タイミングを逸して感想書き損ねたんですが、

続き生んじゃいました。

書きたいことが書けなかったですが

よかったらご覧くださいませませ。




Act.197『ターニングポイント』 続き妄想



あの夜から、俺は充ち足りた、いや、ある意味では満たされない日々を過ごしていた。


カインとセツでいる限り、一緒に眠り、ところかまわず手を繋ぎ、抱きしめ、膝に乗せ、寄り添う。
時間があればデートをして、まるで恋人のようにふるまう。
彼女を常に傍に感じるせいか、闇を演じながらも、己の闇にのまれることは、以来、無い。
おかげで撮影は順調に終えることができそうだ。


だが問題は別のところにあった。


『敦賀蓮』が『最上キョーコ』に避けられているという大問題が・・・。


『トラジックマーカー』優先とはいえ、俺も彼女も、週に数回別の仕事が入っている。
社長の指示で、なるべくスケジュールを合わせるようにしてもらっているし、俺だけ仕事の時は彼女も学校や事務所へ行くことになっている。
だから毎回ほぼ同時に着替えに入っているというのに、気がつくと彼女の方が常に先に居なくなっている。
ついでに送ろうかと思っても、あっという間に消えているのだ。


カインとセツは毎日のように密着しているというのに、敦賀蓮は最上キョーコに逢えないという矛盾に満ちているのだ。
このままでは、カインとセツでなくなると同時に、下手をすると、相当の努力をしないと彼女に逢えないという日々がはじまってしまう。


セツである彼女との距離に慣れた俺がそれに耐えられるだろうか・・・?


俺は一計を案じて、ミス・ジェリー・ウッズに協力を依頼した。


映画のクランクアップの前に、俺の出番は終わり、何事もなければもうカイン・ヒールという俳優はそのまま消える。 
おそるおそるスタッフが渡してくれた花束を彼女に渡し、労をねぎらう。
ホテルの部屋はすでに引き払い、荷物は駐車場のメイク用の車に移動済みだ。


「兄さん、お疲れ様。すごくかっこよかった。」
セツからカインへの最後の言葉。
「お前のおかげだ。ありがとう。」
そして、カインとセツの最後の抱擁。


このあと、必ず君をつかまえる。


ミス・ウッズに頼んだのは、彼女の足どめと身軽に逃げられないようにしてもらう事。


目論見どおりに大きな荷物を手に車から降りた彼女の手首をしっかりと掴み、それと同時に叫ばれないように反対の手で口をふさぐ。
「最上さん? 今日は逃がさないからね。 手を離しても叫ばないって約束できる?」
耳元で囁くとぶんぶんと必死に首を縦に振る彼女。
そんなしぐさも可愛くてつい笑みがこぼれる。


「蓮、お前なあ、キョーコちゃん怯えてるじゃないか。やりすぎだぞ。」
「やしろさーん・・・。」
涙目で社さんに助けを求める彼女の声に少しムッとする。
「ああ、よしよし。 キョーコちゃん蓮のおもり、お疲れ様。 ありがとうね。」
「おもりじゃなくておまもりですよ。」
社さんの間違いに棘を含ませて訂正する。


「おもりで間違ってないと思うなあ。 でね、これ、俺からキョーコちゃんへのねぎらいとお礼の気持ち。 たぶん蓮も映画の打ち上げとかにも出られないと思うから、これで二人で打ち上げして。」
社さんから彼女と俺に渡されたのは、まだ温かい料亭の弁当とケーキショップの紙箱とワイン。
「や、でも、あの、私は・・・。」
「ありがとうございます。 さあ、行こうか。」
社さんからの差し入れと、彼女の荷物と彼女を車に詰め込むと、手を振る社さんに頭を下げて運転席にのりこむ。
向かう先は俺のマンション。 バックミラー越しに社さんの満面の笑顔が見えた。
あの、にやにや笑いと、社長ご贔屓の料亭の弁当。
内緒でと頼んだはずなのに、ミス・ウッズから間違いなく社長にも社さんにももれているな。


「俺の事、避けてるよね。」

せっかく社さんが用意してくれたのだからと、とりあえず表面上は穏やかに食事を済ませたけれど、そのあとはずっと下ばかり向いている彼女に、少し苛立ちを含ませて声をかける。
「ち、ちがっ・・・!」
慌てて顔をあげた彼女が、俺の顔を見てハッとしたと同時に真っ赤になる。
「あ、あの、わたし・・・」
うろたえて逃げ腰になる彼女を追い詰める。
「あの夜のせい?」


「すみません!」
「何に謝ってるのかな?」
これ以上ないくらいに顔を真っ赤に染めて、眼をうるませている彼女が少し可哀そうになる。
「あの夜の事なら、緊急避難みたいなものだから。 俺の失態を君がカバーしてくれたんだよね。 俺はすごく、本当に感謝している。 だから、お互いに忘れよう。」
あからさまにホッとする彼女。


ゆるんだ警戒に俺はやすやすと彼女を抱きしめる。
「な、なにを・・・」
「今のは嘘。 忘れられるわけがない。 あの夜俺は最初から最後までカインじゃなかった。」
眼を瞠る彼女にうなずいた。
「そう、君に反撃をくらって、カインの顔をとりつくろってはいたけれど、あれはカインじゃない。 本当の俺は敦賀蓮みたいな男じゃない。 カインと、いやむしろBJとリンクするような男だ。  あの夜の俺は、本当の俺。 そしてあの夜の言葉もカインがセツに誓ったんじゃない。 俺が君に誓ったものだ。 君が俺を見ていてくれるならずっと君の俺で生きる。」
「そんな・・・どうして・・・」
「君が好きだ。 不破に挑発されたくらいで取り乱して芝居をふっ飛ばすほど、君が好きだよ。」
「うそ・・・」
「嘘じゃない。 最初は気に入らなくて、でも気になって。 君のひたむきさに触れて、どんどん惹かれて。 カインとセツとして触れ合って。 幸せになっちゃいけないと思っていたのに、すごく幸せで。 こんな気持ちは初めてで・・・もう君を放すことなんてできない。 だから・・・」


俺は彼女の眼を見つめてうったえる。


「俺のもとに墜ちてきて。」


                 FIN