、新宿クン御徒町さんとずっと話し込んでて、ホームルームに遅れちゃった事があってねー・・・・」
「あー・・・そーいや、あったなー・・・あの時、イロイロ遅刻して職員室に呼び出しされて、目黒先生からカナリ説教されたな・・・」
「フフフフ・・・そーだったんだ・・・」
 
「でも、その時にな・・・目黒先生は、良い事も言ってたんだよー」
「へぇ~・・・どんな事?」
 
「俺が、ちょいと居眠りした後だったんだけどな・・・良いか?よく聞け、人生ってのは一回きりだ・・・
「・・・・・・・・・・」
実尋は、窓を閉めてネロの方へ向き直った。目黒先生の言っている内容がカナリ真面目な内容が、今の自分に当てはまっていると感じたからだ。
 
-てめぇが、居眠りしながら時間を過ごしても、ぶっちゃけ俺が印鑑を押して卒業させてやる事も出来る・・・-
 
-でも、オマエ自身の高校生活は二度と戻って来ない・・・-
-学生ってのは自分(テメェ)の金で酒を飲む事も許されない、味気の無い時間でもある・・・-
 
-だが、学生でしか出来ない事、今しか出来ない事もある・・・そうだろう?-
 
 
――今しか出来ない事もあるか・・・
実尋は、少し下を向いた。
 
 
「あっ・・・そーいや、話ってなんだっけ?なんか渋谷大事な話があるとか・・・」
 
「えっ!・・・えっと//////」
実尋は、少し声が振るえて緊張した。いざとなると、自分の言葉が口に出せない。
 
「そーそうだよね・・・なんか、目黒先生っていうか、妹の恋華も・・・あそこの兄弟って、別格だよねー・・・なんか言う事に重みがあるって言うか・・・」
「あー、確かにそーだな・・・恋華なんかも、俺達と同じ歳とは思えない妙な貫禄あったし・・・髪染めて、カラーコンタクト入れてヤンキーみたいな見た目のクセに、やる事やってるからな・・・テストも満点だし、俺に勉強のやり方教えてくれたりしたし・・・」
「うんうん・・・ワタシも、居眠りした時に、恋華にノートを見せてもらったりしたし・・・アハハハハ・・・・」
 
「あっ、ワリィ話が逸れちまったな・・・話って・・・」
「・・・・・あ、その恋華なんだけどさ・・・今日さっき、一緒に帰ってた時・・・なんだか、自分の中でキモチをため込んでいたみたいで・・・・なんか、新宿クン・・・こ、心当たりないかな・・・・と・・・・」
――ダメ・・・何言ってるの、ワタシ・・・そんな話をする為に呼び出したんじゃない!
実尋は、スカートをギュッと手で握った。
――何で言い出せないんだろ・・・自分のキモチを伝えるって決めたのに・・・・どーしてもタイミングが掴めない・・・・
 
「そっかぁ・・・それは、気になるな・・・アイツもため込む時あるしな・・・解った!俺が明日恋華に会って聞いてみるよ☆あっ、流石にそろそろ時間がヤバイな・・・今日、中学生の案内とか会って、その後イロイロ片付けして・・・結構もう遅い時間だ・・・・」
ネロは、時計を見ると荷物を持って教室を出ようとした。
 
「渋谷、そろそろ教室を出ないと・・・流石にマズイぜ?景親先生が職員室に残っているけど・・・見回りに来たら流石に怒るぜ?一応学年主任講師だしな・・・」
ネロと実尋は教室を出た。
 
ついに、実尋は自分のキモチを言う事を諦めようとした・・・もぉ、完全にタイミングを逃してしまった・・・
流石に、学校案内した後の残り時間が少ない状態で勢いでキモチを伝えるには、無理があったのか・・・
それ以上に、不安が強すぎて言葉が口に出せない・・・・
 
そんな時、イ・ヤムチャに、自分が言った言葉が蘇った。
 
-忘れないから!ワタシ、イ・ヤムチャさんの事絶対忘れないから!-
 
――そうだ!忘れちゃいけない!イ・ヤムチャさんの事を・・・ワタシに気持ちをぶつけてくれた人の思いを、覚悟を!!
 
実尋は、廊下で足を止めた。
自分より、前を歩いて行く新宿ネロの背中を見ながら、溢れ出る涙を制服の袖でゴシゴシ拭いた。
 
 
「新宿クン!!」
実尋は振るえそうな声を張り上げた。
 
「・・・・!?」
ワタシは・・・
 
 
新宿ネロの事が好きだよ!!!
 
 
 
つづく