5、キョーコ


きっかけは何だったろう?
高校で、不破尚に声をかけられたのは。
保津家の娘だと知って、興味を引かれたのだと。


尚は学年一有名人だった。
綺麗な顔と高い身長、校則をモノともせず金髪に染めた髪。
蓮ほどではないけれど、確かにかっこいい。


男の子にアプローチされる事に慣れていなかった私は、ちょっとだけぽぉっとしてしまった。

それから、事あるごとに尚は話しかけてくれたけれど、ことごとく趣味や興味が対極だわ、と思ってからは、あまり仲良くならないように気をつけた。


でも、それが彼の熱狂的なファンの女子には、腹立たしかったらしい。
「何さまのつもり? だいたい尚が本気であんたに声かけたわけないじゃないの。 いい気にならないでよね。 尚はあんたの家に興味があるの。 あんたにじゃない。 だいたい養女だっていうんだから、どこの生まれだかわかったもんじゃない。 尚とは釣り合わないのよ。 そんなこともわからないの?」


私はいつの間にか学校内で孤立していた。
多人数から一方的に行われる精神的なイジメ。
それには当事者である尚も例外ではなかった。
学校に行っても、先生以外誰とも話さない、そんな日々が続いていた。


でも、じいやさんとばあやさんが引退して、お母様と二人でおうちの事をするのはとても楽しかった。
お父様や蓮のために、帰ってきてくつろげる家にしましょう、とお母様と家事に励んだ。


その頃には、もうお母様も蓮を後継者に、私の夫にと承諾してくれていた。
「でも、あの子はまだまだ勉強しなきゃならないことがいっぱいあるから、蓮にはもう少し内緒ね。」
そう言ってお母様はいたずらっぽく笑った。


「せめてキョーコが高校を卒業するまでは言わないでおきましょ。 結婚はもう少し先になるでしょうけど、結婚式には私にウエディングケーキを作らせてね。」