波瑠さんがヒロイン役を演じる二宮和也主演の恋愛映画「アナログ」を観てきた。
んー、感想は…、えーと。
波瑠さん演じるヒロインは、とにかく美しい。
端正な佇まい。上品で可憐で実にチャーミング。また、古風で純朴で、それでいて、どこか影がある儚げな雰囲気をまとう。
映画の演出もカメラワークも編集も、波瑠さんの美しさをとことんまで引き出す意図に満ちている。波瑠さんの演じるワンシーン、ワンショットに、心がぐっと掴まれる。これまで観た波瑠さん出演の映画の中でも、このビジュアルは、美の極致かもしれない。
感想としては、もうそれだけで十分。
余計なことは書かない方がいい、とは思いつつ…。
率直に言って、作品全体としては、制作発表のときから予想していた通り、最初から最後まで「男」の独りよがりの妄想(理想の恋愛)に貫かれた映画。
不器用だけど誠実な男性主人公が天女のような美女のハートを射止める、という古典的な異類婚姻譚「〇〇女房」説話のパターン。美女の秘密を知ったときには、悲しい別れが待っている、という典型的なストーリー展開を踏襲しつつ、主人公の献身的な愛を強調することで、感涙を呼ぶメロドラマに仕上げようとしている。作品全体に御伽噺のようなファンタジー感が漂っているのも、ベースが御伽噺だから。
恋愛の描写もステレオタイプのオンパレード。レトロな喫茶店や海辺のシーンなど、ひたすら綺麗な映像を重ねることで、薄っぺらいイメージビデオのような印象になってしまっている。
見ていられないのは、主人公の友人との3人の恋バナ・シーン。ガールハントの首尾や苦心で盛り上がる、醜悪なホモ・ソーシャル描写がこれでもか、と続いてうんざり。
自分の恋愛相手への想いや二人の親密なやり取りは、孤独に耐えつつ、自分の胸の中だけにじっと秘めておくべきじゃないのか。男同士で気安くそれを共有するなんて、気持ち悪いこと、この上ない。
それと、主人公男性がプロポーズを決意して言う台詞、ずっと一緒にいたい、はよいとしても、幸せにしてあげたい、ってのは、一体自分は何様?男に幸せにしてもらうのが女、ってこと??
主人公は、終始自分の恋愛感情のことで頭がいっぱい。相手の言動に陰りがつきまとっているのは、すぐにでも気づくことだし、その心の霧の中に何とか入って行こうという努力があってしかるべきなのに、それがない。プロポーズの約束の日に彼女が来なければ、真っ先にその身の上を心配し、何があったのか必死に探ろうとするのが相手を思いやる態度ではないか。ところが、ふられたと勝手に思い込んで、悪友とやけ酒飲んでくだをまく、って、自分の気持ち優先でそれしか頭にない、ってこと。
先日観て感動した「マイ・エレメント」のウェイドのような、相手をよく見て、深く共感し、相手の心の中に入って行こうという態度とは雲泥の差がある。
だから、この映画では涙一粒さえこぼすことはなかった。
波瑠さんが演じたヒロインも、結局のところは「人形」という設定になっている。主体性も自律性もなく、男性の恋愛の対象としてしか作品の中に存在していない。パートナーが死んでしまったから、音楽、バイオリンを止めてしまう、というのは、男性の存在への依存性しか感じない。新しい恋をしてバイオリンを再開するってのも、女性の幸福は男次第という暗黙のメッセージになってしまっている。
でも、原作者や監督のそんな男目線の自分勝手なファンタジー作品において、波瑠さんのお芝居自体は要求されるビジョンを完璧に体現している。波瑠さん演じるヒロインの気品が、もともと退屈で凡庸な映画に、上質さやクオリティーの高さと錯覚させるオーラをまとわせている。
あと、余談だけど、作品のタイトルとなっている「アナログ」は意味不明。携帯を持たないのがアナログ???(失笑)
約束の曜日に会えるか会えないか、の二者択一の方が「デジタル」じゃない?(笑)
直接会うことがなくても、四六時中コミュニケーションが取れる、というのが現代の恋愛にとって問題だというのなら、むしろこの映画とは対極にあるような、波瑠さん主演のドラマ「#リモラブ」の方がずっと現代的な課題・テーマに沿った深い内容になってたけどな。
こんな作品でも、SNSの口コミや巷の映画評では、感動作という上々の評判を得ているようだから、波瑠さんのファンとしては、それで満足すべきかも。
でもなあ、はっきり言って、波瑠さんの無駄遣い。このヒロイン役、波瑠さんでなくてはできないお芝居だけど、でも、この映画自体としては、波瑠さんでなくても誰でもよかった役どころ、それで作品のイメージが多少劣化したとしても、そんなの知ったことじゃない(笑)。
何か良い面がないかと考えたんだけど、ま、この映画、主演俳優の人気のおかげで、上映スクリーン数とか番宣含むプロモーションの量とかは、波瑠さん主演の過去作品とかなり違う。その分、映画における波瑠さんの露出度・認知度はテレビドラマに比べて今一つだったので、この作品での波瑠さんのお芝居の素晴らしさとあいまって、波瑠さんへの良い映画作品のオファーが今後増えることに期待したいと思う。
この次は、是非主演作品で。