7、キョーコ


「そう言えば、お嬢様。 先日蓮さんをお見かけしましたよ。」
一緒に豆の皮をむきながら、家政婦さんがふいにそんなことを言い出した。


「どこでですか?」
「こちらからの帰りに、ちょっと寄り道をしたんですけど、ホテルのロビーでおきれいなお嬢さんとご一緒でした。 そのあとすぐに、仲よくエレベーターに乗っていかれましたが、すごくお似合いの様子でしたよ。あんなにかっこいい方ですもの、恋人の一人や二人おかしくありませんよね。」


お母様と同じ年頃の家政婦さんは、話好きでとても気のいい人なのだけれど、私と蓮の事は兄妹だと思っているらしい。


私は、曖昧に微笑むしかできなくて・・・。
でも、すごく胸が痛かった。
その数日前、学校で同じような話を聞いたばかりだったから。


学校ではほとんどの人が話してくれなくなっていたけれど、アンチ尚の真面目な何人かは人目がなければ少しは私と会話らしきものを交わしてくれる。
飛鷹くんもその中の一人だった。


「保津の家にさ、蓮って男の人がいるだろ? あの人ってなんで保津姓じゃないの?」
「その辺は、引き取られた時小さかったからよく分からないけど・・・。どうして?」
「うちの親の会社、保津のとこと取引があるんだけど、親父がすごく蓮って人のこと気に入っててさ、姉ちゃんの旦那に欲しいって猛プッシュ中なんだよ。 商談にかこつけてデート画策したりさ。 俺長男だけど会社継ぐ気がないからさ、蓮って人がうちに入ってくれるとすげー助かるんだよね。 俺が言うのもなんだけど、うちの姉ちゃん美人だし優しいし超お勧め品だから、よかったら保津からも、蓮って人にアピールしといてくれよ。」


その時も、私は曖昧に微笑むしかできなかった。