こんにちは、塾講師わずです。

「スマホ脳」の考察、第3弾。
「ICT教育」についてです。

GIGAスクール構想が掲げられ、ICT教育を日本でも積極的に導入しようという動きが高まりました。

日本は導入がまだまだ遅れている。
これだから日本は〜と感じてる方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、そのICT教育について、「スマホ脳」のハンセン氏も言及していました。

ICT教育の実態について、「スマホ脳」の内容と照らし合わせて解説していきたいと思います。



第3章
●ICT教育で、よりバカになっていく子供達
スマホの危険性の話で、どうしても切り離せないのが、ICT教育(スマートフォンやタブレット等を活用した教育法)の話です。

GIGAスクール構想と呼ばれ、多くの国が積極的にこれを採用しています。

そんな中で、日本はかなり遅れをとっている状況であり、これに対して批判的な意見が散見されています。

ICT教育の目的は当然、効率化です。
辞書や本で調べるより電子媒体の方が早いし、荷物も軽くなるなどの負担軽減になるメリットや、ゲーム感覚で楽しみながら学習できる。というメリットもあります。

これだけ聞くと、確かにそっちのが効率良いよなあ。どんどんやった方がいいんじゃないの?

そう思いますよね。

では、実際効果があるのか?
をハンセン氏がどのように述べてるか考察していこうと思います。


まず、ICT教育の話をする前に、
子供の方がスマホに依存しやすい。
という事実を申し上げておかなければいけません。

まず、「集中力」の観点から言えば、
電子媒体より紙媒体の方が印象に残りやすい、記憶に残りやすいという実験結果があります。
紙媒体の本の方が、Kindleなどの電子書籍で読んだ本より内容を覚えている。
そんな経験がある方もいらっしゃるかと思います。

ただ、この話だけだと、印象に残りやすいか、そうでないかの違いしかないので、
その程度の誤差なら、楽しみながら学べるICT教育の方が良いんじゃないか?
楽しみながら学んでるから、三日坊主にならないで済むのだから。

そう思われる方もいるでしょう。

そうです。紙の本であるか、Kindleの方がいいかくらいの話なら、そこまで誤差はないし、何もしないよりは印象に残りにくくてもKindleで学んだ方がマシでしょう。

ただし、それは大人の場合の話です。


まず、大人の脳と、子供の脳は、根本的に違う。ということを押さえてほしいのです。


何が違うか?

それは、「我慢する力」があるかないかです。

子供の頃を振り返ってみてください。
今より我慢ができなかった気がしませんか?
お菓子を食べたい、トイレに行きたい、声を出したい、そういう欲求を抑えられないのが子供です。
それが悪いと言ってるのではありません。
脳が未発達だから、仕方がないのです。

第一章で申し上げた通り、人間は欲望の生き物です。
その欲望が底なしだったからこそ、厳しい時代を生き抜いていくことができた。

そうお話しました。

しかし、現代人は欲望に従って生きるだけでは社会に適応できないので、「我慢する力」も覚えました。

トイレをしたくても我慢する。お菓子を食べたくても我慢する。声を出したくても、私語厳禁だから我慢する。


いわゆる、TPO(時と場合と場所)をわきまえて行動できるのが大人です。

これは、そういう欲望や感情を抑えられるように脳が進化してきたからです。

ケーキが食べたくても、痩せるために我慢する。
それができるのが大人の脳です。

しかし、子供はそれができません。


痩せるためにケーキを食べてはいけないとわかってても、ケーキを食べてしまうのが子供です。

根性の話ではありません。脳が未発達だからなのです。
脳の前頭葉という部分が、その衝動を抑える役割があるのだそうです。

ただ、この部分は発達するのが遅く、25〜30歳になるまでは完全に発達しないのだそうです。

だから、子供は欲望を抑えることがとても苦手であることを認識しておかないといけません。

では、先程の話のケーキをスマホに置き換えるとどうでしょう。
結果は明白。簡単に依存してしまうんです。
しかも、歯止めが利かなくなる。

たとえ濫用したとしても、大人ならば、これくらいにしておくか。と抑えることができます。

しかし、子供はそれができない。
時間さえあれば、スマホを触る。
ご飯を食べる時も、トイレに行く時も、徒歩や交通機関の移動の時も、就寝しないと起きれない時間になってもスマホから手を放すことができません。

昨今の小さい子供がいる家庭は、家族の団欒の時も、子供がスマホを触っている。取り上げると、ケンカになる。ということで悩んでる方が多いようです。

このように、
子供の方がよりスマホ依存に陥りやすい。
という大前提をまずは認識しないといけません。

アルコールを未成年に禁止するのは、子供の身体に悪いからです。
スマホも子供の精神衛生上、決して良くない、否、とても悪いものです。

そのため、スティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏は子供のスマホ使用を禁止・制限した。

子供の脳の発達段階を考えれば、幼少期からスマホを使わせることは危険と言わざるを得ないのです。

では、ICT教育はどうか。

子供の方がスマホ依存しやすいのなら、ICT教育のアプリに依存してもらえれば学習習熟度が増すのでは?

そう思った方もいるかもしれません。

しかし、タイトルで書いてるのでおわかりと思いますが、
むしろ逆効果で、どんどんバカになる。のです。

なぜかと言えば、一言で言うと「子供だから」

子供だから。というのは、
子供だから脳の前頭葉以外でも未発達な部分がまだまだ多いということです。

幼児教育に詳しい方はご存知かもしれませんが、
「積み木」で空間認識能力などを鍛える。というものがあります。
この「積み木」をやる際に、本物の積み木を触って作らせるか、タブレット端末のアプリ内で作らせるか。

どちらに効果があるか。という話です。

これは大人ならば、どちらでも良い。

なぜなら大人は、本物の積み木をやったことがあるからです。

しかし、今の幼児達は違う。本物の積み木を触ったことがあまりない。
その状態で、タブレットのアプリで積み木を完成させても、残念ながら感性が育つとは考えにくいという研究結果が出ているようです。

幼児教育において、最も重要なことは、効率なんかではなく、「感性を育てること」です。
感性とは、五感を使って育っていきます。

実際の積み木を見て、触って、作り上げていきます。
幼児の時期は特に、この「触覚」が重要であるとが近年の研究では注目されてるようです。


なお、フランスの哲学者のルソーは、教育論「エミール」において、幼児教育においての触覚の重要性について言及しています。

すなわち、タブレットをタッチするだけでは触覚は育たず、
実際の積み木を触って自分で完成させることで、指の運動能力を鍛え、形や材質の感覚が身につていく。
そうして感性が育まれるのです。

また、別の例に、「書く能力」があります。

皆がキーボードでタイピングして、文字を出力する現代では、メモもペンで取らずにパソコンやタブレットで代用してる方も多いかと思われます。
だから、文字練習なんて意味がない。
幼児であっても、
パソコンやタブレットで書くことに集中しようと考える方が多くなっています。

しかし、この考えも「間違いである」ことをハンセン氏は指摘しています。

先程の話と同様に、
子供の頃に散々、ノートに書くことをしてきた我々大人がパソコンやタブレットを使うのと、
まだ文字を書くことに慣れてない子供がパソコンやタブレットを使うのは、まるで意味が違ってくる。

まだ文字を覚えてもいないからです。
文字を覚える基礎は、実際にペンでノートに書き記していくことで覚えていくのです。

実際に、就学前の子供を対象にした研究では、ペンで紙に書くという運動能力が文字を読む能力とも深く関わってるのが示されてるそうです。


アメリカの小児科医のグループも、
「普通に遊ぶ代わりにタブレット端末やスマホを長時間使ってる子供は、のちのち算数や理論科目を学ぶために必要な運動能力を習得できない」
と警告しているようです。

このように、子供と大人は脳の構造も感性も、まるで違う。別の生き物と考えた方が良いのです。
昨今のICT教育、早期教育の流れは、子供を「小さな大人」と見做して、大人を鍛えるための同様の方法を当てはめようとしてしまっています。

これと同じ現象が絶対王政期のフランスでも見られたそうです。
フランスの貴族は子供の段階から、古典教育などを実施し、子供を小さな大人として教育しようとした。
しかし、上手くいかず、それに異を唱えて、
教育とはそれぞれの年齢の発達段階に応じたものをさせていくべきと主張しました。
それが教育哲学書の「エミール」です。
教育に興味がある方は是非ご購読ください。
個人的に教育者必携の本、教育界の聖書と思ってます。目から鱗な話ばかりです。

大人の学習ツールを子供にも当て嵌めるという過ちを現代でも多くの人がしてしまってるということです。
誤解しないでほしいのは、ICT教育や早期教育が悪いのではありません。
適切な方法や時期があるということです。

幼児期のICT教育は逆効果になる可能性が高い。
それをハンセン氏は指摘しているのです。

そして、ICT教育の早期学習は学習習熟度が低いだけでなく、子供の精神衛生的にも悪いものであるようです。

まず、先程申し上げた通り、スマホ依存は「忍耐力」が低下するおそれがあります。

複数の調査で明らかになってるのは、
よくスマホを使う人の方が衝動的になりやすく、報酬を先延ばしにするのが下手だということだそうです。

これは大人でも見られる傾向です。スマホが普及してから、とにかく我慢ができなくなった。
そういう経験はないでしょうか。


行きつけのラーメン屋が行列だった。
→とりあえずスマホを覗く

移動の電車やバスが来るまで少し時間がある
→とりあえずスマホを覗く

待ち合わせ場所に早く着いてしまった
→とりあえずスマホを覗く

大人でも見られる傾向です。待つという行為が発生した瞬間、人は即座にスマホを見る。
こういった習慣が板についてきたように思います。

つまり、これは「我慢ができなくなった」ということでもあります。

たった数分、待つことができなくなった。その暇潰しにスマホを使うようになった。

この傾向がとても強くなってるのです。

大人でもこの傾向があります。

ましてや、前頭葉が未発達の子供はもっと顕著に表れるに決まっています。

こうしたことも危険であると指摘しています。

スマホ依存の弊害の実例は第二章で述べた通りです。

集中力が低下するようになる、精神疾患になりやすくなるなどの弊害で、その弊害がスマホ依存してない人達には見られなかったと述べました。

これは大人の実例で、大人でこうした弊害を患っている方が多くいらっしゃいます。

だから、子供が上記の弊害を感じていないわけがありません。

睡眠不足の子供、成績が低下した子供、鬱症状が出てる子供が増えているのです。

そして、スマホ依存をなくしたことで、これらを解消した子供もとても多いのです。

大人でも依存してしまうパワーがあるスマホを、子供が抑えられるでしょうか。
そうです。無理です。
だから、子供にスマホやタブレットを使わせることには慎重にならねばなりません。
何度も言うように、ジョブズ氏とゲイツ氏はそれを理解していたので我が子にスマホを使用させることを制限したのです。

いかがだったでしょうか。
海外のGIGAスクール構想のICT教育の導入が我が国でスタートし、日本はまだまだ遅れを取っていると揶揄されていますが、待て待て。本当に大丈夫な代物なの?
と考え直す良いきっかけになったのではないでしょうか。

私はICT教育を全否定はしません。
一問一答などの暗記系のツールは、むしろ本よりICTの方が効果が高いようにも思えます。

しかしながら、思考力や感性を育てるものとしては不十分で逆効果。
ということが言えると思います。

特に幼児教育に関しては、やらない方が良いと言えるかもしれません。


スマホ依存が危険なのはわかった。
だけど、スマホを使わないで生活することは困難じゃないか。
スマホを使わないようにするなんて無理だ。

そう思われる方もいるかと思います。

そこで、次回は、
スマホ依存から立ち直る方法、
スマホ社会を迎えて我々が考えていくこと

について、解説していきます。

それでは失礼致します。