『桐島、部活やめるってよ』
                    朝井リョウ


この小説は朝井リョウさんが高校生の時に書いた作品で、高校生とは思えない鋭い観察眼でリアルな高校生の姿が描かれている。




イケメンで運動もできる、高校の中でもとりわけ目立つ存在である桐島が部活を辞めたことで少しずつ変わり始める桐島を取り巻く周同じ学校の人々の様子が描かれている。

話は6話に分かれており、1話と6話は同じ人物、それ以外は、それぞれスポットライトがあたっている人物が異なっている。
ここで重要なのは、肝心の桐島本人は物語の中に登場することはないということだ。
桐島の人物像は話中の登場人物からの供述でのみ表されている。


〔あらすじ〕

1話 菊池宏樹...野球部の幽霊部員
菊池は中学から運動神経がよく、高校の部内でも野球が上手い方で、将来を渇望されていた。しかし今は野球部幽霊部員だ。放課後、菊池は友達の竜汰と共に馬鹿な話をしながら下校している。

2話 小泉風助...バレー部リベロ
バレー部のキャプテンでリベロである桐島が部活を辞めるという話を聞いて、同じくリベロで補欠の小泉風助は動揺していた。同じポジションとして信頼していた桐島の退部にショックを受けると同時に試合に出ることが出来る嬉しさも感じていた。

3話沢島亜矢... ブラスバンド部部長
沢島亜矢は片思いの相手である竜汰が放課後にバスケをしている姿を窓から眺めながら毎日楽器を練習していた。しかし、ある日竜汰に彼女がいることを知ってしまう。

4話前田涼也...映画部部員
映画が大好きでクラスで目立たず、地味な存在である前田涼也。彼の所属する映画部が撮った映画が賞を取った。賞を取り勢いづいた彼らは更に映画撮影に没頭する。

5話宮部実果...ソフトボール部
義理の母と暮らす宮部実果。その仲は決して悪くない。しかし、義理の母は実の娘のかおりと夫が事故で亡くなった後に精神が不安定になり、実果を実の娘であるかおりと思い込んでいる。
文武両道であったカオリはソフト部の4番であった。義理の母に自分を見てほしい実果は4番を奪うためがむしゃらに練習する。
 
6話菊池宏樹...野球部幽霊部員
練習試合の度に部活に戻るように勧誘してくる野球部部長、地味でダサいけど映画に青春を捧げている前田、カラオケで店員に怒られるまで練習したブラスバンド部、全てを持っているのに部活を辞めた桐島。それらを見ていると、立ち向かいも逃げることも出来ない自分にイライラした。

菊池は部活に行かないのに毎日野球部のカバンで登校すし、サボることで『本気でやって何もできない自分を知ること』から逃げて誤魔化していたことに気づいた。

ここで菊池が桐島に、
『お前は俺と違って、本気で立ち向かえるものに今まで立ち向かってきたんだから、そんなちっさなことで手放してしまったらもったいない』
と言おうと決心し、校門と逆方向に歩き始めるところで話は終わる。


...............

私がこの話を初めて読んだ時、とても衝撃を受けた。ここまでリアルな青春小説を読んだのは始めてだったからだ。一般的な青春小説も桐島部活やめるってよと同様に恋愛や部活の話が多いが、あくまでもキラキラした青春であり、理想の青春を描いたフィクションに近いようなものが多いと感じる。
それに対してこの物語からは、どこにでもありふれているような一般的な高校生の日常を感じた。フィクションより、実際にある感情や雰囲気を描く方が難しいと私は考える。
しかも、この話を書いた時朝井リョウさんは高校生だったことが衝撃的だった。自分や同年代の人達をここまで鋭く描写できる冷静さや洞察力も持って人がなかなかいない。




また、この話を通じて言えることは、やりたいことが決まっていてそれを全力で頑張っている人たちは報われる結果に終わるということだ。

物語の主人公といえる菊池は、本気でやっても何も出来ない自分から逃げ続けていた結果空っぽな青春だけが残った。

それに対して、映画部の部員前田は、作った映画が賞を取り、最終的には中学から片思いしているかすみをフィルムに収めるという長年の願望も叶えることができた。

風助は桐島の代わりという形だがレギュラー入りすることができた。ブラスバンド部、ソフトボール部も最終的には表彰されるほどの成績を収めることができている。


これが、朝井リョウさんが物語を通して伝えたかったことなのではないかと思う。




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朝井リョウさんは、
大学生の時には就活を題材にした『何者』
社会人になってからは『スペードの3』
など、本人が感じたことが鋭く描写してある物語を書いている。 


 
読む度に驚かされるし、学生の時と社会人の時の差を感じるのも面白いので、是非読んでみて欲しいと思う。






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