4、蓮


じいやさんが腰痛をひどくして仕事ができなくなったことを機に、

もう充分働いてもらったからこれからはばあやさんと二人でゆったりした老後を過ごして、と奥様が二人を看護付き老人ホームへ送り出した。 


この別れは全員にとって、喜ばしいものであった。
使用人が二人もいなくなり、俺も会社の仕事にシフトしてしまっていたから、通いの家政婦を雇うことになったが、奥様は仕事をセーブして彼女と一緒に家事をすることが楽しくて仕方ないようだった。



けれど、その状況が一変した。
奥様が事故で亡くなられたのだ。



その日は奥様が会長を辞めて完全に家に入るために、久しぶりに出勤した日だった。
最後ということで有志が送別会として、奥様を囲んで夕食会を催したのだったが、その帰り、タクシーで帰る途中飲酒運転のトラックに突っ込まれてしまったのだ。
ほぼ即死だった。


その一報を聞いた時、俺は旦那様と社長室で打ち合わせ中だったのだが、聞いた途端に貧血を起こした旦那様に付き添うのがやっとで、彼女の事にまで気が回らなかった。


その後も、旦那様の代わりに葬儀の打ち合わせや社内の仕事の代行などで、彼女と顔を合わせたのは通夜の席になってしまった。
魂が抜け落ちたような旦那様の傍で、彼女は必死に旦那様を支えて、娘としての立場を全うしていた。
だから、思いのほかしっかりした彼女の姿に、俺は安心してしまったのだ。



葬儀を終え、やっと旦那様は通常モードに復活した。

まだちょっと淋しさややりきれなさはぬぐい切れなかったが、それも当然の事だと思う。
数年、使用人としてではあったが、同じ家で家族のように接していただけの俺でさえ、奥様を失ったことは大きな衝撃だった。
まして、長年愛しんできた妻を亡くした夫の気持ちは想像に余りある。


俺は旦那様のサポートをしなければという義務感でいっぱいで、彼女も旦那様と同じくらいに傷ついているということを失念してしまっていた。