波瑠さん出演作という観点では、かなりマイナーな作品になるのかな。ちょっと前(2012年公開)の映画だし、それほどのヒットでも話題作という訳でもないし、何より波瑠さんがほんとに脇役で出番がかなり少ないし。

確かに旧作レビューでわざわざ取り上げるほどでもないかな、とは思う。

でも、この作品って、必ずしも出来がいいわけじゃない分、映画の作り方や考え方っていう意味では、いろいろ論点があって、素材としては面白いと思うんだよね。

 

奥田英朗の原作小説を映画化した作品で、短編のオムニバスだったものを一本にまとめている。広告代理店に勤める滝川由紀子(香里奈)が年齢の壁を意識しつつ、それでも女性としておしゃれに対する憧れをいつまでも失いたくないという、百貨店のファッション企画へのチャレンジの物語(表題作「ガール」)をメインに、不動産デベロッパーの営業課長に若くして抜擢されたキャリアウーマン・武田聖子(麻生久美子)が出世欲のないマイペースな夫に支えられながら男中心の会社組織で悪戦苦闘する姿を描くストーリー(原題「ヒロくん」)、結婚願望に見切りをつけた文具メーカーの営業ウーマン・小坂容子(吉瀬美智子)がはからずも部下のイケメン新入社員に切ない恋心を抱いてしまう話(原題「ひと回り」)、別れた夫に頼らず一人息子のために父親の役回りにまで懸命に取り組むシングルマザー・平井孝子(板谷由夏)の話(原題「ワーキング・マザー」)の四つのエピソードで構成された映画。

原作では、それぞれ独立した作品なのだが、映画では、「ガール」の由紀子と「ヒロくん」の聖子が大学の後輩と先輩、あとの二人も料理教室で知り合った友人という設定になっている。それぞれのエピソードは、別々に進行するのだが、同時並行で四人が食事などでたびたび顔を合わせ、それぞれの境遇を語り合い、各自のエピソードが対照される形。

 

まず、波瑠さん出演パートから言うと、原題「ヒロくん」のストーリーでの聖子の部下・北村裕子という若いキャリアウーマン役を演じている。仕事に対する意欲も能力もある有望な社員だけど、一緒にプロジェクトを任された先輩の中堅社員・今井(要潤)から未熟なアシスタント扱いされ、理不尽と失望・落胆を味わい、聖子に不満を訴える役どころ。映画の途中までは、短いシーンで断片的に登場するだけなんだけど、クライマックスでは聖子に応援され、聖子と一緒になって、クライアントへのプレゼンの場で横暴な今井らの鼻をあかすシーンが痛快。最初は、積極的でちょっと勝気な若手女子社員だけど、どこかおどおどした駆け出しのイメージもあったのが、プレゼンのシーンでは、当初の緊張したぎこちない様子から、聖子のバックアップにより、プレゼンの進行につれて次第に自信を取り戻し、最後は毅然とした態度で堂々と自分の考えを主張する、という流れがすごく見ごたえのある良いお芝居になっている。

特に、エピソードの最後で聖子が今井との勝負で渾身の啖呵を切った後、気持ちがたかぶって女子トイレに駆け込む場面では、カメラワークが聖子の後姿を追っていくので、あれ、これって、ひょっとして、と見ていたら、聖子がトイレの個室に入って閉めようとしたドアをバンッと手で押さえ、目を涙で一杯にうるませた波瑠さん演じる裕子が飛び込んできて、二人して抱き合って泣くというシーンが圧巻。あ、やられた。こういうのすごく弱い。不意打ちされ、一気に涙があふれてきてどうしようもなかった。

そういう意味では、このワンシーンのためだけでも見る価値のある映画かもしれない、と思った。また、撮影は2011年の6~7月頃で、セブンティーン&ロング時代後期の波瑠さんは、ビジュアル的にも本当に素晴らしく美しいし。

 

ただ、惜しむらくは、最後のワンシーンをより感動的にするために、そこに至るまでの聖子と裕子の関係は、もうちょっと深く描写してほしかった。原作では、聖子にとって裕子は、一緒に食事へ行って互いの愚痴を聞いたり、上司と部下ではあっても、次第に距離が縮まって、敵ばかりに思える会社組織の中で唯一の理解者であり、味方、というより同志という感じに描かれている。姉と妹のようなイメージかな。ところが、映画だと二人には、もうちょっと距離があって、年齢差もどこか伯母と姪ぐらいの関係に見えるのが残念。

また、さらに言うなら、原作では「ヒロくん」(聖子の夫の愛称)という題名が示す通り、女を見下している会社の男性社員と理解のある愛情深い夫とのコントラストが本来のテーマ。そのあたりは、すごく見えづらくなってしまっている。

 

他のエピソードで言うと、「ガール」は、加藤ローサ演じる百貨店の女子社員がすごくよい味を出していて、なかなか感動的。「ワーキング・マザー」もシンプルなストーリーながらしみじみした余韻がある。他方、「ひと回り」は、エピソードのプロットがいまひとつで、ちょっとめりはりにも欠けたかな。

で、考えさせられたのが、はたしてこの四つのストーリーを同時並行でひとつの作品にする必然性があったのかどうか。正直言って、話があっちこっち飛び過ぎて、一つひとつのストーリーに集中できず、いろいろなものを詰め込み過ぎ、豪華キャストの分だけかえってキャラクターの印象過多で、全体に散漫な展開になってしまったのは否めない。

 

例えば、「ヒロくん」での聖子と裕子の関係も今井と夫(ヒロくん)とのコントラストも、集中的にもっとじっくり描いた方がよかったと思う。プレゼンのシーンは原作にないもので、これは対立と解消をはっきり描く意味ではよかったのだが、逆に言うと、このクライマックスがあるから、かろうじて映画としての面白さを維持しているようにも思う。百貨店でのファッション・ショーと聖子対今井のコイントス勝負を交互に同時進行させる演出も確かにエキサイティングではあったが、何だかここだけが映画の見せ場になってしまいかねないのもどうなのか。こういう派手な演出に頼らなくても、もっと印象の強い作品が出来たのではないか。

他のエピソードも同様で、断片的な展開になった分だけテーマ訴求が中途半端になった感があり、また、「ひと回り」と「ワーキング・マザー」は話の毛色も他と微妙に違うし、テーマの近い「ガール」と「ヒロくん」の二つだけで脚本を上手く組み立てられなかったのかな、と思ったりもする。

 

映画全体のテーマとしては、現代社会における女性の生き方や悩み、葛藤みたいなものを面白い観点から切り取っていて、なかなか興味深い。映画を見ていて、何となく、女性ってきっと男性には分からない苦労があって大変そうだけど、何か女性にしか味わえない喜びや幸せってのもありそう、ああ、もし自分が生まれ変わるとしたら、一度女性になってみたいな、と思わされる感覚がある。それでもやっぱり女っていいよね、そういう感覚につながるようなメッセージをもっと強く打ち出すことはできなかったのかな。

そういう意味では、映画製作の企画としては、何だかちょっとキャスティング先行になってしまったんじゃないかという雰囲気もあり、非常にもったいない感じがする。

あと、原作と映画との相違という点では、原作のトーンが比較的さらっと乾いて軽い、エッセイ風の語り口で、ストーリーも起伏がフラット、エンディングもさりげないのに対して、映画はやはり短い時間の中でドラマチックな展開が必要になることから、どうしてもややウェットでどちらかというと重めのプロットになりがち。

 

では、原作通りのオムニバスではどうだったのか。四つの作品をばらばらに映画にして、ただ単純につなげるだけでは確かに工夫がない。それぞれの作品が共鳴・共振するような何らかの仕掛けが不可欠。映画で原作の軽いテイストを出すのも容易ではなさそう。それが難しいようなら、ひとつの話をもっと膨らませて単独作品にした方がまだよかっただろうな。

波瑠さんファンの自分としては、「ヒロくん」だけでもっと内容の濃い映画だったらなあ、と思ってしまう。何しろ波瑠さんの出演シーンが少なすぎたし、主要キャストの中で波瑠さんだけポスターに写真がないし(笑)

 

でも、よく考えたら、主要キャストの女優陣では、このとき波瑠さんが最年少なんだね。まだ二十歳になったばかりの頃でこういうお芝居が出来て、まあ、役回りとしては悪くない。

で、この登場人物の中でもう少し歳とって波瑠さんが演じるとしたら、誰がいいだろうか、なんて妄想したりして。

ストレートにはまり役になりそうなのは、板谷由夏が演じた健気なシングル・マザー役。これは波瑠さんなら鉄板だろうな。麻生久美子が演じたキャリアウーマン役も十分いけそう。加藤ローサが演じた女性社員役もいい。地味なさなぎが美しい蝶に変身するような、こういうシンデレラ的な役どころは是非一度波瑠さんのお芝居を見てみたい。逆に、香里奈や壇れいの派手でキャピキャピした役は似合いそうにない。あと、吉瀬美智子の演じた干物女みたいなのは、んー、微妙だな、難しい。見てみたいようでもあり、見たくないようでもあり(笑)

 

それにしても、たいした作品じゃないようなこと言いながら、ずいぶん長い文章になっちゃったなあ(笑)