*レビュー1冊目「失はれる物語/乙一」(文庫版)

乙一さんの作品には「黒」と「白」があって、
黒→ドロドロとした欲望とそれに翻弄される人々を描くグロ満載の作品群(「暗黒童話」など)
白→人の優しさが詰まった、でもちょっと切なさの残る作品群(「暗いところで待ち合わせ」など)
といった具合に分かれています(多分)。

今回紹介する『失はれる物語』は短編集なので、それぞれの話の色は違いますが、
全般的に「白」寄りなお話で構成されている本です。
特筆すべき点は一話一話のクオリティの高さ!
今回は特にお気に入りのお話を2つご紹介。

「Calling You」
あらすじ・・・クラスで孤立している女子高生のリョウは、自分だけが携帯電話を持っていないことに劣等感を抱き、同時に憧れを募らせる。理想の携帯電話を想像して気を紛らわせる日々を送るリョウだったが、ある日その想像の携帯電話に着信があって・・・。

周りの人と馴染めない、って悩みを持っている人って多いんじゃないかな。
この話に出てくるリョウとシンヤも同じ悩みを持っています。
繊細な二人の心の交流とラストが印象的なこの作品。
特に10代の内に読んでもらいたいです。

「しあわせは子猫のかたち」
あらすじ・・・人間関係に疲れた主人公は、大学入学をきっかけに伯父の所有する家で一人暮らしをすることになった。家には強盗に殺害されたという先住者、雪村サキの生活品がそのまま残っている。サキが世話していた白い子猫と暮らす主人公は、見えない「誰か」と遊ぶような子猫の行動や、「大岡越前」の時間になると必ず点くテレビ。主人公は次第にこの世に留まるサキの存在を感じていく。

二人と一匹の暖かな共同生活のきっかけとなったのは殺人事件なんだけど、
サキのいる生活はとっても優しさに満ち溢れている。
世界をただ純粋に愛しているサキの存在は、主人公にとってどれほどの救いになっただろう。
これまたラストの手紙にジーンとさせられます。

こうして2つの話を眺めてみると、どちらも孤独と自立が主題になっているのかな、なんて思ったり。
みんなに受け入れられたい為に一つ一つの言動に臆病になり、その結果他人と深い関係を紡げなくなる。


私にも身に覚えがありすぎて、読んでて胸とか鼻にツンと来ます。
と言うかレビューのために一回読み返して改めて泣きました(笑)

ちなみに収録話の「Calling You」は「君にしか聞こえない(出演:成海璃子/小出恵介)」
「傷」は「KIDS(出演:小池徹平/玉木宏)」というタイトルで映画化されています。

興味のある人はこちらも是非。

失はれる物語 (角川文庫)