■ハサミ男

■作:殊能将之


ある一定の条件に見合った美少女に目をつけ、ゆっくりとハサミを研ぎながら犯行の機会を狙う猟奇殺人犯『ハサミ男』。

だが、半年ぶりの狩りは『偽ハサミ男』に先を越されてしまう。

当事者だけが『ニセモノ』の犯行だと知っている。

ゆえに、半ば煽られるようにして『ホンモノ』は真相の追究に乗り出した―――



20年以上前に上梓され、いまなお色褪せることのないミステリーの名作。

時折読み返したくなり、トリックを理解していてなお再読も楽しいのです。


世間で騒がれている『ハサミ男』の視点から始まる序章により、冒頭から強烈に読み手を引き込む手腕がたまりません。

饒舌な文章。

滑らかなスピード感。

何もかもが好みでした。


物語の構成として、『ハサミ男』の一人称と捜査員側の三人称によって捜査が進行していく過程も、私はこの作品が初めてだったこともあり、とても意味新鮮で斬新で大胆に感じた次第。


文章の端々で、ふとした瞬間に覚える違和感。

視点は変わるのに、登場人物の行動や思考の入り組み方によって読み手に巧みにシンクロを起こさせる表現力。

ときおり不思議な既視感を覚えさせたりと、視点の切り替えのタイミングもまた絶妙。


全てが緻密に計算され、一切の無駄がなく、まるで難解な立体パズルが少しずつカタチを成していくように構築されていく様はもはや快感ですらあります。


この手法だからこそ物語が生きてくるのだと断言したい!


そのうえで、『ハサミ男』以外にも、全てのキャラが丁寧に詳細に書き込まれているおかげで、『ラスト』がより映えるのも好き。


特に、捜査側の視点としてメインを張る青年刑事と彼の同僚たちの言葉がいいんですよ。

彼らは総じて、『いい男』であり『いい先輩』であり『いい指導者』であり。

そんな彼らと青年刑事の距離感が物語の進行に意味を持たせ、同時に、読み手は、共感し、心惹かれ、驚嘆する。


個人的趣味の範囲で言うと、『ハサミ男』を煽る『医師』の存在も、不可解で不遜で不気味でとても好み。

皮肉屋で素晴らしく頭の回転が早くて奇妙なほど思慮深く弱く強い『彼』が、夢というカタチを取って実現する対話はなにより印象深く、繰り返し読みたくなる一番好きなシーンだったりもします。


類似のトリックや構成、さらに一歩踏み込んだ作品も世の中には存在してます。

それでもなお、ファーストコンタクトの衝撃ゆえに、この『ハサミ男』は、20年以上経った今も現在進行形で格別の特別に気に入ったミステリの一冊なのです。