そういえばナチス政権下の収容所に収容されて、無事生還できた人の自著伝を読んだことがないなと思い、「アウシュヴィッツのタトゥー係 著ヘザー・モリス 」を読んでみました。
タイトル通り、アウシュヴィッツ収容所で被収容者の腕に、その人に当てられた番号を数字で彫る仕事をしていた20代男性の体験談が書かれた本です。名前はラリです。
ラリも収容者として連れてこられた方で、スロバキア出身です。イケメンで、なおかつ言語に堪能であり、母国語、ドイツ語の他、ロシア語、その他計6つの言語を話すことができ、収容所を脱出したあと、着の身着のままで故郷に戻ろうとする途中、この語学力を行き掛かりのロシア兵に買われ、ロシア兵の元で働くことになります。
読んでいると、ラリはつねに冷静に周りの状況を判断し、上手く立ち回るために知識を得ようとしたため、生き延びることができたと思います。それ以上に、どんなに過酷な状況下にあっても「絶対に生きてここ(収容所)を出る」という信念が強く、そして収容所で出会った8歳年下の彼女の存在も大きかっただろうと思われます。
収容されあまりの酷い生活に絶望してしまった方は、電流が流れているフェンスのところへ行って自ら命を絶ったり、ナチス兵士の前で失態をおかして、銃で撃たれた人もいたとリアルな描写が書かれていました。女性数人が仕事場から火薬をちょっとずつ爪の間に隠して持ち出し、手りゅう弾を作って反乱を起こそうとしたが未遂に終わったこともあり、もしその反乱が成功していたらどうなったのか、そういうパラレルもありそうです。
本の中に出ていた収容者用の食事がじつに粗末で量が少なかったため、現在写真として記録が残っているとおり、栄養失調で亡くなった方が多かったのだろうと思います。
ラリが仲良くしていたロマ族(ジプシー)の人達がガス室送りになった記述があり、読んでいる側も辛くなりそうなシーンがその他にも多々ありました。
自分は強メンタルなほうですが、もし自分も収容されている身だとして、親しくしていた人がいきなりガス室送りになったら、相当きついだろうなと思います。それで精神がおかしくなったり、ナチス兵士に反抗したりしたらおそらく自分もすぐ殺害されるため、そのようなギリギリの環境下で生活を強いられるのは凄まじいことだったと言えます。
この本のわりと最初らへんに出てきた「1人を救うことは世界を救うこと」という言葉が、大変心に残りました。ラリが言った言葉です。「たった1人しか死から助けることが出来なくても、それはその人の世界を救うこと」という意味です。
これは人として原点に返って考えさせられる言葉だと思いました。
ラリが収容所に来てから数日後に病気で倒れ、死体だと思われて運ばれそうになってたところを、他の収容者の男性が必至で助けたシーンがありました。その助けてくれた男性はそのせいで亡くなってしまいましたが、1人死から助けることができたから、その人は世界を救った英雄であるわけです。
ラリは2006年にお亡くなりになっており、奥さんは2003年に亡くなっています。あとがきによると、故郷に戻ってから収容所で出会った奥さんと結婚し、生地の販売会社を立ち上げて財を成し、政治的理由で一度逮捕され、釈放されてからデザイナーに転身しています。波乱万丈な人生です。
この本は図書館の児童文学のコーナーにありましたが、内容があまりに重いため「本当に小中学生向けなのか」と読みながら思っていましたが、ここ10年ほどで戦争を体験している世代が大勢お亡くなりになっているため、本を通して当時のことが知れるんだったら良い機会なのかなと思います。