ぼくは、このゲーム、つまりユピテル・オンラインの中でも黄昏ていた。

「も黄昏ていた」と、「も」を付けたのにも理由がある。

リアルでのぼくも、黄昏ているという事だ。

まぁ、これ以上は言いたくない。

この意味にピンと来る人には、ただ一言、

「ご愁傷様」とだけは言っておこう。


「ひさしぶりだね、何を黄昏ているんだい?」

そう、ぼくに声をかける奴がいる。

神名シオンだ。女みたいな名前だが男だ。

まぁ、リアルでも男であるかは分からないが。

「なんだ、神名か」

「何だはないだろう、折角会いに来たのに」

神名シオン。奴を端的に言えば、

「神出鬼没」「何でも知っている」「世話焼き」

そんなところか。

オンラインゲームの中でも、パーティーを組んだり、ギルドを作ったりと、

充実したオンゲ生活をすごす奴がいる。

そんな奴らも、リア充というのだろうか。


ぼくは最近、神名の事をNPC(ノンプレヤーキャラクター)ではないかと疑っている。

ぼくみたいな、パーティーも組まず、ギルドにも所属していない、

いわゆる、まぁ、いわゆるだ。

言いたくはないが、ボッチプレーヤーに何かと関わってくれるプレーヤーなんて存在するのだろうか。

神名は、運営側が作ったNPCで、ボッチプレーヤーが止めないように、

プレイヤーを偽装しつつ、何かと世話を焼くように設定されているんではないか。

「ねぇ、ねぇったら」

「なんだ、神名」

「今日はご機嫌斜めだね」

「そうでもないぞ」

「ならよかった。今日は君にお願いがあってきたんだ」

「お願い?」

神名との付き合いは長かったが、お願いされるのは初めてだ。

「そうそう、お願い。君、東京住みだったよね」

確かにそうだ。ネットの中でも、東京くらいの大よその場所ぐらいは言うこともある。

長い付き合いの中に、そんな会話もあったのだろう。

「それが、何か関係があるのか」

「おおありなんだよ。ほら、ぼくさ、ロンドン住まいだろ」

絶対にうそだ。こいつは、ロンドン住まいと言えばかっこいいと思っている奴だ。

「そう、言ってたな」

「でだ、君に確認してきてもらいたいことがあるんだ。場所は三鷹なんだけど」

「三鷹?」

割と近い場所だ。でも、お願いってリアルでのだろうか。

「三鷹って、リアルのか?」

「そうそう、リアル、リアル。だってぼく、ロンドン住まいだから」

絶対にうそだ。

「まぁ、かまわんが、何を確認するんだ」

「たすかるよう、何せぼくはロンドン住まいだから。確認してきてほしいのは、ある娘のお葬式なんだがね」

「葬式?」

「そうそう、お葬式。正確に言えば、今日はお通夜か。式場はね瑞雲閣っていうんだ」

「その三鷹の瑞雲閣ってので、何を確認するのさ」

「ああ、言い忘れた。小口洋子ちゃん、17歳。この子のお葬式が行われているのか確認してきてほしいんだ」

「身内か?」

「違う、違う。あ、そうだ。君には正式な依頼として、これを渡そうと思うんだ。賢者の石。どうだい、引き受けてもらえるかな」

「おいおい、いいのかよ、そんな高価なもの。いいけど、リアルでの依頼なんて聞かない話だな」

「なにせぼくはロンドン住まいだし、賢者の石も、これから君も必要になるかと思ってね」

「まぁ、ほしいアイテムだけど、課金アイテムだろ、それ。理由は聞いちゃだめか」

「いや、別にいいよ。でもさ、後で、別な人から聞いたほうが分かりやすいと思うんだよね」

「そうか、確認してきてから教えるってことだな」

「確認は早いほうがいいかなって思うんだ」

そうか、今から、落ちて行ってくる。それでいいか」

「たすかるよ。お礼は渡しておくよ」

「おいおい、いいのかよ」

「えんりょするなよ。君とぼくの仲だろ」



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多数の死者をだした木星磁気嵐以後、いろんなものが変わった。

その中でも、特に変わったものは、ネット環境だ。

もう、ほとんど壊れてしまったのなら、全部一新してしまえ、とばかりに、

まったく別なものに変わってしまった。

そこにはヤケクソ感すら漂う。まぁ、ぼくの一方的な主観ではあるが。

その目玉というのが、バーチャルリアリティーマシンでの、

フルダイブシステムの導入だ。

見た目は、自転車用のヘルメットの前半分を切り取ったような形状のものを被るすんぽうだ。

どうやらそれは、脳で発生する電気信号、つまり脳波を読み取り、

また、ピンポイントで、微弱な電気信号を送ることが出来るらしい。

その相互送受信でバーチャルリアリティーが成立するということだ。

そうトリセツに書いてあるのだから、そうなのだろう。


そういうわけで、2053年5月、若芽萌え出る時、

ぼくはネトゲの中にいる。

ネトゲの名前は、ユピテル・オンライン。

フルダイブシステム搭載のダンジョン攻略型のわりとオーソドックスなネトゲだが、

ご多分に漏れず、パーティーを組んだり、ギルドを作ったりも出来、

NPC(ノンプレーヤーキャラクター)の生成も可能だ。

かなり自由度が高いせいか、世界的に人気のネトゲらしい。

しかし、ぼくはそんな中でも黄昏ていた。



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まだ暑さの残る10月の夕暮れ、人々は空を見上げていた。

まぁ、暇だからとか、劇的な何かを眺めていたというわけではない。

いや、劇的は劇的だった。

しかし、それを眺めていた人々は、どちらかというと、あっ気にとられていたという風情だった。

そう、あっ気に取られていたのだ。ありえない光景に。


2050年10月9日、東京の夕暮れを場違いなオーロラが覆ったのは、この時だ。

ぼくは当時16歳。そのスペクタクルも覚えている。

「も覚えている」と、わざわざ、「も」付けで回顧しているのには、

もちろん理由がある。

その後、本命というべき、衝撃的な事件がぼくの周りを襲ったからだ。

いや、ぼくの周りと言っては、誤解を生むかもしれない。

正確には、襲われたのは、世界中の人々なのだから。

しかし此処では、ぼくの周りの光景を語ろう。

まづぼくは電線を見上げた。

視線の端にチラチラと揺れる電線が気になったからだ。

電柱に取り付けてある変圧器から煙が出始めると、

視線の端にあった、信号機の青い光が消えていた。

近くからは、「あちちち」といった声とともに、胸ポケットの携帯電話を路上に放り出すサラリーマンがいた。

制御不能の車が、壁に激突し、煙を吐いていた。


どうやら、それら一連の事象は、木星付近で起こった原因不明の磁気嵐が要因だったらしい。

もちろん、後で知った事だ。

地表に降り注いだ電磁波にやられ、存在する60パーセント以上の電子回路が壊れたらしい。

人工衛星や、航空機もその被害にあい、地球上はほとんどの地域が停電となった。

病院の発電機も機能せず、かなり多くの死傷者が出た。

しかしそれは、これから起こる事件の、前兆でしかなかった。



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