PM2.5 ってなんぞ

各国の動向

EU各国のPM10、24時間値の年平均値の90パーセンタイル値(2005年、欧州環境機関

各国の環境基準 と規制の動向について解説する。

WHO

世界保健機関 (WHO) は、公衆衛生の進展度が異なる各国が環境基準を定める際のガイドラインとして、粒子状物質を含む「大気質指針」(Air Quality Guidelines) と暫定目標を定めている。1987年にWHO欧州地域事務局がヨーロッパのガイドラインを定めて以降、健康影響に関する評価を進めて世界全体を対象としたガイドラインに拡張し、2006年10月 - 2007年3月にかけて公表した。以下のような構成となっており、最終的には「大気質指針」が理想であるが、各国の状況も尊重され、これと異なる独自の基準を設定することを妨げるものではないと表明している。なお、下表の24時間平均は、99パーセンタイル値(この値を超えない日は年間365日のうち99%、超える日は1%=3日間まで)[33] [34]

WHO大気質指針
PM10 24時間平均 50μg/m3
年平均 20μg/m3
PM2.5 24時間平均 25μg/m3
年平均 10μg/m3
WHO大気質指針 暫定目標
暫定目標1 暫定目標2 暫定目標3
PM10 24時間平均 150μg/m3
年平均 70μg/m3
24時間平均 100μg/m3
年平均 50μg/m3
24時間平均 75μg/m3
年平均 30μg/m3
PM2.5 24時間平均 75μg/m3
年平均 35μg/m3
24時間平均 50μg/m3
年平均 25μg/m3
24時間平均 37.5μg/m3
年平均 15μg/m3

アメリカ

大気浄化法 により1971年に初めて環境基準が設定された。当初は全浮遊粒子状物質 (Total Suspended Particles, TSP) の値を定めていたが、1987年の改訂でPM10に変更、1997年の改定でPM2.5の値が追加されている。現在の基準は以下の通り[34]

PM10 24時間平均 150μg/m3(超過は年1回まで)
PM2.5 24時間平均 35μg/m3(年平均値の98パーセンタイル値の3年間平均値)
年平均 15μg/m3(年平均値の3年間平均値。緩和規定あり)

EU

ヨーロッパでは各国が独自に基準を定めている。EU 広域では、1980年に当時のECが浮遊粒子 (Suspended Particulate, SP) の環境基準の値を定め、1990年にPM10の値を設定している。現在、「Directive(EU指令 ) 2008/50/EC」では、以下のような基準を定めている[35] [36]

PM10 24時間平均 50μg/m3(超過は年35回まで)
年平均 40μg/m3
PM2.5 年平均 25μg/m3

日本

年平均濃度の推移
浮遊粒子状物質 (SPM)
単位:μg/m³
0
200
1974
58
162
1975
50
84
1980
42
53
1985
35
48
1990
37
50
1995
34
47
2000
31

40
2005
27

31
2010
21

23
出典:環境省[37] 。一般環境大気測定局/自動車排出ガス測定局
微小粒子状物質 (PM2.5)
単位:μg/m³
0
100
2010
15.1

17.2
出典:環境省[37] 。一般環境大気測定局/自動車排出ガス測定局

日本では1967年(昭和42年)制定の公害対策基本法 において環境基準を設定すべきと定め、1972年(昭和47年)に浮遊粒子状物質 (SPM) の基準を初めて設定した(昭和47年1月環境庁告示第1号「浮遊粒子状物質に係る環境基準について」)。翌年、他の大気汚染物質を含む告示に拡張(昭和48年環境庁告示第25号「大気の汚染に係る環境基準について」)、その後も何度か改正され準拠法も環境基本法 へと変わった。一方、欧米では1990年代にPM2.5の基準が設定されたが、日本ではその検討が遅れていた。2007年に和解が成立した東京大気汚染訴訟 においてPM2.5への対策が言及されたことを受け、中央環境審議会 において検討が進められ、2009年に基準が初めて設定された。現行では環境省 告示 として、浮遊粒子状物質と微小粒子状物質 (PM2.5) の基準を定めている[38]

  • SPM:1時間値の1日平均値0.10mg/m3(100μg/m3相当)以下、かつ1時間値が0.20mg/m3(200μg/m3相当)以下であること(1973年5月8日告示・現行1996年改正版「大気の汚染に係る環境基準について」[8] )。
  • PM2.5:1年平均値が15μg/m3以下、かつ1日平均値が35μg/m3以下であること(2009年9月9日告示・現行「微小粒子状物質による大気の汚染に係る環境基準について」[39] )。

基準を上回る状態が継続すると予想されるときは、大気汚染注意報 を発表して排出規制や市民への呼びかけを行うことが大気汚染防止法で規定されている。また、自動車NOx・PM法 でも三大都市圏 の中心地域において一部の自動車に排ガス規制措置が執られている(自動車排出ガス規制 )。

高度成長期 以降、度重なる規制強化がなされたすが、著しいモータリゼーション (特にトラック輸送 による物流の比率の相対的増加や乗用車RV 化などが大きな原因となったといえよう。)に規制が追いつかず、バブル期 までは、悪化の一途をたどってきた[要出典 ]。2003年10月1日から、東京都埼玉県神奈川県千葉県ディーゼル車規制条例 により排出ガス基準を満たさないディーゼル車の走行規制が始まった[40] 。この規制強化により、自動車NOx・PM法 対象地域では2002年から2004年にかけてSPMの環境基準達成率が大きく上昇、2008年 - 2010年の3年間は99%以上となっているが、年により環境基準が達成できない地点もある[37]

平成20年度(2008年)の環境省発表による国内全測定局のSPM濃度の年平均では、自動車排出ガス測定局(自排局)で昭和49年(1974年)に0.16mg/m3を超えていたものが翌年に0.09mg/m3以下に漸減、以後緩やかに減少し平成13年(2001年) - 平成20年(2008年)まで0.04mg/m3以下を維持している。また一般環境大気測定局(一般局)で0.06mg/m3近くだったものが緩やかに減少し昭和56年(1981年)以降は0.04mg/m3以下、平成13年(2001年)頃 - 平成20年(2008年)まで0.03mg/m3以下を維持している。また同発表における平成20年度(2008年)の環境基準達成率は自排局99.3%、一般局99.6%だった[41]

中国

中国では1982年に初めて全浮遊粒子状物質(TSP、100μm以下)と浮遊粒子(PM10に相当)の環境基準を設定[42] [43] 、2度改正され2012年改正(2016年施行予定)の国家標準GB 3095-2012「环境空气质量标准」(環境空気質基準)ではPM2.5の基準も追加された[44] [45] [42] 。2009年同国政府発表の「中国環境状況公報」では全都市中でPM10の二級基準を達成した都市が84.3%であった[42]

GB 3095-1996(主要都市を除き現行)[42] [45]
一級 二級 三級
TSP 24時間平均 0.12mg/m3 (120μg/m3)
年平均 0.08mg/m3 (80μg/m3)
24時間平均 0.3mg/m3 (300μg/m3)
年平均 0.2mg/m3 (200μg/m3)
24時間平均 0.5mg/m3 (500μg/m3)
年平均 0.3mg/m3 (300μg/m3)
PM10 24時間平均 0.05mg/m3 (50μg/m3)
年平均 0.04mg/m3 (40μg/m3)
24時間平均 0.15mg/m3 (150μg/m3)
年平均 0.1mg/m3 (100μg/m3)
24時間平均 0.25mg/m3 (250μg/m3)
年平均 0.15mg/m3 (150μg/m3)
一級は都市部、二級は半農半牧畜の地域、三級は農業や林業の地域。
GB 3095-2012(主要76都市のみ適用[46] 、2016年1月1日全域で施行予定)[44]
一級 二級
TSP 24時間平均 120μg/m3
年平均 80μg/m3
24時間平均 300μg/m3
年平均 200μg/m3
PM10 24時間平均 50μg/m3
年平均 40μg/m3
24時間平均 150μg/m3
年平均 70μg/m3
PM2.5 24時間平均 35μg/m3
年平均 15μg/m3
24時間平均 50μg/m75
年平均 35μg/m3
PM10とPM2.5は国内全域対象、TSPは地方政府が実情に応じて個別に導入すると規定されている。
なお、北京・上海など76の主要都市では2012年末から前倒しで適用されている[46]

中国では北京 などがある華北 を中心として冬季に大気汚染が悪化する傾向があり、2011年12月や2013年1月に激しい汚染が発生して高濃度の粒子状物質が観測されている[47] 。はじめ当局は数値を公表せず、汚染について国営メディアは「濃い霧」などと報じていた[48] 。2011年11月に北京アメリカ大使館が独自にPM2.5の監視とツイッター[49] での公表を開始した際、当局は公表を差し止めるよう要求している。その後当局は方針を変えて測定・発表を始めている。

旧暦で新年を迎える際(春節 1月前半~2月前半)の慣習で一斉に用いられる爆竹 の煙も汚染源となっており、例えば北京ではPM2.5が2012年1月23日午前1時に前日の80倍の1,593μg/m3に急上昇した後、朝には約40μg/m3まで低下している[50]

中国共産主義青年団 の機関紙『中国青年報』の世論調査(2013年1月、31省市約3,000人対象)では、中国国内で大気汚染によって生活に影響が出ていると答えた人は9割を超え、約4割が外出時にマスクをつけるなどの対策をとっているという[51] 北京大学 の研究(2012年)によると北京・上海・広州・西安の4都市でPM2.5に起因する死者は年間約8,000人で、世界銀行中国環境保護部 (2007年)によるとPM10を中心とする大気汚染による死者は中国全土で年間約35~40万人と推計されている[52] 。経済誌『財経 英語版 』に掲載された上海復旦大学教授の分析でも2006年の1年間で大気汚染に起因する死者は113都市で30万人、経済損失は3,414億元(約5兆1,000億円)とされている[53]

2013年1月の汚染は「1961年以来最悪」(北京日本大使館)、「歴史上まれにしか見られないほど」(中国気象局 )とされるレベルで、風が弱かったため10日頃から始まった激しい汚染はおよそ3週間も継続し、呼吸器疾患患者が増加したほか、工場の操業停止や道路・空港の閉鎖などの影響が生じた。12日には北京市内の多くの地点で環境基準(日平均値75μg/m3)の10倍に近い700μg/m3を超え、月間でも環境基準(同)を達成したのは4日間だけとなり、北京日本大使館によれば143万km2・8億人、中国環境保護部によれば中国国土の4分の1・6億人に影響が及んだ[54] [47] 。北京ではPM10も、2012年の年平均値が109μg/m3で環境基準(年平均値70μg/m2)を超過している[55] 。この汚染に対して、都市部での露天 串焼き を厳しく取り締まるなどの対策が発表されているが、効果は疑問視されている[56]

2013年1月の汚染の様子は他国にも報じられ、韓国や日本への越境汚染が懸念される事態となった[54] 。日本でも同時期に環境基準の日平均値35μg/m3を超え最大で基準の3倍程度に達した地点がいくつかあった[57] 。日本の自治体の中には独自の情報提供を検討・開始するところも出ている[58] [59] 。2013年2月8日時点で環境省国立環境研究所 が運営する大気汚染広域監視システム「そらまめ君」のWebサイトはアクセスが困難で[60] 、環境省は2013年2月12日にPM2.5の専門ページ「微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報 」を設置した[61]