悪魔と恋心
次元の裂け目ーー悪魔たちが行き来し、時に人を引き摺り込む異界への入り口。
私はそれを作り出せるようになった。
アレを追いかけるために、あの人を取り戻すために、私はこの力をようやくモノにした。
そしてこの日。
訪れた図書館のカフェに悪魔が姿を現した。
立ち並ぶ本棚の上に開いた次元の裂け目。
誰かを、何かを奪って立ち去ろうとしていた相手に私は駆け寄る。
私は閉じかけた次元の裂け目に思い切り両腕を突っ込み、こじあけ、体を滑り込ませた悪魔を引き摺り出すために大きくひらく。
なりふり構わず悪魔の体を抱きしめ、こちら側へと引き摺り出す。
「好き、大好き、行かないで」
捕まえるために、必死に取り押さえるために繰り返す言葉。
言霊で縛るように、心にもない口先だけの好意に似せたなにかを必死に叫ぶ。
赤と青と紫と黒のストライプのスーツに黒い蝙蝠羽の悪魔は、私に抱きつかれ、私にぶつけられる言葉に戸惑い、そして、たぶん照れた。
その仕草に、不意に自覚する。
ああ、私は本当にこの悪魔が心から好きなんだ。
私によって次元の裂け目から引き摺り出された悪魔が呆然と、でも何か言いたげにこちらを見つめるを見つめ返しながら、次のやるべきことを高速で思考し、実行に移す。
アレを追いかけ、あの人を取り戻す。
恋心を自覚しても、私がやるべきことは変わらないのだ。
さて、ここからは契約交渉の時間だ。
了
