前回の続き。

このブログに自作の絵を掲載するにあたり、出来るだけデジタル加工はしないつもりだ。発信する側、受信する側双方でいろいろな機器を通している以上、どうしたって、実物通りの色彩を見せることは出来ない。

見てくださる方のスクリーンによって、少しずつ異なる色に映っているだろう。加えて、その方の肉体と精神のフィルターを通している。それでも何かしらのエネルギーが伝わっているということを、｢いいね！｣などの反応をいただくことで確認できる喜びの大きさとお礼を、ここで申し上げたい。（長文を読んでくださることにも）

そういうわけで、実物に近づける以外の目的、特に、自分では不満足でも｢良く｣見せるための加工はしないつもりだ。

クリック一つで出来る効果は私の力ではなく、ソフトを開発した人の力だと思う。クリックは一瞬でも、ソフトを開発した人が費やした時間とエネルギー、能力、努力は膨大だろう。残念ながら、デジタルツールの精密さ、洗練された、量産のためのデザイン、日常使用のための素材は、創造した人の汗や涙や人生を感じさせない。まるで心のない機械が作ったようで、私達は金銭を払って購入するだけで、感謝の気持ちは持ちにくい。

もちろんデジタル加工を否定するのではない。私が言うまでもなく、それは多くの場合、とても有効で必要な技術だからこそ、生まれた。このブログだって、デジタル技術なしには不可能だ。

だがアートにおいては、私はまだまだ人間の手の力に、伝統的な画材に、技法に、尽きぬ可能性を感じている。なぜ私達は、未だに古代人の洞窟壁画に、中世の絵画に、未完成の絵に、こんなにも惹かれ、感動し、敬意を払うのだろう？なぜそれらを一番堅固な、芸術の宮殿である美術館に保管し、展示し、繰り返し繰り返し観賞するのだろう。彼らよりはるかに優れた画材や機器を持つ現代人が、なぜ彼らを超える絵を易々と描けないのか？

ゴッホの｢ひまわり｣の記事でも書いたが、これはいつも、私の中にある問いである。

なぜ私達は、あの酔っ払いの視野か、夢の中みたいにゆがんだ、カメラがとらえる画像とかけ離れたゴッホの絵を、こんなにも愛するのだろう？

完璧でない、しかし熟練した人間の手、コントロールしきれない自然現象の中にこそ、人間が求めるアートの力がある、と信じている。私自身がそういう力をもらっているから。

アナログで描かれた絵の中には、描いた日の天候、季節、時間、描いた者の心身の状態などが反映されている。

私が四苦八苦しながらも、水彩を好むのは、そこにコントロール出来ない水分や空気の自然現象が入るからだ。やはり自然の一部である私の眼や手が、心が感じることを描く。

機械には描けない。明日には描けない。二度と描けない。

時代遅れと言われても、頑固に不器用にアナログの力を信じ、また現代が獲得したデジタルの力をも、おずおずと、のろのろとではあるが使いっていきたい。

デジタルの世界に、アートを愛する人々が住んでいるなら。

アートは人間に見てもらうためにある。それを阻む垣根はあるべきでない、とようやくわかった。

ちなみにこの文章も、最初は紙の原稿用紙に万年筆で書いている。格好つけているわけではなく、自分の手で、ペンが紙にあたる感触を感じ、自分の字を見ながら、言葉を探しつつ書いていくリズムが、このような世界には合っていると感じるからだ。もちろん、パソコンや携帯でキーボードを打つことも日常である。スピードや正確さが優先されることには必須だ。しかし、字を書く時間も惜しむような余裕がない状態では、手で絵を描くなんて｢悠長｣なことは出来ないし、描いても納得いくものは出来ないだろう。私には字もまた、アートである。（外国人の友人と電車に乗っていた時、彼女が車内広告を見ながら、意味のわからない漢字を見て、｢絵のようね｣と言った）

私が一番使う言葉は、｢描く｣と｢書く｣かもしれない。　

前置き、というより、本ブログの基本的考えの説明になった。

それも今回、掲載する絵が例外だと理解してもらうためである。

前回、手持ちの色鉛筆３１色（実際はもっとたくさん所有しているが、敢えて古いものに限定した)で描いた絵を載せたが、それをデジタル化する際に、偶然いろいろな加工をしてみたところ、とても面白い結果が得られた。捨てるには惜しかったので、実験として見ていただきたい。

各番号の下は加工のパターン名で、私の印象を添える。

①カントリー

やわらかな初春の日差しを浴びたようなトーン。やさしく、初々しく、どこか懐かしく、儚い。遠い昔、ロシアの森で野の花を摘んでいた少女を見るようだ。｢ポエティック｣という言葉が浮かんだ。

②ノスタルジー

黄金色の光、ただし秋のもの。日本の錦秋の中に溶け込みそうだ。それは私の日本人的な色彩感覚だろう。これも過ぎた時を感じさせるトーン。

③彩度

元の絵から、コバルトブルーを取り去り、明るい色のみ強調したようだ。ピンク、黄、オレンジ、水色が映える。

④ビビッド

見たとたん、思わずギョッとした。音楽なら、最高にキーを上げた金属音が聴こえそうだ。すべての色を限界まで上げた色の氾濫。全身発光した人物。スーパールミナスと呼びたい非現実的、人工的、未来的な色彩。しかし、インド文化や中南米の原住民族は、このような色を普通に使いこなし、楽しんでいる。インドの色の祭典｢ホーリー｣の様子を見たら、わかると思う。意外にも自然の中にも、孔雀やカワセミ、玉虫などに存在している。日本の侘び寂の対極の色彩感覚で、見慣れないと感覚的に拒否反応を起こすかもしれない。

次回に続く。

（使用画材：デジタル加工ソフト）

いろイロな色 ３

いろイロな色　３