小説家への道
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 白銀に輝く鎧を身にまとい、黄金色に煌く髪を無造作になびかせ、ジステスは息を吐いた。


 それはジステスの人生で経験したことのない強敵を目の前にどうしようもない緊張感を吐き出すとともに、真実であって欲しくないと願うジステスの思いを自らの目で確かめどうしようもない現実が裏切る虚脱感に仕方のないことであったかもしれない。


 「ディラン将軍・・。なぜ・・。」


 それでも近衛騎士団の誇りと、骨身に叩き込まれた戦士の精神が、ディランを敵としてその刃を揺ぎ無く向けていた。そして、ジステスに叩き込まれた戦士の力は、目の前の強敵ディランによって授けられたものである。


 「ジステスよ。ここで倒れるのはいずれか。それは剣の世界に生きる我々にとって避けようもない運命だ。だが、ひとつだけ言っておこう。ジステスよ、人の世の無常を知れ!」



 -人の世は儚い。繰り返す喜びと悲しみも忘却の彼方へ忘れ去られそしてまた繰り返す。-




 ジステスの目の前に立っているのは、いつも戦場でその存在を感じるだけで味方に安堵を与え、敵に恐怖を与えた偉大な戦士であり、そしていま、荒れ狂う海に立ち向かうような恐怖を与える畏怖の対象であった。


 「参る」


 ディランは相手の腹の底に響き勇気を挫くような声で一言短くつぶやいた。


 

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 城の中心部に位置する大広間につながる長い回廊との境にある扉が突き破られ、白銀の鎧を身にまとい、近衛徽章をきらびやかせた重装備の戦士たちが続々とディランたちに迫りつつある。

 「謀られただと?」

 同士の一人が玉座の間を背に、近衛兵たちを睨みながら聞き返した。

 「ヴュエニュー卿もジェッセン公も裏切ったわけではないのかもしれん。」

 大広間には衛兵がディランたちを待ち受けていた。だが、玉座の間には王がいない。しかし、玉座の間にも兵士を控えさせていればディランたちを挟撃することができたにも関わらず、兵士すらいないのである。

 ディランが思いを巡らすまもなく、近衛第二小隊はディランたちを取り囲み、小隊長が割れんばかりの声で叫ぶ。

 「ディラン将軍!ブッフェン国王及びヴェギドリア王国に対する反逆の罪にて、貴殿を拘束する!ひっとらえろ!」

 重装備の近衛第二小隊40名に対し、鎧すら身にまとっておらず剣一本しかもたないディランたち10名では勝負は明白かと思われた。が、老齢にもかかわらず数々の戦を潜り抜けてきた歴戦の猛者たちである。巧みに動きを封じられぬよう軽装が故の身軽さで重装騎士たちを翻弄し、脱出の機会をうかがった。

 第二小隊は歴戦の猛者たちの動きについていくことができず、大広間は瞬く間に混戦状態に陥り、小隊の統率が乱れ始める。

 「ディラン将軍!」

 まだ20歳そこそこであろうか。混戦の中、ディランの威圧感に近衛兵達が一歩引いたところを、少年をいま脱ぎ捨てたばかりのように生気を放つ黄金色髪の青年が、唇を噛みしめディランの前に進み出た。


 「ジステスか・・。」

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 大広間の奥、日常公務を執り行う玉座の間へとつながる金や銀、目も眩むばかりの宝石で飾られた巨大で重厚な扉の前では衛兵数十人が日頃滅多に抜くことがない剣を振り回しつつ、次第に扉のほうへ押されていた。


 衛兵の一人をねじ伏せ、ディランは叫んだ。


 「西の塔から火はあがっているのか!ヴュエニュー卿は?ジェッセン公はどうしたのだ!」

 「火の気が上がっている様子はないぞっ!ジェッセン公が南の門から突入した気配もない!!」

 「!!」


 ディランは歯軋りをした。


 「人の心とはわからないものか」


 皮肉にもブッフェン王と同じ言葉が漏れた。



 公務が終わり、王と大臣が気を抜いたその瞬間を狙って、かねての計画通り反逆の狼煙をあげたのである。玉座の間につながる大広間は通常、諸侯や隣国の客人を招いてのパーティや、大事な国事以外には使われることがなく衛兵数人が扉の前に立っているにすぎない。
 それも、最近では”無駄な公費”であるとして蔵相ビュアルツ・デルケルが公務が終了する夕刻から再開される朝方までは2人しか警護はいらないと主張し、この時間も2名の衛兵しかいないはずであった。

 しかし、ディランが大広間突入と同時にヴュエニュー卿が西の塔であげるはずの火の手はあがらず、ジェッセン公が私兵を従え突入してくるはずの南門から何も音沙汰がないことを考えれば、密告があったことは確かである。大広間には通常考えられない装備の衛兵が十数人も控え、ディランたちの玉座の間突入を阻んでいた。

 それでも”ディランの嵐”と呼ばれ、全盛期を過ぎてなおその強さはこの国で並ぶものはないと呼ばれるディラン将軍以下、この反逆を計画した歴戦の猛者10名は衛兵達をたたき伏せ、玉座の間へと続く重厚な扉に手をかけた。


 「!!」


 一同は立ち尽くした。


 玉座の間には誰もおらず、暗闇の中に浮かび上がる玉座のみがディランの瞳に絶望の影として映っていた。

 背後では轟音と共に大広間の扉が叩き破られ、近衛第二小隊の一団が突入した。

 「ディラン!!」


 同士の一人が呆然とするディランに指示を促した。


 「我らは計られたのかも知れぬな・・。」


 近衛第二小隊の一団がディランたち一向の目前まで迫っていた。

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 長い年月を経て蔦が絡みつく背の高い城壁の内側から立ち上る黒煙により、漣もたたない湖面に浮かぶ細い月が見え隠れしている。

 3重に囲まれた城壁の一番内側、最も高く最も古い堅固な建物の中心の大広間は、いつもの時間であれば一日の公務を終え、明かりが消されて衛兵だけが暗い夜を音もなく歩き回っている時間だが、この日は剣と剣が響きあう乾いた音と、人の怒号が入り混じった騒がしさの中から、炎が大広間の巨大な窓を突き破り、黒煙を猛烈に吐き出している。


 「逆賊が大広間に侵入!近衛第二小隊到着まで15分です!!」


 伝令の報告に、一同は青ざめた顔を少し落ち着かせて王を仰ぎ見た。


 「まさかディラン将軍が首謀者であったとはな。人の心はつくづくわからないものだ。」


 大陸の中央に位置する国”ヴェギドリア”。建国以来、周辺国とは協調関係を保ちつつ、豊富な鉱山資源を背景に商業立国として100年の長きにわたり繁栄を誇る王国の第27代国王ノール・ド・ブッフェンは深くため息をついた。


 「国王。ディラン将軍、いや逆賊の首謀者はかなりの腕が立ちます。この反乱によって、今年の国家予算が悪化するやもしれません。国境都市で起きたおとり事件でも、国営銀行の金庫がかなりの被害を被った模様。予算の見直しをしなければ。」


 蔵相ビュアルツ・デルケルは、30代という若さながらもその経営能力と、驚異的な記憶力によって国家財産を管理する地位についた男である。


 「蔵相。まだ反乱は鎮圧しておりませぬ。なんとも気が早いというか、ずるがしこいというか」


 古来より若く能力のある人間は、権力にしがみついている老人たちから疎まれる。


 「将軍のその腕があれば、逆賊ディランも猫ににらまれたねずみ同様。将軍のおそばにいる私たちはすっかり安心をしておりました。申し訳ありません。」


 「く・・。」


 玉座の間は嘲笑に包まれ、張り詰めた緊張の空気が漂っていた部屋もいつもの権謀術中渦巻く黒くにごった空気に戻りつつあった。