蛇足かも・・・


Act.197『ターニングポイント』 続き妄想の続き



「ん・・・?」
温かいものに包まれて目を覚ましたキョーコは、自分が男に抱きしめられていることに気づき、ギョッとする。
「つ、つ、つ・・・。」
「ん、まだ早いよ、キョーコ。 もう少しおやすみ。」
寝起きの掠れ声の男に更に強く抱きしめられて、たまらず叫び声をあげる。
「どーなってるのーーー!!??」




「俺のもとに墜ちてきて。」
「無理です。」
「どうして?」
「どうしてって・・・。 私はもう、愛だの恋だの愚かな感情に振りまわされたくないんです。」
キョーコの拒絶に、蓮は少し身体を離した。


「愚かか・・・。 確かにそうなのかもしれないな。

君にとって不破がどれだけ大きな存在かを見せられるたび、

俺が嫉妬で何度君に嫌な思いをさせてきたかを思えば、愚かだとしか言いようがない。」
「敦賀さんが嫉妬なんて・・・」
「しないとでも思ってた? 俺はずっと不破が妬ましかったよ。 

だって、君が彼にとらわれている限りね、彼は君が唯一愛した男なんだ!

それを思い知らされるたび俺はどす黒い気持ちに支配され君にひどいことをしてしまいそうになる。 

でも理性で必死に押さえ込んできた。 君に嫌われたくないからね。 

ただ、あの夜は危なかったけど・・・。 それも君が止めてくれた。」


蓮の言葉に、思い当たったことがあったのか、キョーコは身を震わせた。


「私は敦賀さんの芝居への熱意に、演技が上手くなりたい、自分が誇れるものを持ちたいと思いました。 そのためには、愛だの恋だのって感情は必要ないんです。」
「そうかな? 役者にそれが必要だって事は俺が身を持って知っている。 

キミも目の前で見ていたはずだ。 恋の演技に苦しむ俺の姿を。 
あれは君を想う気持ちが恋愛だと気づいたからこそ救われたんだ。 

そうでなければ俺は今役者を続けていられなかったかもしれない。 

俺はあの時、君に傾ける想いをすべて美月への恋として表現した。

君から見れば不純かもしれないけど、俺は君への恋愛を利用したんだ。

だから恋の演技の出来る役者になるために俺を利用してくれても構わないと思ってる。 今はそれでもいいんだ。 君を手に入れるためなら。 いつか必ず君を本気にさせてみせる。」


「でも、でも・・・尚と約束したんです。 敦賀さんに恋をするようなことがあったら、尚の実家の旅館で一生仲居をしてやるって・・・。

私は役者を続けたいんです。 京都に戻るわけにはいかないんです。」
キョーコの言葉に蓮は大きなため息をついた。
「あれはそういうことか。・・・君は本当に騙されやすいな。 

はめられたんだよ、不破に。 そんなばかな約束なんかして・・・。」


「だから、そんな私は敦賀さんにそんなにまで言ってもらえるような人間じゃありません。 私は敦賀さんにはふさわしくない。」
「ふさわしいとかふさわしくないとかってなんだ? 愚か者になりたくない、役者として生きていきたい、そんなことを聞きたいんじゃない。

君の気持ちは? 俺の事、少しも好きだと思えない?」


切々と語りかける必死の蓮の訴えに、キョーコはたまらなくなって、涙をこぼした。
「だって、敦賀さんを好きだって、認めちゃったら私、敦賀さんの事以外何も考えられなくなっちゃう。」


キョーコの答に蓮は歓喜する。
「考えられなくなっても構わない。 その分俺が考える。 

なんでもしてあげる。 だから認めて。 俺に恋して。」
キョーコはそれでも、うつむいて首を横にふりつづける。


「恋はしたくない? じゃあ、結婚しよう! 家族になろう!! 

そうしたら恋愛じゃなくなるだろう? 

不破の実家の旅館なんかに君を渡すものか!!」


蓮の極論にキョーコは泣きながらも思わず笑ってしまう。
「そんなだだっ子みたいなこと・・・。 敦賀さんらしくないです。」


「俺らしくない、か・・・。 

俺がどんな男なのか君に一生かけて教えてあげるよ。 

国際結婚になるから、手続きが面倒なのかな? 

社長に頼めば何とかしてくれるよ。 

ああ、父や母に報告に行こう。 

君が本当の娘になるって、父は喜ぶだろうな。

きっと母も気に入ってくれる。」
「国際結婚って? 本当の娘って?」


呆然とするキョーコに、蓮は自分がアメリカ人である事、クー・ヒズリの息子であること、そして、京都で出逢って石を渡した妖精のコーンであることを話して・・・。


「クオンって呼んで、キョーコって呼ぶから。 今日から一緒に住もうね。」


蓮がそう言った頃には、驚きの連続に話を理解するという能力が追い付かず、キョーコは気を失ったのだった。




そして翌朝の男と女。
「ゆうべ、話しているうちに目を回して意識を無くしたんだよ。 だから、ベッドに運んだの。」
「そ、れは、お手数とご迷惑をおかけいたしまして・・・ってどうして一緒に寝てるんですか!?」
「どうしてって・・・結婚するんだし、一緒に暮らそうってことにしたでしょ?」
「すみません・・・覚えがないんですが・・・。 というかだからって一緒に寝るなんて破廉恥すぎます!!」
「大丈夫まだなにもしていないから。 無理やりどうこうする気はないよ。

でもこれだけは受け入れて。 俺と君とのファーストキスだ。」


まだまだ蓮の言う事には納得できないし、言いなりになるつもりはない。 
けれど、蓮の生い立ちや、苦悩を知って、なによりあのコーンだという事実が、キョーコの胸の奥底の鍵を完全に壊してしまっていた。


キョーコは蓮の常と違う綺麗な色の眼をみつめてから、そっと眼をとじた。


                       FIN