『成人式取材レポート』


このお話は、とあるレポーターの女性の一人称でお送りします。


今日は成人式。

大手事務所などで開かれる記者会見のはしごで一日取材陣は忙しい。
いつもは朝一番に開かれるはずのLMEの記者会見は今年は何故か夜。
あちこち行かなければならないから、各社の時間がずれるのはありがたいことなのだけれど、いつもと違うのには何か理由があるのか、それともあの『ものすごく個性的な』宝田社長の気まぐれなのか・・・。



LMEの新成人は5人、男性2人と女性が3人。

中でも歌手の松内瑠璃子が目玉だが、実力派の京子の晴れ着姿も逃すわけにはいかない。
京子はデビュー直後は『DARK MOON』の未緒や『BOX-R』のナツなど、イジメ役として悪い女のイメージが強かったが、演じる役柄によりさまざまに変化する容姿は、どれも美しく、演技にも定評がある。
礼儀正しくて、スタッフや私たち取材陣にも気配りのできる、とても感じのいい娘だ。
着物姿も見たことがあるけれど、姿勢や立ち居振る舞いが美しい。

今日はどんな姿を見せてくれるのか、取材陣の中でも楽しみにしている者は多い。



「お待たせいたしました。」
取材用のスペースに現われたスーツ姿の男性社員が、注意を惹く。
「本日の取材に関してお願いがいくつかございます。 混乱する恐れがありますので、取材の順番は入室する順番にお願いします。」
まあ、後で編集するのはOKなようだから、その辺は気にならない。
「今回特別におまけが一人付いてきますが、彼に関しては取材はお断りいたします。 いないものとして無視していただきたい。」
彼って事は男ね。男2人と女3人だから、バランスをとって誰かにエスコートが付くのかしら。
「この2点必ず厳守お願いします。守っていただけない場合は今後のLMEでの取材は難しくなるとお考え下さい。」
おどしなの!? 
私たちの戸惑いは新成人たちが入室した瞬間、驚きに変わった。


松内瑠璃子を筆頭に振袖姿の女性とスーツ姿の男性が交互に入室し、最後の京子の後に蕩けるような微笑を浮かべた敦賀蓮が現れたからだ。
なぜ彼がこの場に? 
今年この中の誰かが出る映画の主役とか?
不思議なことに彼以外の5人は微妙に笑顔がひきつっている。
訊きたいけれど、さっき脅されるように釘をさされたばかりだ。
ちらちらと彼に視線を送りつつ、松内瑠璃子にマイクを向けるしかない。


くじで決まった代表がお祝いの言葉を皮切りに、入室した順番に新成人になった感想や抱負をきいていく。
会見が始まると先ほどひきつった笑いを浮かべていた彼女や彼たちも心からの笑顔になって、それぞれの気持ちや未来像を話してくれた。


最後に京子の番になる。
「お酒の飲める年齢になりました。さて、誰とどんなお酒を飲みたいですか?」
「誕生日の後に、モ・・・琴南奏江さんと一緒にちょっとだけいただいたお酒がとっても美味しかったのでまた彼女と楽しいお酒を飲みに行きたいです。」


「そう言えば京子さんはお誕生日がクリスマスでしたね。20歳になって最初に何をしましたか?」
「え、最初に?」
うれしそうにこたえてくれていた京子の顔が一気に真っ赤になり、困ったようにうろうろさせた眼がほんの一瞬ちらりと敦賀蓮を見た。


これって・・・。
私以外にも数人が気づいたようで、敦賀蓮に眼をやる。
彼はずっと微笑んだまま、そっとたたずんでいるだけだ。


「えっと、パーティの最中でしたので、みなさんにおめでとうを言っていただいて、乾杯しました。」
表情を立てなおした京子が先ほどの動揺などなかったかのように、にこやかに続ける。


「京子さんは今までにいろんなドラマや映画に出演されてきましたけど、まだ恋愛物には出ていらっしゃいませんよね。大人になったということで、濃厚なシーンのある役柄とかもオファーがあるかもしれませんが、どうですか?」
「えっと、私、実は恋愛ってちょっと敬遠してるとこがありまして、こんな色気もない小娘のそういうシーンってたぶん見ていて楽しくないと思いますので、オファーはこないんじゃないかなって思います。」
「色気がないなんて!誰がそんなことを!? 京子さんのラブストーリーぜひ見てみたいです!」
「ありがとうございます。」


「相手役に敦賀さんとか、どうですか?」
これなら、彼に向けての取材ではないはずだ。
どだい、この存在感のありすぎる男を無視してくれと言われても無理がある。
「無理です!! 絶対にお断りしますぅ!!」


先ほどの頬を染めた京子をもう一度見たいと思って振った質問に、顔を蒼ざめさせもの凄い勢いで拒絶する京子にただ一人以外、全員が唖然とした。
「ひどいなあ、俺と一緒がそんなに嫌なの?」


そのただ一人、敦賀蓮は腕組みをほどきながらキラキラした笑顔で京子に近づいていく。
怯えたように京子が退こうとしたが、他の4人が京子を敦賀蓮に向かって押し出した。
「ごめんね、京子。私たちまだ敦賀さんに睨まれたくないの。」
「ひどいよ!瑠璃子ちゃん!」


「さて、取材はもう終わりですよね。行こうか京子。」
敦賀蓮が京子を捕まえる。
「京子って、さっきまで最上さんだったじゃないですか。」
「京子は京子でしょ。キョーコでもいいけど。まず、クリスマスの夜の続きをしようか。俺と付き合ってくれるよね?」


敦賀蓮の唐突な発言に、私たちはカメラを向けることさえ忘れていた。
「こ!こんな取材のみなさんのいるとこで何言ってるんですか!! 

あの、違います、これは罰ゲームっていうか、敦賀さんがふざけてて、だから付き合うとか嘘なんです。」
「ひどいな、ずっと告白し続けてるのに。いい機会だからみなさんに俺の片想いを知ってもらって、応援してもらいたいって思って何が悪いんだ。」
「悪いに決まってるじゃないですか! 私みたいなのと付き合ったら世間的にも敦賀さんに傷が付きます!」


「付きますか?」
敦賀蓮は呆然と成り行きを眺めているしかなかった私たちに向き直った。
「俺と彼女が付き合ったり結婚したりすることは、何か不自然なことや不都合なことがあると思いますか?」
敦賀蓮の眼は真剣だった。
おそらく、彼との格差を感じる京子がそれを理由に断り続けているのだろう。


確かに今現在の日本では敦賀蓮は人気実力ともにトップ俳優で、そういう点では京子はまだまだだけれども、男と女として見た場合、容姿、実力、人柄、どれをとってもお似合いだとしか言いようがない。


誰かがパチパチと手を叩いた。それが、あっという間に広がって、驚いた顔をした京子と満足そうな顔に変わった敦賀蓮に向けられる。


「おめでとうございます。」
誰かが放った言葉に敦賀蓮は苦笑する。
「まだ早いですよ。残念でしたね、になるかもしれませんしね・・・。」
そのあと、敦賀蓮はさっと表情を引き締めて、
「このあとの展開は気になるところでしょうが、二人きりで話しあいたいので、この場は失礼します。 

瑠璃子ちゃんたちも、せっかくの成人式の晴れ舞台を申し訳なかったね。」
と、協力した後輩たちにも頭を下げ、
「俺たちの顛末は後日みなさんには優先的にお話したいと思います。ですから、この場の取材は成人式のみだったということでお願いします。」
最後にゾッとするような鋭い目で圧力をかけることも忘れない。


この件については事務所側からもお願いしますと最初に注意を呼び掛けた男性社員が声を張り上げる。


頬を染めて眼をうるませている京子をエスコートして退出する敦賀蓮が、扉の所で私たちを振り返って深く深く頭を下げた。
「バックアップどうもありがとうございました。 一縷の望みがつながりました。」
敦賀蓮のこんなにうれしそうな顔を見たのははじめてだったけれど、京子のあの様子ではきっとこれから何度も見られることだろう。



さて、この二人の「いい話」どうやってまとめようか。OKが出たらすぐに動けるように今のうちにどこを取材するか、対策を練らないと。幸いこのあとは帰るだけだから・・・・・ん?


・・・・・もしかして。
例年と違うLMEの時間変更はこのためだったの?
なにがバックアップありがとうございました、よ。
どんだけ会社ぐるみで「ご支援」受けてんのよ、あの男は。
ここまでして取材陣まで味方につけないと京子の一人も口説き落とせないの?
抱かれたい男ナンバーワンも、とんだヘタレだわね。
ふふ。そんなアプローチの取材も面白いかもしれない。


今年も一年いい年になりそう。


☆☆☆☆☆
テレビで成人式の話題を、キョーコの成人式だったら、蓮が振袖とか買っちゃいそうだなあ、とか思いながら見ていて、仕事そっちのけで一気に書いてしまいました。仕事やばいです!


そういえば、うちの娘も来年成人式だよ。
もち、レンタルの予定だけれども。

呉服屋さんのおばさんが厚かましくてしつこいのでとても困っています。