中庭。

ここは私の秘密基地。

誰にも見つからない絶好のサボリ場所。

授業に出なくても先生も周りも私を病弱だと思っているから

保健室に行ってましたと言えば深く追求もされない。

雨が降ってないからだろうか、この前まで元気だった草花がしおれて下を向いている。

私は近くの水道でバケツに水を入れ、誰もいないのを確認してから水をあげ始めた。

幼い頃から私が枯れた草花に水をやると生き返ったかのように元気になった。

親に知られ、友達に知られた時、返ってきた言葉は「気持ち悪い」だった。

幼いなりに傷ついた。

それから私は、草花に近づくのを避けてきた。

でも、枯れた草花を見過ごすことは出来ず、こうして人が来ないことを確認して

もう1度、命を吹き込んでやっていた。

「姫っ。」

「ライト!?」

「探したんだぞ?急にいなくなるから。」

「ごめん。よく校内を歩き回れたね。」

「あぁ、闇雲に動いてたわけじゃないけどな。」

「え?」

「姫の匂いを頼りに来ただけだ。」

まったく意味の分からない私を尻目にライトは続けた。

「このバラの棘で手を切ったのか。血の匂いがしたから驚いた。」

「あ、本当だ。」

「何かあったのかと思った。」

「やだなぁ、心配性なんだから。大丈夫だよ。」

「なら、いいが。綺麗だな。」

「でしょう?ここの花が1番、綺麗なの。よかったら、水あげる?」

「いや、俺は・・・」

「?」

遠慮がちにライトが近くにあったバラを触るとみるみるうちにそれは枯れてしまった。

「植物を俺が触ると、こうして枯らしてしまうんだ。」

「・・・ライト。」

「何だ?」

「これから起こること見ること誰にも言わないでね?」

「あ、あぁ。」

持っていた水の入ったバケツに手を入れて、水をかき混ぜた。

ライトは不思議そうに眺めるだけ。

それもそう、端から見れば寒空の下、水遊びをしているのも同然。

でも、違うのはここから・・・

「ライト、これで、さっきのバラに水をあげてみて?」

「だから、」

「大丈夫。ね?」

「分かった。」

先生もあの3人も我が道を行くのは止めて欲しい・・・

他の女子からの視線は痛いし、名前で指名なんてしてくれちゃうもんだから一層痛い。

これから先が思いやられる・・・。

そんな矢先の休み時間、これまで私に近づきもしなかった人が私の元にやって来ては

親しげに話しかけてきては私を取り囲んでいった。

それの変わりようは吐き気がするほど気持ち悪かった。

転校生と称した3人が目当てなのは誰の目から見ても一目瞭然だった。

このガヤガヤとした状況の中で私1人がいなくなても誰も気づきはしないと

隙を見て私は教室から抜け出した。

「フラン、どうかな?すっごく気に入ったよ、ありがとう。」

「似合ってるよ、姫ちゃん。」

「ってかよ、何だその服?」

「普通に制服だけど?これから私、学校だから。」

「そうなんだぁ~、キング。」

「勿論だよな?キング。」

「あぁ。」

「何??」

「姫は別に気にしなくっていいさ。俺達はちょっと出かけてくるから。」

「うん。いってらしゃい。」

何か良く分からない3人のアイコンタクト。

どうやら出かけるためのようだった。

時計を見るとそろそろ朝食を食べて学校へ行かなくてはいけない時間だった。

あわただしく口に食事を入れ、さっさと私は家を出た。

この家には居場所がない。

学校に行ってもそうだけど、学校は勉強をするための所だからと割り切ってしまえば何の苦にもならなかった。

「あ、ヒメちゃん。」

「おはよう。」

「知ってる??今日、転校生が来るんだって。このクラスに!!」

「そうなんだ・・・」

「理数科は1人しか転入生認めないって言う校則なのにすごいんだよ。」

「1人じゃないの?」

「3人だって、しかもハーフ?ってか外人??」

「ふーん。」

別に仲の良いわけじゃないクラスメイトに名前を呼ばれるのは何だか少し痒く感じる。

だけど、私の入学したこのクラスは学年に1クラスしかない理数科。

当然、女子生徒の数は両手で数えられる程度しかいなくて、嫌な顔すら出来るはずもなかった。

1人しか受け入れるはずのない転入生を一気に3人・・・。

余程、頭がいいのだろうか?それとも何処かの偉い人の子息だろうか。

興味のない私はそんな事を考えながら先生が教室に入ってきても

机に頬杖をついて本を読み続けていた。

「もう知ってると思うが、転入生を紹介するぞ。」

「「「わーっ」」」

「入って来い~、自己紹介をしてくれ。」

「ミルン=ライトです。」

「双子の弟のブラッド。」

「僕はね、ブッシュ=フラン。よろしくね☆」

「「きゃぁ~っ」」

「!?」

どこかで聞いたことのある名前だと思って本から顔を上げると思わず頬杖からカクンっと落ちてしまった。

教卓の前に並んでいるのは私と同じ学校の制服に身を包んでいるあの3人なのだから・・・

それにしてもライトとブラッドが双子だったとは驚いた。

「静かに、さて、お前達3人の席を決めなきゃなぁ。」

「姫の隣がいい。」

「じゃぁ、俺は後ろ。」

「僕は姫ちゃんの前~。」

「ったく、個々で食べてくれればいいのに。メンドくさいっ。」

キッチンから、トントンと野菜を切る音と共に母の文句が聞こえる。

どうやら虫の居所が悪いらしい。

こういう朝は好きじゃない。

母がこの家を出たいのも、私の事が嫌いなのも知らないわけじゃない。

だけど、それはけして良い気がするものではない。

もはや、野菜をトントンと切っている音ではなくって

包丁で叩ききっていると言った方が表現的に合っていると思う。

私はもう起きているけど、気づかれるとその火花が必ず飛んでくるのは分かりきったこと。

極力それを避けたいがために私はベットから起き上がりもせずにただ息を殺していた。

「姫、おはよう。」

「おはよう、ライト。夢じゃないんだね。」

「夢じゃないな。残念だけどな。」

「おい、お前の母親はいつもあぁなのか?」

「おはよ、ブラッド。うん、大抵はね。」

「そうか。」

「うん。」

「あれ?ところでフランは??」

「僕ならココにいるよ?おはよ、姫ちゃん。はい、コレあげる。」

「え?」

「髪留めなんだけど使って?」

「あ、ありがとう。」

受け取った髪留めは見たこともないくらい綺麗だった。

部屋を出て急いで着替え、もらった髪留めを付けてみた。

大きくもなく小さくもないそれは私の髪の上でキラリと光った。

「ご馳走様、姫。」

「え、あ。お粗末様デス。」

「ぷっ。」

「え?何?」

「いや、自分の血をお粗末なんて言うから。」

「なっ///」

「美味しかったよ。また、よろしく。」

「いつでも、どうぞ?(笑)」

「さて、寝るかな。」

「そうだね。でも、ベット1つしかないしどうしようか。」

「心配ない。フランは朝まで帰ってこないしな。」

「いや、でも大きい2人が残っ・・・・!?」

これじゃあ、寝るスペースがない。そう言おうとした口をそのまま開けっ放しにする出来事が起きた。

ライトがマントを翻すと、コウモリへと姿を変えたのだから。

「俺はヴァンパイアだからね。色々特殊な事が出来るんだよ。本とかにあるだろう?」

「う、うん。でも、あれは伝説かと思ってたから・・・」

「ま、そのうち色々見せるさ。ブラッド、起きろ!!」

「んだよ、キング。」

「姫がこのまま寝れないだろ。デッカイ図体が占領してたら。」

「ったく、めんどくせーな。」

続いてブラッドも狼へと姿を変えた。

私はただ顔を引きつらせることしか出来なかった。

そして、これがどうか夢であることを心の隅で祈りながら私も眠りに落ちたのだった。


いくら姿が私以外に見えないと言っても、やっぱり心配なわけで・・・

「妹が帰ってきたみたいだから、しばらくココにいて。」

「別に見えないんだからいいじゃないか。」

「良くない。」

「ってーかよ、ココ本当に女の部屋かよ。」

「うるさい、ブラッド。悪かったわね、汚くて。」

「ねぇねぇ、姫ちゃん。僕、お腹すいちゃった。」

「タイミング見計らってもってくるら待ってってねフラン。」

ブツブツ文句を言う3人を私の部屋に押し込んで夕食の席に付いた。

「姫、メシ。」

「!?」

「俺は一応止めたんだがな。」

「そうそう、キングと僕ね止めたんだよ。」

「はぁ・・・」

空腹を我慢するのは酷だし仕方ないと私は腹をくくった。

食欲旺盛な彼に驚きつつ私は自分の箸を止めた。

テーブルに並ぶのはいつもの3人分の夕食。

異常な減り具合はさすがに怪しまれるに決まっていると思ったからの行動。

夕食も終わってリビングに居るのも居心地が悪くて私は部屋に戻った。

「姫ちゃん、食べてなかったみたいだけど大丈夫?」

「そう言うフランだって。」

「僕は大丈夫。これから食べに行って来るから。」

「え?お金持ってるの??」

「くすくす。何言ってるの姫ちゃんったら。」

「へ?」

「僕はデビルだよ?食べるのは人の闇だよ。じゃぁ、いってきます~。」

「あ、いってらしゃい。」

”いってきます”に反応して思わず”いってらしゃい”っと返してしまったけれど

人の闇って一体なんなのだろうか・・・

それより、もう1つ気になる事があった。

「ライトは?」

「ん?」

「ごはん。」

「あぁ、俺はフランみたいに食べに行けないよ。」

「何か持って来ようか?ブラッドは満腹で寝てるし取られないよ?」

「頼みたいとこだが、」

「だが?」

「俺は人の食事が苦手でな。」

「じゃぁ、何食べるの?」

「姫、俺の自己紹介ちゃんと聞いてたか?」

「うん。」

この私の答えに深いため息を付いたライトは頭を抱えしぼり出すように言った。

「俺はヴァンパイア。要するに吸血鬼なんだ。

「えっ、じゃぁアレ事実だったの!?」

「冗談言ってどうするんだ・・・」

「って事は、ブラッドは・・・狼男でフランはホントに?」

「あぁ。」

「ライトの食事は血?」

短い沈黙の後に私は口を開いた。

「いいよ?食事しても。」

「?」

「私の血をどうぞって言ってるんだけど。」

「だがっ。」

「空腹で飢え死にされる方が迷惑だし。ただし、私を殺さない程度にね?」

「そこまで貪らないさ。」

「そう?じゃぁどうぞ?」

私が首筋を露わにするとライトは優しい目で『首からは飲めないよ。痛い思いをさせる事になる』

そう言って私の左手を取って手のひらに唇を落とすとベットに腰掛けた私に膝まづく形で血を飲んだ。

荷物を持って部屋に戻るとそこにはいるはずのない訪問者の姿が・・・

「キャ――――っ、泥棒っ!?」

「叫ぶな、喚くな、慌てるな!!」

「ひぃっ。」

「この家の主か?」

「主って言うか住んでる者だけど・・・」

「そうか、なら話が早い。」

「は?」

「俺をココに置いてくれ。」

「オイ、オイ。“俺”じゃなくて“俺ら”だろーがよ。」

「お前ら、いつ、くついって来たんだ!?」

「いつって、キングが付いて来いって言ったんだろうが。」

「キングは忘れっぽいからしょうがないよ、ブラッディー。」

「ブラディー、言うなって言ってんだろ!!」

「ちょ、ちょっと、一体何なの!?」

「おぉ、これは申し訳ない。俺はヴァンパイアのライト。」

「俺はウルフのブラッド。ブラッディーなんて呼ぶんじゃねーぞ。」

「僕はね、デビルのフラン。よろしくね。君は?」

「私は、相原 姫華(あいはら ひめか)。ってそうじゃなくって!!」

話を聞けば、目の前にいる3人はハロウィンシティっという所に通じる門を

どうしてだか通れなくなってしまったらしい。

実際、そんな場所があるのかも分からないけど、3人の落胆の仕方からいって

嘘ではないことだけは確実だった。

「私は別にいいけど・・・」

「「「けど???」」」

「親とか妹とかにばれたら。」

「それなら心配ないよ、姫ちゃん。」

「へ?」

「だって、僕たち姫ちゃんにしか見えないもの。」

「はぁぁ!?」

「分かりやすく言うと、俺らこの世界の者じゃねーから。」

背中を一筋の汗が流れた。

この世界の者じゃないって幽霊!!?

この手の話にはとことん弱いのに、目の前にいる笑顔の3人に気が遠くなった。

でも、幽霊って言うには、服装も顔立ちもあまりに華美すぎる・・・

ライトと名乗った人は、長い銀の髪を後ろで束ね外国の貴族のようだし

ブラッドはホワイトゴールドの短髪にアラビアンナイトのようで

フランは2人に比べて幼くてふわふわの金髪になんとも可愛いオーラを出している。

別にココに置いたところで何ら問題はないだろう。

私は返事2つでOKを出した。


私のは4人家族。

でも、家族と呼んでいいのか分からない。

個々にバラバラの生活。

家は、個人が寝るために帰ってくる箱に過ぎない。

両親は私が中学生の頃から会話もないし、

妹は両親から愛されて育ち私とは遠く離れた存在。

そんなあるハロウィンのことだった。

母は外の男のところへ出かけていき、妹は自分の夢の為にレッスンへ。

そんな妹を送るために父も出かけて行った。

父は妹のレッスンが終わるまで絶対に帰ってこないし、

母は日付が変わる前に帰ってきたことは1度もない。

私は幼い頃からの憧れでもあったハロウィンをやろうと前々から計画していた。

高校生にもなってハロウィンだなんて笑われるだろうか??

別にれでも構わない。

ハロウィンと言ったって、ただ少しお菓子を並べて小さく

「ハッピー・ハロウィン」と呟くだけ。

そんな中、宅配便が届いてお菓子をそのままに私は玄関に向かった。