季節は春。
天候は晴れ。
「いい風だ。」
ヘルメットカバーを開け、風を肌で感じる。
心地よい風とともに、花の薫りが駆け抜ける。
「変わらないな、ここは。」
久しぶりに帰って来た故郷。
見慣れた景色。山に囲まれ緑が続く。車道に沿って川が流れている。
民家が点々としている。変わった所と言えば、小さな雑貨屋がコンビニエンスストアに変わっていたくらいだ。
どうやら雑貨屋のばあさんの息子が店を継いだあと、改装したらしい。それでも夜の9時には閉まるようだ。
9時で閉まるコンビニなど果たしてコンビニエンスなのだろうか?
それでも、田舎には十二分らしいが。
走りなれた道が続く。
何度も仲間うちで走り込んだ道。スリップの跡、へこんだガードレール。
そのどれもに想い出がある。
そのとき緑の薫りに混じって、食欲をくすぐる匂いがした。
ちょうど腹が減っていたところだ。挨拶がてら寄っていくことにしよう。
駐車場の端にバイクを停める。
ヘルメットを外し、軽く髪をかきあげる。
「ふぅ。」
ライダージャケットの前のボタンを上2つ外し、チャックを胸まで開け、バイクを降りた。
お食事処”せせらぎ”。
暖簾をくぐる。
「いらっしゃい!」
威勢のいい声とともに恰幅のいいおばちゃんが出て来た。
「いらっしゃい、ひとりかい?」
「はい。」
おれは頷き、軽く店内を見回した。
オープンキッチン(そんな洒落たもんじゃないが)スタイルで、キッチンの前にはカウンター席。
テーブルも並び、窓は開け放されている。
客はちらほらいる。
「あら。もしかして美風(みかぜ)くんじゃないかい?」
どうやら、おれに気づいたらしい。
「ご無沙汰してます。」
会釈を返す。
「久しぶりね~、帰ってきてたのかい。美風くんなら早くいってくれればいいのに。」
おばちゃんが、にこにこしながら肩をたたく。若干痛いのだが。
「都さんのとこにはもう挨拶したのかい?」
「これからです。その前に腹減ったので食べていこうと思って。」
「そうかい。サービスしとくよ。ゆっくりしてって。何にするんだい?」
メニューを眺める。昔と変わらないメニュー。
「そうですね。”いつもの”いいですか?」
おばちゃんがにかって笑う。
「あいよ!」
そう言って、厨房に下がっていった。
食欲をそそる匂いと音がする。
昔いつも座っていた窓際の席で、できあがるのを待つ。
窓の外には、川が流れている。この季節は本当に心地よい。せせらぎという名前もここからつけたんだろうな。
そんな事を考えていると、おばちゃんがどんぶりを二つ持ってきた。
「お待たせ。たんと召し上がれ。」
どんぶりの中身のひとつはうどん。山菜と油揚げの上に半熟の卵が乗っている。
もうひとつは、山盛りの白ご飯。これをかけうどんの値段で提供してくれる。学生のころにはこれ以上ないごちそうだった。
割り箸を割って、うどんをすする。昆布だしのいい匂いがして、懐かしい味が口いっぱいに広がる。
そのまま休まずに、ごはんと交互に口にほおばり、あっと言う間にたいらげた。
「おばちゃん、ありがと。お代ここに置いとくね。また来るよ。」
そう厨房に向かって言って、少し多めの代金をテーブルに置いた。
「さて、都さん。元気にしてるかな。」
そう誰に言うでもなくつぶやくと、ヘルメットをつけ手袋をはめた。
バイクのキーを挿入し、回す。
エンジンをかける。ブゥゥンと鳴き声をあげる。すぐに走らずにエンジンをあっためる。
「いくか。」
左足でギアを変えローに入れ、アクセルを回す。
駐車場から車道に出て、ギアチェンジしながら速度に乗った。
ヘルメットカバーを閉め、前傾姿勢になる。
「少し攻めていくか。」
風を感じる。路面の状態を確認する。バイクの音を聴き、一体となる。
SUZUKI、GSX1300ハヤブサ。大空を羽ばたいて飛ぶ最速の鳥、隼の名を持つマシン。
その名のとおり、風を切って、駆け抜ける。
走り込んだ道。風と一体になる高揚感がなんとも言えない。
右に左にカーブする山道を身体全体を使いながら奔る。
ハングオフで重心を引っこ抜き、遠心力を中和する。
すれすれの地面の熱さを感じる。
ひとつのカーブを曲がった時だった。
先に見えるのは一台のトラックとバイク。
それだけでは普通だが、トラックもバイクも動きがおかしい。
蛇行運転か?いやそうでもない。
アクセルを回し、近づく。
「なんだ?!」
トラックがバイクに襲われている!?バイクに乗っているやつは銃を持っているようだ。
その時、銃弾がトラックのタイヤを直撃し、タイヤがバーストした。
バランスを崩すトラック。しばらく走ったが、直後のカーブに曲がり切れずに山側の崖に激突した。
バイクもその場に止まり、乗っていた人物が降りて、トラックに向かう。
何だこの状況?!通報したほうがいいか?
そんな事を考えながらていたら、トラックの運転席から一人の男があわてて出てきた。
「うわぁぁあああ。」
そのままその場から逃げようとする。
バンッ。
銃撃が轟く。バイクの男が銃を逃げた男に向けている。
逃げた男は膝から崩れ落ちた。どうやら脚を撃たれたらしい。
「うわぁぁああああ。殺さないでくれ。」
男はバイクの男に懇願する。バイクの男はヘルメットをとり、男を睨みつける。
銃は向けたままだ。
あのままでは殺される。警察を呼んでいても間に合わない。
そう思うとおれは、その場から逃げることなんてできなかった。
「ちょっと待てよ!!」
おれは声を荒げて、その男に向かって言った。
それがおれの長い闘いのスタートとなるシグナルグリーンとなった。
いやシグナルはレッドだったのかもしれない。
だが、おれは走りだしてしまった。そのレースがどんなものか知らずに。
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1-2話終了です。主人公は今回登場した飛嶌美風(とびしまみかぜ)です。あしからず。
1-3話ではいよいよ仮面ライダーに変身します!と、いうことなので、色つきの絵を入れたいので、次は時間かかりそうなので、すみませんが気長に待ってもらえると助かります。
では感想&コメント待ってます。