■大樹館の幻想
■作:乙一
その日、穂村時鳥は、自身の内側から語りかけてる胎児の声を聞いた。
彼は、炎と共に多くの謎を残して焼失した大樹館の未来を変えるために時を遡ったのだと告げる。
彼の伝える破滅の未来をなぞるように、やがて館では貴重な時間が起こりーー
*
胎児と対話しながら、使用人たる時鳥は館で起きる事件の真相を探っていく過程は、本格ミステリでありながら、幻想小説でもあり。
終始モノクロームの霞がかった幻想性をもった世界の中に漂うかのような感覚でした。
館の主人が不在のままに、主人の妻の十三回忌のディナーが始まる。
功績の美しさによって讃えられる三男や、普段は館の外に世界を持つ長男夫婦とその子供たち、次男と恋人と、物語は血縁者とその近知者に限られている事で、いっそうクローズド感を増しているのも興味深い。
世界が閉じており、閉じているからこその価値観で進行していく。
未来を知る胎児と、現在進行形で破滅の未来に進んでいる時鳥、ふたりのかけあいと推理は、微睡の中で行う思考実験、あるいは遊戯の様相で興味深いテイストなってます。
本当は何が起きていたのか。
真実はどこにあるのか?
謎が生まれ、違和感から別の謎に手が届き、また謎が絡みついてくるという不可思議性のためか、いざ真相に手がかかった時の感覚もどこか夢現に思えました。
遠のいた現実感の中、ゆらゆらと揺られるようにして二重写しの世界で事件を追う過程は、まさしく幻想。
不可思議な読後の余韻に浸る作品、この手触りに乙一を感じるのでした。
