もしもあなたが物語の登場人物だったら?

Facebookで不定期に展開している物語企画。
独断と偏見とインスピレーションのままに100文字(140文字?)で綴る今回のテーマは、
『洋館』。

私の手持ち資料から『日本に実在する洋館』が舞台となります。

どこに行くのかはダイス次第。
物語はインスピレーション次第。

そこで何を見て、何を知り、何を得るのか……?
さまざまな物語の断片をのぞいてみてくださいませ。


*…物語の登場人物風にあなたを洋館へ招待してみる…*

 

木々に囲まれた白い壁と縁取る緑に懐かしさを胸に、扉へ手をかける。

木の温もりに満ちた空間に流れる音匣の癒しの音色に導かれ、二階の書斎へ向かう。
互いが夢を現実に変えたその時にまた会おうと誓い合い、別れて十年。
陽の光を受けて佇むあなたの笑みで、私の全ての努力は実り報われたのだと知った。

◆3-10 雑司が谷旧宣教師館



2階の大ホールから、たった今自分が通ってきた中央階段を見下ろす。
目が眩むほどに魅せる芸術作品のような空間が、私に次に果たすべきことは何かを厳格に問う。
もてなされる側からもてなす側へ。
祝福を与えられる側から与える側へ。
次の一歩を踏み出せと己に告げる。

◆2-8 迎賓館赤坂離宮



御影石の円柱が立ち並び、館の三面がベランダで囲まれた佇まいの見事さに溜息が落ちる。
堅牢にして厳かな雰囲気は、いつかここで互いが紡いだ縁をより合わせて大きな仕事をしようと約束した同志を思い出させた。
迷う暇はない。
桜の季節は短く、そして、約束の時は近いのだから。

◆1-3 泉布観



初めてその名を聞いたとき、心が揺れた。
三つのドームが並ぶ石造りの壮麗な建物は印と和と洋で織りなす祈りの場所。
欄間のステンドグラスを見上げながら、私は自身と対話する。
見失いかけた意志を探るように深く潜った先では、まほろばに棲まう灰色の鳥がふわりと私を抱き寄せた。

◆2-27 筑紫本願寺



あえて北側にあつらえたというパールルームへ足を踏み入れる。
心地よい陽射しと窓からやってくる潮風にくすぐられ、壁泉のライオン像を眺めて、ふと、私の声を届ける術に水の力を借りようと思いたつ。
海辺で、あるいは泉のそばで紡ぐ言葉はきっとあの人の心にも届くと信じられた。

◆2-23 ベーリック・ホール



単調であることを嫌う様に外壁のデザインはバリエーションを変え、中に入れば床の寄木細工も多様だ。
すべての部屋が扉で繋がっているこの館で、私はかつての級友と恩師が私たちに残したという手紙を探す。
まるで宝探しだと笑いながら、未来予知者との噂を持つ師の言葉に臨む覚悟を決めていた。

◆3-3 インブリー館



何気なく顔を上げると、木々の合間から優美な装飾のバルコニーが覗いていた。
なめらかな曲線に惹かれ近づけば、玄関はさらなる壮美さで私を刺激する。
不意にないはずの記憶が目の奥で瞬く。
幼い私と肩を寄せあい一冊の本を読む誰か。
扉を開けてこちらへ、と囁く声に心が乱れた。

◆3-29 鎌倉市長谷子ども会館



一階から三階までの吹き抜けは、天井と中央階段正面ふたつのステンドグラスで厳かさを増す。
階段を一段一段登りながら想い出をたぐる。
罪と罰をはかる天秤がここには眠っているというけれど、もしあの人と私が為した功罪をそこに乗せたとしたら、幸せの重さで秤は壊れるのではないかしら。

◆1-25 旧名古屋控訴院



鮮やかな赤に圧倒されるこの屋敷は、私をさらなる驚きへと誘う。
様々な国の要素を取り入れた部屋を巡り、地下へ。
待っていたのは誰にも知られていない、私にだけ明かされた秘密の扉。
遠い昔にこの扉の鍵を託したあなたの願いが『復讐』ではなかったのだと、ここでようやく確信できた。

◆1-42 揚輝荘聴松閣



絨毯を敷き詰められた階段を上がり、たどり着いた2階のホールからさらに展望台へ。
満月の祝福を受けて青く染まる景色の中、この耳に届く潮騒が心地よい。
星の瞬きは遠い記憶をなぞりながら、未来を示す。
予言者であれと請われた過去の痛みを夜に溶かし、私は私としてあの人との約束の時を待つ。

◆1-44 旧マッケンジー住宅



ここは存在そのものが芸術なのだと、ガラスレリーフ扉や床一面のモザイク、壁や天井、至るところに施された装飾に感嘆する。
長く眠りについていたこの館に花をあふれさせ、極上の美と生命の息吹を顕現するという使命を胸に。
わたくしはこの館自らの望みに応えるため、まずは対話の席を願い告げた。

◆2-26 旧朝香宮邸



麗しい曲線を描くベランダの床はまるでチェス盤のように白と黒のタイルを敷いている。
清楚な装いを見せるこの屋敷に呼ばれ、すでに三日。
後継者を決めるための集まりであったはずなのに、私たちは消えた祖父と遺言状を探している。
主人不在のこの美しい箱から私は逃れられるのかしら。

◆3-4 清泉女子大学本館



微睡を誘うサンルームに置かれたロッキングチェアに触れ、笑みがこぼれた。
扉のむこう側には天井に届く本棚が並び、あの人が愛し没頭した知識たちが再び手に取られる日を夢見ている。
あなたの帰る場所を守るため、私はここを取り戻した。
私の作品が世界をめぐり、旅先のあなたに届くまであとどれくらい?

◆2-21 駒井家住宅



玄関へと続く大理石の階段に、部屋に設えた大理石の暖炉。
こだわりの装飾とともに徹底した実用性が垣間見えるのに、私はその屋敷が鳥籠に思えてならなかった。
柑橘の樹がならぶ小道を抜けた先には離れがひっそりと佇んでいると聞く。
探し求めていた小鳥と出会えそうな予感に私の心は密かに震えた。

◆2-17 鳩山会館



壁や柱には柏の葉を、その縁取りには唐草模様を、美しく配した建物に遠い日の記憶が揺れる。
好きだったものを詰め込んだ秘密の宝箱のような日々。
理想を求めるあまりに一度は手放したあの貴重な空間が、時を経て、再び私の前に姿を現す。
忘れ物を取りにきたと私は小さく呟いた。

◆2-14 晩香盧青淵文庫



池の水面にその姿を落とす洋館の鮮やかな白と青のコントラストに目を奪われた。
中に入れば、今夜ここに泊まるという実感がふわりとした夢見心地に呑まれて揺らぐ。
仲間はまだ誰もきていない。
天井のメダリオンから下がるシャンデリアの下、私はとっておきの秘密を彼女らに打ち明けると決めた。

◆1-19 豊平館



紺碧を背景に建つ左右非対称な白亜の洋館は、まるでゆるりと空を泳ぐ緑青の鱗を持った魚のようで。
中で迎えるステンドグラスもまた海を思わせ、私に遠い過去の漣を聴かせる。
還りたい、帰らない、変わりたい、代わりではなく。
ただの私として生きると決めてから初めて、あの海が懐かしく思えた。

◆1-35 萬翠荘



池泉回遊式の庭園で和の趣に親しみ、サンムールでは豪奢なタイル張りの床とステンドグラスの天井の間で洋の美に浸る。
かつてここで見舞われた悲劇は、すでに私の中で箱庭の物語へと昇華されていだと気づく。
穏やかな愛を得た今の私には、愛を盾に突きつける傲慢な殺意などもう凶器になり得ないのだ。

◆1-45 起雲閣



まるで立体パズルの迷路だと、外観を始め、直線が織りなす幾何学的デザインの玄関扉や格子窓、暖炉を目にして思う。
色調すら統一されたこの空間はあまりにも美しくまっすぐで、きっと彼女は迷うことすら許されなかった。
だから彼女はまろく包み込むような心の逃げ場を、今の私に求めたのだろう。

◆3-31 旧近藤邸



広大な庭園を従えているのは、八角形のドームを冠した塔屋が印象的な洋館だった。
壮麗なステンドグラスを左右に配した暖炉の部屋はいっそ聖堂のようで、罪の告白を受けるのに相応しいとすら思えてくる。
真実なんて本当は人の数だけあるのに、誰もが私に探偵と断罪の役を振ることだけは不可解だけれど。

◆1-37 旧藤田家別邸洋館



淡い色彩で縁取られたガラスの廊下を渡るさなか、切り取られた絵画のような睡蓮の池を見る。
こうして夢を織り込み作り上げられた世界に触れ、先人が残した声を拾い上げていく時、ふと、一度は喪失の危機に瀕したとしても、手段を誤らねば何かのカタチで残すことが叶うのではと、願いにも似た想いを抱く。

◆2-25 アサヒビール大山崎山荘美術館



歴史の重みを刻む回転扉に手をかけて、私は約束の場所を目指す。
至る所で姿を見せる彫刻たちの精緻さと幻想性に惑い、ダイニングで出迎えられた迦陵頻伽に息を呑む。
歌姫だった彼女の最期の願いが眠る場所。
真の安寧を捧げるために、私は彼女の過去をここで紐解く。

◆1-16 日光金谷ホテル



咲き誇るバラに彩られ、暗色の洋館が端正な面持ちで佇んでいる。
私はここで過去の精算を、叶うなら記憶の昇華を、望む。
あの日私が目撃したのは熱に浮かされて見た夢じゃないのだと、入れ子構造を取るこの館が真実すら包み隠してしまったのだと、私はもう気づいている。

◆2-15 旧古河邸



水辺に佇むその館は、内側に多くの芸術を抱いている。
なによりエントラスを抜けた先に広がる光景の壮麗さに目を見張った。
高い天井から下がるシャンデリア、大理石の円柱、そして華やかな装飾で縁取られた舞台が私に「ここへ立て」と厳かに告げてきて。
運命はすでに動き始めていたと知る。

◆2-13 大阪市中央公会堂

***

◆ちなみに今回の参考資料
・西洋建築歴史さんぽ
・日本の夢の洋館
・死ぬまでに見たい洋館の最高傑作


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