おじいさんが病で倒れて一年。ずっと寝たきり。
この家には一人と一匹が住んでいる。
犬である僕と天涯孤独のおじいさん。
毎日、医者やヘルパーが来ているけれど動いたり、しゃべったりしない。

犬である僕もおじいさん同様のご老体。
もう少し若ければ、走り回ってワンッ!ワンッ!吠えただろう。
そんなことが出来ない今は傍で大人しく寝起きしているだけ。


「マツ君。今日のご飯だよ。」

エサを前に出してきたヘルパー。・・・そろそろ帰る時間か。
重たい体を起こしてエサを食べる。ゆっくりと。


「おじいさん、早く治って欲しいよね。いつも一人で寂しいでしょ?」

「クゥン・・(そうだね。もうずっと声聞いてない。)」


ヘルパー頭を撫でられながら、もう一回吠えてみた。
おじいさんを見たけど、やっぱり何も言わない。
分かっていたけど・・・。僕はエサに集中することにした。


「それじゃまた明日ね、マツ君。」


今日もまた始まる、一人の長い夜。
本来なら病院にいるはずのおじいさん。何でも”マツがいるから”という理由で自宅療養。
僕なんか気にすることないのに。
声に出しても所詮は、犬。
ワンッ!だけで理解できる訳がない。
何か悔しくなった僕は「ワンッ!!」と吠える。

シーンとなった部屋に月明かりが射す。
おじいさんはピクリとも動かない。
・・・まるで一人でいるみたいだ・・・。
悲しくなって伏せた。
月明かりが眩しく目だけあける。


「クゥン。(犬じゃなく人だったら、おじいさんに何かしてあげれたかな・・・)」

その日の夜はいつもより長く感じた。


あれから日にちがたち、おじいさんの容態は徐々に悪化していった。
呼吸が弱くなっていく。
医者も”そろそろ峠かもしれないね”と言っている。


「(おじいさん・・いなくなるんだ。せめてもう一度だけ声が聞きたい・・)」


僕はおじいさんを見て、細くなった指をなめてみる。
やはり反応はない。


「マツ君。買い物行ってくるから、おじいさんの事よろしくね」


「(行ってらっしゃい)」


見上げる僕に頭を撫で、出て行った。
今日もまた・・・一人の長い夜が始まると思ったとき。


「・・・ま・・・マ・・・・ツ・・・・」


「!!ワンッ!!(おじいさん!!)」


「い・・・っ・・る・・・か・・・。マ・・ツ・・」


長い間眠っていたおじいさんの声はカスカスだった。
僕はワンッワンッと吠えながら、夢中でベッドに頭と手をのせる。
おじいさんは弱弱しく頭を撫でる。


「・・ゆ・・めの・・っ・・かで・・ん度・・も・・・マツを・・見た。
 お・・まえ・・を・・おいて・・っ・・なんて・・なぁ・・。
 おぼ・・えて・・るか?
 野良だった・・とき・・よく・・わしの・・っ・・さいの・・と・・なりで
 寝て・・いた・・なぁ。」


覚えているさ。
だってあそこが気持ちよかったんだから。


「ひ・・とり・・みの・・っ・・しが・・お前が・・生きる証と・・なった。
 こうして・・わしの隣に、お前がいることを・・何度・・ゆめ・・見たことか・・。
 最期の・・楽しい・・じんせい・・っ・・だ・・った・・。
 マツよ・・長・・生・・き・・する・・っ・・だぞ?」


「ワンッ!ワンッ!(してやるさ!長生き、おじいさんもだぞ!?
 また・・あの時みたく僕のリードひっぱってくれよ!おじいさん!!)」


がむしゃらに吠え続ける。
僕の言葉が通じたのか微笑んで頭を撫でる。


「げ・・き・・な・・マ・・ツ・・。」


突然の機械音。
おじいさんの手も力なく落ちた。


「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」

僕はずっと吠え続けた。声が枯れたっていい。
やがてヘルパーがあわてて帰ってきた。


「どうしたの!?マツ君、外まで聞こえて・・っ!?樫村さん!!」


ヘルパーが電話で医者を呼んでいるときも。
医者にうるさいって怒られても。
ひたすら、泣き叫ぶように吠えるだけしか出来ない僕なんだから・・・







____________ 4年後    _______








「(やっと見つけたよ)」


桜がひらり、ひらりとおじいさんの墓の上を舞い落ちる。


「ワンッ!(探したぞ?おじいさん)」



おじいさんが死んだあの後、埋葬し、この地に墓が建てられた。
家は古く年期がたっていることから
取り壊されることとなった。
おじいさんとの思い出の家も帰る場所もない僕は再び野良の生活に戻った。


「(でも、野良のおかげでおじいさんを探すことが出来た。
  どうだ!見上げた忠誠心だろ?)」


鼻を高くしながら墓を見上げる。
そして旅の途中で拾った花、ヘリオトロープ。


花をおじいさんにあげようとしたとき、僕の体は力なく倒れた。
もう手を動かす力も残っていない。


「(・・もうちょっとだったのに・・)」


そりゃ・・そうか。
旅に出る日もかなりのご老体。最期の力を振り絞ってここまで来たんだから。



「(おじいさん。
  僕もおじいさんに出逢えたこと・・最期の楽しい思い出だったよ。)」



「・・ヴ・・ワンッ!!」



聞こえただろうか。
次、生まれてくるときもまた・・。
おじいさんの元へ・・。そのときは・・もし・・出来るなら・・



・・・ひとのすがたで・・・



目を閉じる瞬間、笑顔で手を差し伸べているおじいさんが見えた。







_____________ END ________________





BGM 花(ORANGE RANGE)








~~ あとがき ~~




ずいぶん待たせました。
最近小説から離れていたため変な文章があったり。
それは・・・暖かい目で見てください。

この話の題材となった、ヘリオトロープ。
これ、5月24日の誕生花なんです。本当は当日に書く予定でしたが、
しばらく小説を書いていないもので思い浮かんだのも今日なんです。
オレンジレンジの「花」を聞きながら書いたら・・泣いちゃって笑
作者が泣くなんて・・笑
それでは、また・・書かせていただきます。



☆ヘリオトロープ(立木瑠璃草)☆

☆誕生日☆

5月24日

☆花言葉☆

誠実・献身的な愛・陶酔・余韻・熱望・忠誠心・永遠の愛・私は貞節を守ります。